Star Seeker
アジアがクルーズ業界の新たな主戦場に
現在、クルーズ業界で最も注目すべきトレンドは、アジア市場への大規模なシフトです。国際クルーズライン協会(CLIA)の報告によると、アジア・オセアニア地域のクルーズ乗客数は2023年の360万人から2024年には406万人へと急増しており、その需要はとどまるところを知りません。
この旺盛な需要に応えるため、カーニバル・クルーズ・ライン、ハパグロイド・クルーズ、エクスプローラ・ジャーニーズといった主要なクルーズ会社が、2027年以降に最新の船舶と新しい航路を次々とアジアへ投入する計画を発表しています。これらはほんの一例に過ぎず、業界全体でアジアへの関心が高まっていることを示しています。
この動きの重要性について、エクスプローラ・ジャーニーズ社のアンナ・ナッシュ氏は次のように語っています。
「アジアへの進出は、私たちのブランドとお客様にとって画期的な瞬間です。これは、私たちの視野を広げ続けたいという野心だけでなく、この素晴らしい地域の文化的な豊かさと自然の美しさに対する深い敬意を反映しています。」
「大型船」だけじゃない!小規模港へのアクセスが新たな価値に
メディアの注目は巨大なメガシップに集まりがちですが、その裏では小型船を活用してユニークな目的地を目指すという、逆のトレンドも力強く成長しています。この動きを象徴するのが、ウィンドスター・クルーズ社の新しいヨット「スター・シーカー」です。
この船の最大の強みは、そのコンパクトなサイズにあります。大型船ではアクセス不可能な港や、川を遡って都市の中心部に直接接岸することが可能です。具体的には、ベトナムのホーチミンやタイのバンコクといった都市に直接ドッキングしたり、一部の小型船しか訪れることのできないタイの秘島クッド島に寄港したりします。
これは、画一的になりがちな大型船の旅では得られない、より深く、個人的な体験を求める旅行者のニーズに応える動きです。混雑した巨大港を避け、よりプライベートで特別な体験を求める旅行者にとって、新しい価値を提供しています。
文化体験が主役へ:桜から芸妓ショーまで
現代のクルーズ旅行は、単なる観光地巡りから、その土地の文化に深く浸る「体験型」へと進化しています。クルーズ会社は、寄港地の文化的な魅力を最大限に引き出す旅程を積極的に企画しています。
例えば、ハパグロイド・クルーズ社やエクスプローラ・ジャーニーズ社は、日本の桜の開花時期に合わせて航路を設定。また、エクスプローラ・ジャーニーズ社は2028年の旧正月の祝祭期間に合わせたアジアクルーズを計画しています。
さらに、日本の金沢港では、寄港する船内で芸妓のショーや和太鼓の演奏会を手配するなど、港側も文化体験の提供に力を入れています。
このトレンドは、旅行者が受動的な観光ではなく、記憶に残る能動的な体験を求めていることの表れです。


港も進化中!見えないインフラ投資が旅行体験を変える
クルーズ体験の質を支えているのは、船だけではありません。乗客の目には触れにくい港湾インフラもまた、業界の成長を支えるために大規模な進化を遂げています。
その代表例が、SATS-Creuers Cruise Services社がシンガポールのマリーナベイ・クルーズセンター・シンガポール(MBCCS)で実施した4000万ドル規模の改修プロジェクトです。新しいチェックインホールや改良された地上交通エリア、事前の手荷物預かりサービスなどが導入され、乗客の体験は格段にスムーズになりました。
また、日本では2024年1月の能登半島地震で被害を受けた金沢港の東水埠頭が完全復旧し、2026年にはクルーズ船の寄港数が10%増加すると見込まれています。こうした『見えない』投資こそが、業界の野心的な成長計画を支え、顧客満足度とリピート率を向上させるための必須条件となっているのです。
クルーズだけじゃない!フェリー旅行も静かなブームに
最後に紹介する意外なトレンドは、クルーズ船に限らない「船旅」全体の人気拡大です。特に、地中海地域ではフェリー旅行の需要が静かなブームとなっています。
フェリー予約プラットフォーム「Ferryhopper」のデータによると、2025年夏の地中海におけるフェリー需要は、前年比で英国人観光客が20%以上、米国人観光客が15%も増加しました。
この成長を牽引しているのは、イタリア(特にサルデーニャ島とコルシカ島)やクロアチアといった目的地です。これは、画一的なパッケージツアーを避け、自分のペースで島々を巡るような、より自由で独立した旅を求める旅行者の増加を反映しています。特にコストパフォーマンスや柔軟性を重視する層からの支持が厚いと考えられます。
「移動手段」から、「総合的な旅行プラットフォーム」へ
これらのトレンドは、クルーズ業界が単なる「移動手段」から、目的地や体験そのものを深く提供する「総合的な旅行プラットフォーム」へと進化していることを示唆しています。アジアという新たな主戦場、体験の多様化、そしてそれを支えるインフラの高度化は、すべてこの大きな潮流の一部なのです。
変わり続ける船の旅、あなたの次の目的地はどこになりますか?