
AIで地方自治体の公共施設を守る保険支援プラットフォーム
近年、地球温暖化や気候変動による異常気象が頻発し、フランス国内の多くの自治体がその被害を受けています。特に公共施設に対する保険の確保が難しくなっていることが大きな課題となっています。こうした問題に取り組むべく誕生したのが、スタートアップ「Localia(ロカリア)」です。
Localiaは、人工知能(AI)を活用して地方自治体のリスク分析を行い、公共施設の保険契約を支援するサービスを提供しています。このサービスにより、自治体は保険会社との交渉力を高め、将来的な損害を最小限に抑える手立てを講じることが可能になります。
この革新的な取り組みが評価され、Localiaはフランスの経済誌『Challenges』が選出する「2025年に投資すべきスタートアップ100社」にも選ばれました。
保険に入れない自治体が続出、背景に「保険空白地帯」の拡大
フランス上院の財政委員会が発表した最新の報告によると、多くの地方自治体が公共施設の保険に関して深刻な問題を抱えています。保険料の高騰に加え、自然災害の増加により、保険会社がリスクを恐れて契約を打ち切る事例が増えているのです。
実際に2024年には、1,500のフランスの自治体が公共建物に対する保険契約を失い、そのうちの5%は保険そのものを諦めざるを得なくなりました。保険市場が萎縮するなか、こうしたリスクに正面から向き合い、的確に対応するための知識やノウハウが自治体には不足しているという現実があります。
Localiaの共同創業者であるアンジェリック・デュランさん(28歳、名門ENSウルム出身)は、「自治体が自らのリスクを把握できておらず、入札時の資料すら満足に作れない状況では、保険会社としても安心して契約できません」と語ります。この市場の規模は2025年時点で25億ユーロ(約4,000億円)に達すると見込まれています。
AIを活用したリスク診断レポートで自治体を支援
Localiaの最大の特徴は、AIを活用して地方自治体のリスクを可視化する「自動診断レポート」です。このレポートは、フランス政府や公共機関が公開している数百万件にもおよぶデータ(環境移行省、財務総局、フランス地理院、地籍情報、CEREMAなど)を統合して作成されます。
このリスク診断は、単に災害リスクを洗い出すだけでなく、入札書類の作成や保険会社との交渉資料としても活用でき、自治体が自立的に保険加入を進める大きな助けとなります。
サービス形態と料金体系:1人あたり1ユーロの明朗価格
Localiaは、このAI診断を「リスクマネージャー」として提供するだけでなく、保険の「代理店業務(ブローカー)」も展開しています。サービスの料金は、自治体の住民1人あたり1ユーロ(約160円)というシンプルな従量課金制で、追加サービスとして定額制のプレミアムプランも用意されています。
すでに、ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏、ブロワ市、ベチューヌ市(パ=ド=カレー県)、ポワティエ市などがLocaliaのサービスを導入しています。
保険代理業も展開、保険料の10〜20%を収益化
Localiaは、AIで診断したリスク情報を基に、保険代理業も同時に行っています。ここでは、保険契約が成立した際の保険料の10〜20%を手数料として受け取る仕組みです。なお、保険を直接管理する場合と、保険会社に再委託する場合とで手数料の比率が異なります。
この保険代理業で得たデータも、診断ツールのさらなる強化につながるため、事業全体の競争力向上に役立っています。
初年度売上4万ユーロ、次なる成長フェーズへ
Localiaは、創業から1年足らずで売上高4万ユーロ(約640万円)を達成しています。資金調達面ではすでに、フランスの公的機関Bpifranceから3万ユーロ(約480万円)、イル=ド=フランス地域圏からも3万ユーロを獲得済みです。
現在は、さらなる成長を目指して100万ユーロ(約1億6,000万円)の資金調達を進行中です。この資金は、AI診断ツールの改善、リスク管理機能の強化、技術インフラの拡充、そしてフランス全土から欧州市場への展開に活用される予定です。
企業情報
- 企業名:Localia(ロカリア)
- 設立:2024年4月
- 創業者:アンジェリック・デュラン氏(ENS Ulm卒)、テオ・カネラ氏(Sciences Po Paris卒)、いずれも28歳
- 所在地:フランス(Sciences Po Parisインキュベーターに所属)
- 技術内容:AIを用いた公共施設のリスク診断レポート生成ツール。公共データを統合・分析。
- 主な用途:地方自治体の公共施設に対する保険加入支援およびリスク管理
- 現在の状況:複数自治体に導入済。売上高は4万ユーロ(約640万円)
- 商業化の進行状況:保険代理業務も展開。データを活用して診断精度を向上中
- 目標資金調達額:100万ユーロ(約1億6,000万円)
- ターゲット顧客:フランス国内および今後は欧州の地方自治体
- 想定ユーザー:自治体の保険担当者、危機管理部門
- 対象市場:2025年時点で推定25億ユーロ(約4,000億円)の市場規模
- 売上見通し:短期的にはフランス全国、長期的には欧州市場の拡大を見込む
