なぜビデオ会議は私たちの脳を疲れさせるのか

背景画像が引き起こす「見えない認知負荷」の正体

「Zoom疲れ」と呼ばれる現象の正体

職場でのオンライン会議、大学のリモート講義、友人とのビデオ通話、遠く離れた家族との顔合わせ。ビデオ会議は、もはや特別な手段ではなく、日常のコミュニケーション基盤となりました。
しかし多くの人が、「会議の内容よりも、終わった後の疲労感が強く残る」と感じています。その原因は、単なる長時間の画面視聴だけではありません。近年の研究では、ビデオ会議に映る“背景”そのものが、脳を疲れさせている可能性が指摘されています。

「Zoom疲れ」は気のせいではない

ビデオ会議が本格的に普及したのは、2020年の新型コロナウイルス感染拡大以降です。それ以前にも遠隔会議は存在していましたが、日常的に使われる場面は限られていました。ところがパンデミックをきっかけに、仕事・教育・私生活のあらゆる場面でビデオ会議が急速に浸透します。

フランス国立統計経済研究所(Insee)の調査によると、2023年以降もフランスでは約19%の労働者が週に少なくとも1回以上テレワークやビデオ会議を行っているとされています。つまり、健康危機が収束した後も、この働き方は恒常化したのです。

その一方で注目されるようになったのが、「ビデオ会議疲労(videoconferencing fatigue)」という現象です。これは単なる肉体的疲労ではなく、以下のような複合的な影響を含みます。

・画面に映る自分の表情や姿を常に意識し続ける心理的緊張
・対面よりも情報量が少ない中で相手の反応を読み取ろうとする認知的負荷
・通信遅延や音声トラブルへの無意識の警戒
・会議中に他の作業を並行して行うことによる注意資源の分散

これらが積み重なることで、会議後に強い消耗感が残るのです。

背景が「疲れ」を左右する理由

近年、この疲労感にビデオ会議の背景が関係しているという研究結果が相次いで発表されています。

2023年9月、英国ダラム大学の研究チームは、167人の被験者を対象に興味深い実験を行いました。参加者は、見知らぬ人物がビデオ会議に登場する様子を見て、その人物の「信頼性」や「能力」を評価します。条件として、登場人物の背後には6種類の背景が設定されました。

具体的には、通常のリビングルーム、ぼかしたリビング、図書館風の背景、棚に植物が置かれた背景、無地の白背景、そして氷上のアザラシなどの独創的な画像です。

結果は明確でした。図書館や植物のある背景は、最も知的で信頼できる印象を与えた一方で、私生活が見えるリビングルームや奇抜な画像は、「落ち着きがない」「軽率そう」という評価につながりやすかったのです。

特に就職面接や業務上の重要な会議では、背景が無意識の評価基準として働く可能性が高いことが示されました。

私たちの脳は「ぼかし」を嫌う

さらに踏み込んだ研究を行ったのが、シンガポールのナンヤン工科大学です。研究チームは、Microsoft Teams、Zoom、Google Meetなどで使われる仮想背景やぼかし効果に注目しました。

22歳から76歳までの約600人を対象に、週に平均3日在宅勤務を行っている参加者が、さまざまな背景条件のビデオ会議に参加する実験が行われました。背景は、静止画像、動画背景、ぼかし背景、実際の部屋など複数パターンです。

結果として最も疲労を引き起こしたのは、**動きのある背景(動画背景)**でした。年齢や性別に関係なく、認知的・精神的な疲労スコアが高くなったのです。次に疲労を引き起こしたのが、ぼかし背景でした。

研究者によると、人間の脳は環境内の変化や不明瞭な情報を無意識に補完しようとします。動画背景は常に変化し続けるため、脳は「重要かどうかわからない情報」を処理し続けてしまいます。また、ぼかし背景も同様に、「何があるのか」を把握しようとして不要な認知エネルギーを消費します。

つまり、背景が“気にならない”ことこそが、脳にとって最も省エネルギーな状態なのです。

ビデオ会議に最適な背景とは何か

これらの研究結果を総合すると、ビデオ会議における理想的な背景の条件が見えてきます。重要なのは、「印象の良さ」と「認知負荷の低さ」を同時に満たすことです。

まず基本となるのは、静止した背景であることです。動画や動きのある要素は避け、視覚的変化を最小限に抑えます。次に、自然の要素を取り入れた背景が有効とされています。山や森、柔らかな自然光を感じさせる風景は、心理的な緊張を和らげる効果が確認されています。

また、本棚や観葉植物が映る背景は、プロフェッショナルかつ落ち着いた印象を与えやすく、実際に評価実験でも好結果を示しています。重要なのは、情報量が多すぎず、意味を解釈する必要がない構成であることです。

避けたほうがよい背景の共通点

反対に、疲労や誤解を招きやすい背景にも共通点があります。最も注意すべきなのは、背景を強くぼかす設定です。一見、生活感を隠せて便利に思えますが、脳はぼやけた情報を補完しようとし、結果として疲労を増幅させます。

また、リビングルームや私的空間がそのまま映る背景は、場の性質によっては集中を妨げる要因になります。さらに、ユーモアを狙った奇抜な画像やファンタジックな背景は、話の内容よりも背景に注意が向いてしまい、コミュニケーションの質を下げてしまう可能性があります。

背景以外にできる、脳を守る工夫

背景の工夫に加えて、ビデオ会議による疲労を軽減するために有効な対策もあります。

例えば、会議アプリを常にフルスクリーン表示にしないことで、視野に入る刺激量を抑えることができます。また、自分自身の映像を非表示にする設定も効果的です。常に自分の表情を監視し続ける状態は、対面以上に感情的エネルギーを消費します。

これらは小さな調整ですが、長時間・高頻度のビデオ会議が続く現代においては、無視できない差を生みます。

「見えない負荷」を減らすという発想

ビデオ会議による疲労は、意志の弱さや集中力不足ではありません。脳が本来持つ情報処理の仕組みと、デジタル環境が必ずしも噛み合っていないことが原因です。

背景は単なる装飾ではなく、無意識に脳へ影響を与える環境要因です。静かで意味を持たない背景を選ぶことは、相手への配慮であると同時に、自分自身の認知資源を守る行為でもあります。

ビデオ会議がこれからも続く以上、「どう映るか」だけでなく、「脳にどう作用するか」という視点が、より重要になっていくでしょう。

画像出典:本記事内の画像は、生成AIを用いて制作したオリジナル画像であり、第三者の著作権を侵害するものではありません。

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