
ワクチン用の抗原を安定化させる植物由来のナノ粒子
Lutèce Dynamics(リュテス・ダイナミクス)は、生物細胞を壊さずに長期間観察できる新しい顕微鏡技術を開発したスタートアップです。この技術により、医薬品開発におけるコスト削減や環境負荷の軽減が可能となり、製薬業界に新たなイノベーションをもたらすと期待されています。
同社は、フランスの経済誌『Challenges』が選出する「2025年に投資すべきスタートアップ100社」に名を連ねており、その技術力とビジネス展開のポテンシャルが高く評価されています。
創業メンバーは光学研究のエキスパートたち
Lutèce Dynamicsの技術は、光学の専門家であるオリヴィエ・トゥヴナン氏(33歳)とケイト・グリーヴ氏(44歳)による長年の研究成果から生まれました。二人は以前から共同でスタートアップを立ち上げていた経験もあり、信頼関係の強いコンビです。
そこに加わったのが、同じく光学研究者であるテュアル・モンフォール氏(35歳)とサシャ・ライシュマン氏(46歳)です。そして2024年8月、研究成果を事業化するために「Lutèce Dynamics」が誕生しました。
このチームを率いるのは、若き起業家サルヴァトーレ・アッツォリーニ氏(28歳)。彼は光学の博士号を持ち、フランスの技術移転支援賞「iPhD」の受賞歴もある人物で、研究とビジネスの架け橋となるリーダーとして期待されています。
顕微鏡観察の常識を覆す技術
現在、細胞の観察に広く使われているのは「蛍光顕微鏡(fluorescence microscopy)」ですが、これは観察対象の細胞を徐々に傷つけてしまうという欠点があります。一度しか観察できず、繰り返し測定するためには大量のサンプルが必要となり、時間もコストもかかります。
これに対して、Lutèce Dynamicsの技術は、細胞にダメージを与えることなく、最大で2カ月間も同じサンプルを連続観察することができます。これにより、薬の効果や毒性を長期間にわたって一貫してモニタリングできるのです。
「従来の方法と比べて、使用するサンプルの量を約90%削減できます。これは、時間やお金の節約だけでなく、研究活動が環境に与える影響の軽減にもつながります」と、サルヴァトーレ・アッツォリーニ氏は説明しています。
3DイメージングとAI解析という大きな差別化
Lutèce Dynamicsのもうひとつの大きな特長は、「三次元画像(3Dイメージ)」を提供できる点です。現在、同様の技術を開発している競合は3社存在しますが、3D観察機能を有しているのはLutèce Dynamicsだけです。
また、パリにある二つの一流研究機関—ランジュバン研究所(Institut Langevin)と視覚研究所(Institut de la Vision)—の支援を受けており、アカデミックな裏付けの強さも大きな信頼要素となっています。
さらに、同社が開発したモジュールは非常にコンパクトな設計で、既存のどの顕微鏡にも取り付けることが可能です。これにより、顧客は新しい装置を購入する必要がなく、導入コストを大幅に削減できます。画像解析にはAIを活用したソフトウェアも付属しており、データ処理の効率化も図られています。
初の製品は2024年6月に発売開始予定
Lutèce Dynamicsは、2024年6月からの製品販売開始を目指しています。まずは大学や研究機関などの基礎研究用ラボをターゲットとし、その後は新薬の前臨床・臨床試験を行う製薬企業への展開を見込んでいます。
現在、同社は100万ユーロ(約1億6千万円)の資金調達を進めており、その用途は以下のとおりです:
- 初期製品の製造資金
- ソフトウェア開発担当のエンジニアの採用
- 顧客開拓を担当する営業人材の採用
研究成果をいち早く市場に届けるべく、スタートアップとしては極めてスピーディな展開を目指しています。
製薬業界の未来を変える可能性
Lutèce Dynamicsの技術は、単に細胞を「見る」ためのツールではなく、医薬品開発のプロセスそのものを変革する可能性を秘めています。これまでに必要だった多量の試薬や動物実験の数を大幅に削減し、持続可能な研究開発体制の構築にも寄与します。
また、AIによる解析技術との融合により、「人間の目」では気づかない微細な変化を検出することも可能になりつつあり、創薬における意思決定の精度を高めると期待されています。
