
腕から脚までをサポートする「エクソスケルトン型の椅子」で、立ち上がりや歩行の動作を補助
事故や病気によって歩行が困難になった方々にとって、「もう一度立って歩く」ということは大きな目標であり希望でもあります。フランス発のスタートアップ「Lifebloom Global」は、こうした人々のリハビリを加速させるために、エクソスケルトン(外骨格)型のリハビリ支援装置を開発しました。
このスタートアップは、フランスの経済誌『Challenges』が選出する「2025年に投資すべき100のスタートアップ」にも選ばれており、その技術力と社会的意義の高さが注目されています。
開発のきっかけは、身近な人の事故と理学療法士の要望
開発者であり、Lifebloom Globalの創業者であるダミアン・ロシュ氏(33歳)は、元々土木工学を専攻し、リールにあるエンジニアリングスクール「HEI」の卒業生です。彼は、事故で歩けなくなった親しい人と、その人を支える理学療法士の「安全に立たせる方法が欲しい」という声をきっかけに、本プロジェクトに取り組み始めました。
「車椅子生活を余儀なくされている人の中には、わずかに脚の機能が残っているものの、立ち上がったり、バランスを保ったりするには力が足りないという方が多くいます。そういった人たちが、安全に、効果的に“歩行”に向けたリハビリができる装置をつくりたいと思いました」と語っています。
製品の特徴:エクソスケルトン+自動分析+自己トレーニング支援
彼が開発したのは、腕から脚までをサポートする「エクソスケルトン型の椅子」で、患者の身体を優しく支えながら立ち上がりや歩行の動作を補助します。
この装置には、以下のような機能があります:
- 歩行動作を感知するセンサーを内蔵
- 歩行の様子をデータとして記録・分析し、リハビリ効果を可視化
- 治療者と共有できるプラットフォームを通じて、患者がリハビリセッションの合間にも自主トレーニングを行える設計
この装置は、単に立たせるだけの機械ではなく、医療現場での負担軽減と患者の能動的な回復支援を両立させた、極めて実用性の高いソリューションです。
臨床現場での実績:脳卒中患者の「立ち時間6倍」「歩行機能回復」
同社は、これまでにSATT Linksium(大学発ベンチャー支援機関)やオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏、さらにBpifrance(フランスの公的金融機関)などから、合計で55万ユーロ(約8800万円)の支援を受けています。
また、スタートアップ支援制度であるフレンチテック助成金、さらにi-Labビジネスコンテストでの受賞により、追加で61.5万ユーロ(約9800万円)の資金も獲得しています。
今後は、2年半以内に臨床試験(ヒトを対象とした試験)を開始することを目指しており、現在はそのための資金として50万ユーロ(約8000万円)の資金調達を進めています。実際の市販化は約10年後を目標としており、技術のライセンス供与や、製薬企業への売却といった選択肢も視野に入れています。
市場化に向けて:まずは医療機関、次に家庭用へ展開予定
Lifebloom Globalは、2025年1月に創業され、現在はリールのパスツール研究所キャンパスを拠点に、製品の商業化に取り組んでいます。同社の技術は、470,000人にのぼるフランスの車椅子ユーザー(事故・脳卒中・進行性疾患・加齢などが原因)のうち、「わずかでも運動機能が残っている人々」を主な対象としています。
今後3年で、100以上の医療施設にこの装置を導入するという目標を掲げており、すでに製品の効果に納得したリハビリ医療者たちからの投資・支援も得ています。
2026年からは、家庭用への販売もスタートする予定です。価格はまだ非公開ですが、創業者のロシュ氏は「健康保険や補助制度の活用で、自己負担がほぼゼロになる形を目指す」と話しています。なお、フランス政府の調査では、「車椅子生活を送る人は、立って生活できる人よりも月に約2,000ユーロ多くの支出がある」とされており、患者側の経済的負担を減らす意味でも期待されています。
基本的な情報
- 目標資金調達額:400万ユーロ(約6億4000万円)
- 商業化開始予定:
- 医療機関向け:すでに展開中、今後3年で100施設以上に導入予定
- 一般家庭向け:2026年以降に販売開始予定
- ターゲット顧客:リハビリ専門病院、老健施設、整形外科・神経科の診療機関
- 想定ユーザー:
- 脳卒中後の患者
- 高齢者や事故によって歩行が難しくなった人
- ALSなど進行性疾患を持つ人で、わずかに脚の運動機能が残っている方
- 対象市場:
- フランス国内の車椅子ユーザー:約47万人
- ヨーロッパ全体で数百万人規模と想定されるリハビリ市場
- 使用技術:
- 腕から脚までのサポート構造を備えたエクソスケルトン型装置
- 歩行センサー、分析アルゴリズム、クラウド型リハビリプラットフォーム
- 自主リハビリ可能なインターフェース
- 現状:
- リールの大学病院で実証実験済み(脳卒中患者に有効)
- 初期製品は医療従事者から高評価を獲得
- 価格は未公開だが、自己負担ゼロを目指して保険連携を進行中
