駅の喧騒から離れた小さな部屋が生まれた理由
パリ東駅の片隅に、従来の駅のイメージからは想像できない静寂の空間が登場しました。自閉症スペクトラム障害や強い感覚過敏のある人が、移動の途中で安心して休めるようつくられた「静かな空間」です。SNCFは2025年5月にその実証実験を開始し、公共交通のアクセシビリティを大きく前進させる取り組みとして注目を集めています。
背景には、2024年に政府が策定した「自閉症と鉄道交通に関する基本方針」があります。バリアフリーは段差や視覚障害者への配慮だけでは不十分であり、音・光・人混みに敏感な人にとっても利用しやすい環境が必要だという考えが、鉄道政策の中心に据えられ始めています。
なぜ音や光が「つらい」のか
自閉スペクトラム症とアスペルガーの感覚特性
自閉スペクトラム症(ASD)やアスペルガー症候群と呼ばれてきた人々の多くは、周囲からの刺激を過剰に感じ取ります。これは本人の「性格」ではなく、神経系の処理の仕組みに起因します。
感覚過敏の典型例として次が挙げられます。
突然のアナウンスや反響音が痛みのように感じられる
照明のちらつきや強い光に圧倒されやすい
人の動きや視覚情報が多い場所では頭が混乱しやすい
複数の刺激を同時に処理できず、疲労や不安が一気に高まる
研究によれば、脳内の感覚フィルターが刺激をうまく調整できず、不要な情報が一度に押し寄せることが原因と考えられています。そのため駅のような場所は「情報の洪水」となり、移動そのものが困難になることも珍しくありません。
SNCF Réseau のアクセシビリティ担当エロディ・アンドリオ氏は「駅を誰もが安心して歩ける空間にするには、身体のバリアだけでなく、心の負担を軽減する取り組みが欠かせません」と語ります。駅の喧騒を軽減し、落ち着ける場所を提供することは、ユニバーサルデザインの進化における重要な要素です。
7平方メートルの小部屋に詰め込まれた工夫
「静かな空間」はわずか7平方メートルですが、内部には専門知識をもとにした工夫が凝縮されています。設計にはフランス企業 Hoptoys が協力し、医療現場でも使われる「スヌーズレン(鎮静環境)」の手法が取り入れられています。
主な特徴は以下の通りです。
目にやさしい柔らかな間接照明
星空を投影する天井
ゆっくり色が変わるバブルタワー
包まれるような卵形リラックスチェア
触れることで安心感を得られる感覚パネル
利用は最大3人までで、1回あたり2時間以内。移動中に心を落ち着けるための「小さな避難所」として機能します。
支援団体が語る意義
自閉症や知的障害のある人を支援する団体「ヴァンセンヌの白い蝶たち」の教育専門家セバスチャン・ボンデュー氏は、長年の公共交通バリアフリーが身体的障害の側面に偏っていた点を指摘します。
「精神面や感覚面の困難は、見過ごされてきました。静かな空間は、単なる休憩所ではなく、大人が自信を持って公共空間に参加するための入り口です」
この評価は、駅の利用への心理的ハードルを下げ、社会参加の機会を広げるという意味で大きな意義を持ちます。
誰でも使える「開かれた設計」
当日有効の乗車券または Navigo パスがあれば誰でも利用でき、障害者手帳の提示は不要です。外見からは分からない症状が多いという現実を踏まえ、必要なときにすぐ利用できる設計になっています。
不安障害・パニック発作・偏頭痛・感覚過敏など診断の有無に関係なく利用できる点は、アクセシビリティ(心のアクセス)の観点から非常に重要です。
駅という公共空間の未来
2025年12月時点で、この取り組みは高く評価され、今後フランスの主要駅にも展開される予定です。SNCFは音環境の改善、案内表示の最適化、混雑時のサポート強化など、心理的負担を軽減する取り組みを加速させています。
欧州の空港や商業施設でもクワイエットルームの導入が進み、公共空間のデザインに「刺激を減らす」という視点が広がりつつあります。
駅は単なる交通の中継点ではなく、人々が安心して移動できる社会の基盤です。「静かな空間」はその未来を示す象徴的プロジェクトと言えます。
SNCF(フランスの国有鉄道)は、ストがあったり電車が遅れたりと、日本のJRなどと比べるとお世辞にも優秀な鉄道とは言い難い。
ただフランスには、日本の新幹線と速度を競うTGV(フランスの高速鉄道)があるし、TGVのプレミアムブランドである InOuiには、Nendoの佐藤さんとコラボした車両があったり(さすがNendoがデザインしただけあって、すごくモダンで素敵な車両なんだ、これは別に記事にするね)、いろいろと工夫をしているのが楽しい。車両の外観や内装に凝ったりするところは、他の国々より日本と感覚が近い気がする。
その中でも、今回の「静かな空間」の設置は地味かもしれないけれど、優しくて画期的な工夫だと思う。パリには複数のTGVの発着駅があり、南仏(リヨン、マルセイユ、ニース、アヴィニョン)方面へ向かうGare de Lyon(リヨン駅)、西仏(レンヌ、ナント、ボルドー、ブレスト)方面へ向かうGare Montparnasse(モンパルナス駅)、北東仏(ストラスブール、ナンシー、メッス)、ドイツ方面へ向かうGare de l’Est(東駅)、ベルギー、イギリス方面へ向かうGare du Nord(北駅)、ノルマンディー地方(ルーアン、カーン)方面へ向かうGare Saint-Lazare(サン・ラザール駅)、オーヴェルニュ地方(クレルモン=フェランなど)へ向かうGare de Bercy(ベルシー駅)とたくさんの駅があるけど、どこも建物がドーム状になっているせいか、反響音が大きい気がする。
今回「静かな空間」が設置された東駅は、他の駅に比較するとこぢんまりとしているほうだけど、それでもやはり人の往来は多いし、電車の発着のベルが常に鳴り響いている。感覚過敏の人にとって大きな駅というのはいつだってストレスが大きな場所だよね。
個人的な話になるけど、僕も髄膜腫という病気を持っていて、大きな音がすると偏頭痛が始まってしまったり、人が多すぎる場所では目眩がしたり呼吸が苦しくなったりする。乗り物は大好きだし、実際にTGVを使う機会も多いんだけど、もしも駅で具合が悪くなってしまったらどうしようという不安がいつもあって、動悸が速くなってしまう。だから自閉症や感覚過敏者のひとたちが旅行する時のハードルの高さは痛いほどわかる。各国でバリアフリーの施設が増えてきて、ハンディキャップがある人たちへの気遣いが広まってきているのは素晴らしいことだけど、自閉症や感覚過敏者のひとたちのことまで考慮してくれる場所というのは、まだあまり存在しないのが現状だと思う。
この「静かな空間」はほんのはじまりだけど、そういう非難場所があることを知っているだけで、かなり精神的に助けられるから、旅行が不安という人に安心感を与えてくれるだけでも効果は大きいと思う。これから他の駅にも設置されていくということだけど、他の施設にも、街のあちらこちらにそういった静かな避難場所があったら、いろいろな意味で繊細なひとたちが生きやすい世界になるね。設置場所が増えたらまたお知らせするけれど、大きな音や人混みが辛い人は、パリの東駅に「静かな空間」があることを覚えておいてね。
パリロボのひとりごと
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