分岐点に立つフランス農業:EU・メルコスール協定を前に高まる危機感

EUと南米の自由貿易協定が最終段階に入り、フランス農家に深い不安が広がっています。ワイン産地の抗議、政府が求める条件、食料主権を巡る課題など、今後1か月で着地点を見つけられるのでしょうか?

EUと南米の自由貿易協定が最終段階に突入

フランスの農業が、いま大きな分岐点に立たされています。
原因の中心にあるのは、EUと南米4か国(メルコスール)との自由貿易協定(FTA)です。
12月20日にブラジルで最終調整が予定されており、農家たちは「あと1か月しかない」と緊張を高めています。
農業団体は、これがフランス農業の存続に関わる問題だと訴え、各地で抗議の声が上がっています。

※メルコスールとは
ブラジル・アルゼンチン・ウルグアイ・パラグアイが参加する、南米の経済共同体です。
この協定は、国どうしで関税(輸入の税金)を小さくし、自由に取引できるようにする仕組みですが、フランスの農家にとっては、不利な状況に追い込まれるデメリットが多い内容となっています。
協定は12月20日の合意へ向けて最終調整中であり、農家たちは「残された時間はわずか」と危機感を募らせています。

南フランス・ベジエで起きた大規模デモ

11月15日、ラングドック地方のベジエで、数千人のワイン生産者が抗議デモを行いました。この町は、1907年に歴史的なワイン農家の反乱が始まった場所でもあり、象徴性の高い土地です。

ワイン農家が声を上げる理由とは

火種となったマクロン大統領の発言

フランス政府がEUに求める“3つの条件”

「学校給食にフランス産を」協同組合代表の提案

フランスの農家の未来は?

今年の2月に(フランスの農業の現状と課題)で書いたように、国際農業見本市の開催後、フランソワ バイルー首相が農業を最優先課題に掲げ、政府は国内農業を守る姿勢を示した。メルコスールとの自由貿易協定についても、フランス側が強硬な反対姿勢を取り始め、農家の間には期待が生まれていた。しかし3月に発表された農民保護政策は、9月に内閣が総辞職することで、実施される前に消えてしまった。これはバイルー元首相の失策ではなく、議会で過半数を持たない少数政権であったことが最大の理由だ。法案、とりわけ予算関連の採決が通らないため首相交代が続いており、2024年以降だけで五人目となった。

バイルー氏の後任となったセバスチャン・ルクルヌ首相は、就任からわずか一か月で辞任を申し出た。本格的に予算審議が始まる前から、野党は内容を確認する前の段階で否決の姿勢を示していた。取り組んでも結果が変わらないと判断したとしても不思議ではない。その後、代わりの候補が見つからず、マクロン大統領の説得により再び就任したものの、再提出した2026年度予算案はすでに下院で否決されている。今回は辞任ではなく解任の可能性が取り沙汰されている。首相になりたがる政治家が出てこないのも当然と言えるだろう。野党は首相を次々と退陣に追い込みながらも、自ら政権を担おうとはしていない。今の状況で首相に就任すれば短命に終わり、支持を失うことが分かっているからだ。そのため具体的な対案を出さず、提案にはただ反対し、与党の崩壊を待ちながら、2027年の総選挙の準備に全力を注いでいる様子だ。

ただし国民が無関心なわけではない。フランス人は政治について議論することを好み、納得できなければ大規模なストを行う。マクロン大統領の辞任を求める声が広がりながらも国民投票を望む声が強くないのは、右派と左派のどちらが政権を取っても政治的対立が激化し、国がさらに混乱することを理解しているからだ。右派と左派は水と油でどちらの主張も極端すぎる。現状の中道派を与党として挟んだ無難なバランスが、最悪の事態を避けるためのぎりぎりの状態だととらえる人が多い。

フランスは個人主義の国だと言われるが、その気質は政治の仕組みにも表れている。連立で政策を固める文化が弱く、ドイツやオランダのように長期的な協力体制を築く枠組みが根付いていない。これは制度というより国民性に近く、急に変わることはほとんど期待できない。このような国で少数政権が機能するわけがない。フランス第五共和制は大統領が国民議会の多数派という前提に設計された制度で、現在の混乱は、単なる政局不安ではなく、制度そのものが持つ構造的な弱点が表面化した結果だ。しかし、憲法改正には非常に高いハードルがあり、第六共和制の必要論は以前から議論されていたものの、現実味は薄いと見られてきた。柔軟性と速度、そしてグローバルな政治が求められる現代に第五共和制は無理があると指摘されているが、誰がそれに終止符を打てるかだ。

こうした異常な政権交代の連続によって政策の多くは宙に浮いたままで、国民生活にも影響が出ている。賃金は伸びず、政府は財政赤字を抱えたまま税負担は重くなり、物価も上がり続けている。生活費を抑えようとする中で、海外の低価格品に目が向くのは仕方のないことだ。実際にフランスの電子商取引ではSHEINやTEMUといった中国発のオンラインプラットフォームが急速に存在感を高めている。オンライン衣料品の分野では確実にシェアが拡大しており、国内産業や消費者保護の観点から規制強化の議論が進んでいる。政府は少額輸入品への免税措置の見直しや低価格衣料への課税に踏み出し、業界団体からはサイト閉鎖を求める声も上がるようになった。

その一方で、輸入農産物の関税撤廃については前向きに進めようとしている。農業は犠牲になってもいいのかという声もあがっているが、背景には、環境問題を巡る対立もある。エコロジー政党の存在感が増し、環境を取るか農業を取るかという選択を迫られている。両立させるにも、まさに気候変動の壁が立ちはだかり、簡単に解決する問題ではない。具体的な問題のひとつは、水の取り合いだ。

フランスの環境団体やエコロジー政党の一部は、集約型農業が環境破壊の主要な要因だと強調し、農業団体と頻繁に衝突している。大型灌漑設備に対する抗議活動などでは、暴力的で過激な行動が報じられたこともある。気候変動が世界的な優先課題となっているなか、環境破壊という言葉を出されると反論するのは困難だ。それにしても、過激派の環境団体の人々は、野菜も肉も穀物も食べないのだろうか。あるいは粗放型農業だけで、国内の消費需要を賄えると信じているのだろうか。遠い南米から食糧を輸送するためのCO2の排出量は、環境破壊には含まれないのだろうか… 

ぼくも環境問題には大いに興味があるけど、環境団体やエコロジー政党の主張はどうも現実的ではない気がする。農薬や化学肥料が環境を汚染しているということであれば同意するが、フランスでは既に限界近くまで規制されているし、水の使用は雨水だけ、その雨水さえも貯めてはならないという主張にはさすがに無理がある。更に違和感を感じるのはその抗議のしかただ。ルーブルの美術品にペンキやスープをかけたりする過激派の抗議活動に至っては怒りしか感じない。芸術作品に環境問題に対するどういう責任があるのだろう? ただ注目を集めたいだけだとしたら、それこそ環境破壊だ。むしろ環境保護を真剣に考える人たちの努力を損なっているように思えてならない。

そもそも輸入品に依存すれば問題が解決するわけではない。もし南米産の肉や野菜が安価に大量に流入すれば、国内農家は数年もたずに市場から姿を消すだろう。衣料品がその例を示している。かつてはフランス製の服が一般的だったが、今やフランス製の普段着のブランドというものは殆ど存在しない。多くのフランス人がザラやユニクロ、SHEINやTEMUなど海外製のファストファッションを着ているからだ。高級ブランドが存続できているのは観光客と海外への輸出需要があるからで、国内消費に支えられているわけではない。農産物には観光客による需要も国外での価格競争力もなく、もし崩壊が始まればドミノのように農産物を巡る多くの職業が失われてしまうだろう。そうなれば農村の経済活動、ひいては地域社会そのものが衰退する。

2027年までに新しい指導者が現れて国を立て直すことを期待する声もある。しかし農業にはそれほどの時間が残されていない。ロシアによる脅威がEU域内に広がる中で、フランスが食料供給を遠い地域に依存することは大きなリスクになる。ウクライナからの穀物供給が途絶えかけた時、欧州を救ったのはフランスの生産力だった。その記憶がわずか数年で薄れつつあることに驚くと同時に、長期的なビジョンに対する疑問を感じてしまう。国家にとって最も重要なものが何かを見失えば、取り返しのつかない事態に陥る。たとえ政治が混乱していても、守るべき根幹が揺らいではならない。

Parisrobot Talks

パリロボのひとりごと

画像出典:本記事内の画像は、生成AIを用いて制作したオリジナル画像であり、第三者の著作権を侵害するものではありません。

記事をシェアしましょう。