
既存のガソリン・ディーゼル車に電動モーターを搭載してEV化
業務用車両の電動化が急務となる中、フランス・リヨン近郊のスタートアップ「CirculaCar(サーキュラカー)」は、既存のガソリン車やディーゼル車のエンジンを電動モーターに交換する「レトロフィット(電動化改造)」の分野で注目を集めています。
創業者であるエドゥアール・ニコレイ氏とジョフレ・ポーウェルス氏は、この分野で最初の挑戦者というわけではありませんが、自社でフランス国内生産を行う低コストかつ高機能なバッテリーと、それを活用した柔軟な電動化キットによって、他社との差別化に成功しています。
CirculaCarは、経済誌『Challenges』が選出する「2025年に投資すべきスタートアップ100社」にも選ばれており、業界の最前線を走る存在となっています。
電動化は義務、でも新車導入は高すぎる
フランスでは環境規制が強化されており、企業は保有車両の一部を電動化することが義務づけられています。これを怠れば罰則が科せられるため、対応は急務です。しかし、全車両を一気に新型EVへ買い替えるとなれば、莫大なコストがかかります。特に高価な特殊車両や業務用車両を保有する企業にとっては、「今ある車両をいかに延命するか」が切実な課題です。
CirculaCarの共同創業者であるエドゥアール・ニコレイ氏は、「既存のガソリン・ディーゼル車に電動モーターを搭載することで、コストを抑えながら環境対応を実現できます。市場規模は非常に大きい」と語ります。彼自身はKEDGEビジネススクール出身で、ラグビー選手としての経歴も持つ営業畑の人物です。
彼が注目するのは、ゴミ収集車や清掃車、農業用トラクター、空港で使用される航空機用けん引車、そして職人が使用する商用バンといった産業用車両です。これらは新車価格が高く、かつ耐用年数も長いため、エンジン部分だけを交換して延命させるレトロフィットが最適なのです。
自社開発バッテリーで差別化に成功
CirculaCarが他の電動化スタートアップと異なるのは、バッテリーを自社で開発・製造している点にあります。同社のバッテリーは、フランス北部のルイッツ(Ruitz)という町にある工場で組み立てられています。このバッテリーは48ボルト仕様で、小型かつ扱いやすく、堅牢性にも優れており、修理も可能な構造になっています。
さらに、同社が独自に開発したバッテリー制御ソフトウェアとの組み合わせにより、さまざまな車両に柔軟に対応できる「モジュール型電動化キット」を提供しています。つまり、必要に応じてバッテリーを複数台搭載し、モーターの出力を調整することで、小型車から大型特殊車両まで幅広く対応できるのです。
この柔軟性により、たった12週間でカスタム仕様のプロトタイプ車両を納入することが可能となっており、迅速な導入を求める企業ニーズに応えています。
価格帯は1,500ユーロから、導入障壁を低く
CirculaCarの電動化キットは、導入する車両の規模や目的に応じて価格帯が異なります。最も小型のキットは1,500ユーロ(約24万円)から提供されており、大型特殊車両向けには最大で10万ユーロ(約1,600万円)程度となっています。
この価格設定の柔軟さとモジュール構造の技術的優位性が評価され、2024年2月にはフランスの大手電力会社EDFが主催する「EDF Pulse オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ賞」を受賞しました。
同社は、電動化キットの販売だけでなく、車両メーカーや企業に対して技術的なアドバイスやコンサルティングも行っており、その事業領域は広がりつつあります。
すでに資金調達済み、さらに拡大へ
CirculaCarは2023年、フランス公的投資銀行Bpifranceと複数のビジネスエンジェル(Mov’Ntec MobilityやKEDGE BS Participationsなど)から、合計60万ユーロ(約1億円)の資金調達を実施しました。
現在、同社は追加で100万ユーロ(約1億6,000万円)の資金調達を目指しています。この資金は主に、営業チームの拡充と、同社の技術やサービスをより多くの企業に認知してもらうための広報活動に充てられる予定です。
2024年は、電動化を実施する車両台数を倍増させる計画も進行中です。すでに多くの企業や自治体が関心を示しており、今後の成長が大いに期待されています。
フランスから世界へ – 循環型モビリティの推進を
CirculaCarのビジョンは、「新車を作って廃車を増やすのではなく、既存車両を活用して持続可能なモビリティ社会を実現すること」にあります。自動車産業におけるサーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行が求められる今、同社のレトロフィット事業は、その鍵を握る存在になりつつあります。
自社開発のバッテリー、迅速なプロトタイプ開発、柔軟な価格体系 – CirculaCarは、急成長中のEV市場の中でも特にニッチでありながら社会的意義の高い分野に挑戦しています。そしてその技術と情熱は、やがてフランス国内にとどまらず、ヨーロッパ、さらには世界中へと広がっていくことでしょう。
