
自社車両の一定割合の電動化が義務付けられるモビリティ指針法(LOM法)
自宅でも外出先でも、電気自動車(EV)の充電コストが一目瞭然に。
社員が社用車のEVをどこで充電したとしても、その詳細が雇用主に自動で報告される仕組みを提供するのが、フランス・ニームに拠点を置くスタートアップ「Load Stations(ロード・ステーションズ)」です。
この企業は、フランス経済誌『Challenges』が選出した「2025年に投資すべきスタートアップ100社」にも選出されており、企業と従業員、そして充電インフラ業者の三者にとってメリットのあるサービスを展開しています。
EVシフトが進む中での課題
2019年に制定された「モビリティ指針法(LOM法)」により、フランス企業は自社車両の一定割合を徐々に電動化していくことが法的に求められています。
しかし、実際の運用面では多くの課題が残されています。特に、自宅での充電を想定した設備投資に対して、企業側は慎重です。なぜなら、社員の離職や契約終了時に「設置した充電設備は誰のものか?」という問題が発生するためです。
一方で、従業員側も不満を抱えています。実際、EVの充電の約80%は自宅で行われていますが、その費用を社員が自腹で負担することに納得していないのです。企業も社員も納得できる解決策が求められていました。
元エネルギー企業出身者が立ち上げたソリューション
このジレンマを解消すべく、元ヴィンチ・エナジーズ社の幹部であるヴィルジル・アレーヌ氏(43歳)とポール・フラトリ氏(28歳)の2人が立ち上がりました。彼らは、あらゆるタイプの充電ポイントを一元管理できるソフトウェアの開発に乗り出しました。
Load Stationsのソリューションは、自宅の通常のコンセントに専用機器を接続することにより「スマート化」し、公共の高速充電スタンドと同様にエネルギー使用量を正確に記録・管理できるようにするものです。どこでどれだけ充電したかが明確になり、その分だけを企業側が負担する、いわば「使用量ベースの請求」が可能になります。
「これによって経費精算の手間が大幅に削減されますし、企業にとっても専用充電器の設置に比較して10分の1のコストで済むのです」と、ヴィルジル・アレーヌ氏は説明します。
自宅も外出先も、すべて管理可能に
自宅用には、Load Stationsが提供する小型の接続ボックスを使用することで、一般的なコンセントをスマート化し、従来の高価な充電器と同等の管理機能を持たせることができます。
また、外出時の充電にも対応しています。高速道路や市街地の公共充電スタンドでの利用には、Load Stationsのモバイルアプリと専用充電カードを用います。
これにより、ヨーロッパ全体にある40万か所以上の充電ポイントへのアクセスが可能になります。どこで充電しても、その記録はすべて一元的に管理され、企業への請求に反映されるのです。
収益モデルと成長性
Load Stationsの主な収益源は2つあります。まず一つは充電ごとの手数料で、これは平均で10%程度(顧客ごとの公共充電ポイント数により変動)です。もう一つは、ソフトウェアのライセンス使用料で、公共充電ポイント1か所あたり月額5〜20ユーロ(利用オプションやボリュームによって異なります)が課金されます。
このソフトウェアはすでに複数の大手企業で導入が進んでおり、たとえばエネルギー大手のアンジー社やブイグ・エナジーズ社などが活用しています。さらに、社会住宅を運営する「グループ3F」といった団体も駐車場への充電設備設置が義務づけられていることから、Load Stationsを導入しています。
公共充電設備の運営者にも導入が進んでおり、例えば南仏オクシタニー地方の「Révéo(レヴェオ)」や、パリのオフィス街「クール・ドゥファンス」の地下駐車場を運営する「Indigo(インディゴ)」などが挙げられます。
収益化も順調、将来は海外展開へ
Load Stationsはすでに黒字化を達成しており、2025年には売上高が640万ユーロ(日本円換算で約10億円)に達する見込みです。そのうち70%はすでに確保されている案件です。
同社は2022年10月、南仏の都市ニームにて設立されました。設立当初は地元のインキュベーター「Bic Innov’Up」に支援されていましたが、現在では「CleanTech Vallée(クリーンテック・ヴァレ)」という、環境技術産業の発展を目的とした地域団体、さらにモンペリエ発の技術振興プロジェクト「MédVallée(メドヴァレ)」の支援も受けています。
2024年2月には、ビジネスエンジェルやクレディ・アグリコル銀行、フランス公的投資銀行Bpifranceから合計120万ユーロ(約2億円)の資金調達に成功しました。
次なる目標:さらなる成長と国際展開
現在、創業者たちは追加で200万ユーロ(約3億3,000万円)の資金調達を目指しています。その目的は、国内外での事業拡大、営業チームの採用強化、そして市場認知度の向上にあります。
特に国際展開においては、フランス国内で培ったノウハウを他国の市場にも応用できると確信しており、早期の海外進出も視野に入れています。
社員にとっても企業にとっても、そして環境にとっても有益なEV充電の透明化。Load Stationsはその実現に向けて、着実に前進を続けています。
