
牡蠣やムール貝、ホタテの殻を、建築や家具に使える新素材に
フランス・ブルターニュ地方発、海の貝殻から生まれた低炭素素材。牡蠣やムール貝、ホタテの殻をアップサイクルし、建築や家具に使える新素材を開発したスタートアップ「Ostrea(オストレア)」は、今、循環型社会を象徴する企業として注目を集めています。
その革新性と環境への貢献度が評価され、経済誌『Challenges』による「2025年に投資すべきスタートアップ100選」にも選出されました。
捨てられるはずだった貝殻に、もう一度命を
Ostreaの物語は、2022年に始まりました。このスタートアップを立ち上げたのは、カミーユ・カレンネック氏、タンギ・ブレヴァン氏、テオ・ジョイ氏、マキシム・ルー氏という、当時30代前半の4人の友人たちです。
きっかけは、牡蠣養殖を営むタンギ氏の兄から「処理に困っている貝殻の山がある」と相談を受けたことでした。それは単なるゴミではなく、何かに活かせるのではないか…。そう考えた4人は、約2年間の研究と試行錯誤を重ね、ついに牡蠣・ムール貝・ホタテの殻を再利用した、まったく新しい素材の開発に成功しました。
共同創業者であるカミーユ・カレンネック氏は次のように語っています。
「この素材は、廃棄されていたはずの貝殻を再活用したもので、低炭素でリサイクル可能、かつ見た目も美しいという三拍子そろったものです。私たちはこれを“Ostreaストーン”と呼んでいます」
こうして生まれた素材は、特許も取得し、すでにさまざまな業界で活用が進みつつあります。
「貝殻の石」で、建築・デザイン業界に革命を
Ostreaが開発した素材は、石材のように加工可能で、耐久性や質感に優れているのが特徴です。そのため、キッチンの天板、床材、家具などのインテリア製品に使われています。今後はさらに、構造用コンクリートへの応用も視野に入れており、建築資材の新たな選択肢として注目を集めています。
この素材は見た目にも美しく、天然のマーブル(大理石)やテラゾー(人造大理石)風の風合いを持っています。そのため、すでに建築家、インテリアデザイナー、リノベーション業者、キッチンメーカーなど、デザイン性を重視するプロフェッショナルの間で評価が高まっています。
OstreaはこれまでにVINCI(ヴァンシ)、Bouygues(ブイグ)、Saint-Gobain(サンゴバン)、Schmidt(シュミット)など、フランス国内の大手建設・インテリア関連企業と取引を開始しています。
さらに特筆すべきは、フランス大統領府「エリゼ宮」に納入実績があることです。国の象徴ともいえる場所に選ばれたことで、Ostreaのブランド価値と信頼性は一層高まりました。
2025年には売上倍増を目指す
創業からわずか数年の間に急成長を遂げてきたOstreaは、2023年に120万ユーロ(約2億円弱)の資金調達に成功しました。この資金は、製造設備の拡充と、今後の生産体制の強化に活用されています。
そして次なる目標は、2025年に売上を倍増し、200万ユーロ(約3.2億円)に到達することです。
この成長を実現するために、Ostreaは以下の戦略を掲げています。
- 研究開発(R&D)チームの強化:新素材の改良、コンクリートなど他分野への展開
- 生産能力の大幅な向上:リサイクル処理設備の整備とスケールアップ
- 人材採用:現在の数十名規模から、50人以上のチーム体制へと拡大
これらの取り組みによって、需要に応えられる供給体制を整え、より多くの顧客に製品を届けることを目指しています。
新たな資金調達へ – 目標は200万ユーロ
この拡大フェーズに対応するため、Ostreaは現在、追加で200万ユーロ(約3.2億円)の資金調達を目指しています。この資金は、製造ラインの増設、チーム体制の強化、新分野への研究開発費に充てられる予定です。
なお、資金調達についてはすでに、フランス政府系金融機関Bpifrance(ビピフランス)や、BNPパリバ銀行との協議が進んでいるとのことです。
このように、Ostreaは「環境」「経済」「デザイン」の3要素を兼ね備えたビジネスモデルで、持続可能な未来を描こうとしています。
“石”の代わりに“海の命”を – Ostreaが提示する循環型社会のかたち
Ostreaのプロジェクトは、単に環境にやさしい素材をつくるだけにとどまりません。それは廃棄物とされていたものに新たな価値を与え、地域資源を生かし、人々の暮らしに美しさと機能をもたらすという、社会的意義の大きな取り組みです。
ブルターニュ地方といえば、フランスでも有数の海産物の産地。そこに大量にある貝殻という未活用資源を、「負債」ではなく「資産」としてとらえ直したこのスタートアップの発想は、多くの地方自治体や産業にもヒントを与えるものです。
“素材”という観点から循環型社会を推進するOstreaの挑戦は、今後ますます拡大し、世界各地の持続可能な開発に寄与していくことでしょう。
