
人間の「監視塔」からAIカメラ時代へ
かつてセーヌ=エ=マルヌ県フォンテーヌブローの森には、火災シーズンに備えてONF(国立森林事務所)の職員やボランティアが常駐する監視塔が点在していました。しかし、スマートフォン通報の普及で2000年代に入るとこうした監視は姿を消します。
そして2025年、人工知能(AI)による常時監視システムが、かつての監視塔の役割を引き継ぐことになりました。
このプロジェクトを担うのは、2020年設立の非営利団体 Pyronear(ピロニア)。フランス国内で森林火災の早期検知を専門とするパイオニアであり、今回、セーヌ=エ=マルヌ県消防・救急サービス(Sdis 77)と3年間の有償契約を締結しました。これはPyronearにとって全国初の有償契約となります。
仕組みと設備
2025年5月から、フォンテーヌブローの森(面積約22,000ha)内の4カ所に監視拠点を設置。それぞれの拠点には2台のカメラ(計8台)が設置され、旧ONF監視塔の高所から広範囲を監視します。
- カメラの撮影頻度:30秒ごとに周囲を撮影
- 処理方法:カメラは名刺サイズのマイクロコンピューターと接続され、その場でAIが画像を解析
- 検知プロセス:煙や炎の兆候を検出すると即座に画像と警告を消防指令センターへ送信
実際の成果 – 最大50分の先行検知
- 2025年5月16日:人間からの通報より10分早く発火を検知
- 6月10日:付近住民からは「焦げ臭い匂い」の通報があったが、位置特定はできず。AIが発火地点を特定
- 6月25日 午前6時:最初の119(18番)通報より50分前に発火を検知
「人通りの少ない早朝や夜間でも確実に監視できるのが強み。午前6時の森にはほとんど人はいない」と、Sdis 77広報部長ポール=エドゥアール・ロラン消防司令官は語ります。
誤検知から精度向上へ
初期には「誤検知(フォルスポジティブ)」も発生。例えば、低い垂直雲や、収穫機が巻き上げた埃の柱を煙と誤認するケースです。
現在は連続写真から動きのパターンを解析するモデルを開発中で、煙と他の現象を見分ける精度向上を図っています。
予算と資金調達
総予算は 16万4,000ユーロ。
このうち80%はフランス農業・食料主権省が森林火災防衛プロジェクトの一環として補助。残りはSdis 77が負担し、今後は企業や団体からの協賛金(メセナ)も募る予定です。
ONFと消防の連携
ONFイル=ド=フランス東部局のソフィー・ダヴィッド氏は、「検知が早ければ早いほど現場対応も迅速になる」と高く評価。
ただし、フォンテーヌブローの森では地中の泥炭層で火がくすぶり、煙が地表に出るまで時間がかかることもあり、AI監視だけに頼らず、発見時は112または18番への通報を呼びかけています。
気候変動時代の防火ルール
気温上昇と干ばつの影響で、森林火災の危険は年々高まっています。
そのため、フォンテーヌブロー森林公園とトロワ=ピニョン地域では厳しい規制が敷かれています。
- 森林内での喫煙禁止
- 指定3カ所以外での野営禁止(違反時は180ユーロの啓発研修または最大400ユーロの罰金)
- 森林内駐車場の夜間(22時〜6時)閉鎖
このAI監視システムは、従来の人間中心の監視体制から大きく進化した「テクノロジーと現場経験の融合モデル」として、今後ほかのフランス国内森林や海外にも波及する可能性があります。