
魚と同等の栄養価を持つ、海藻と豆類由来の食品
魚の栄養価を持ちながら、海の風味と植物のやさしさを併せ持つ新しい食品、それがBioAlva(ビオアルヴァ)の目指す世界です。このスタートアップは、フランスの有力経済誌『Challenges』が選ぶ「2025年に投資すべきスタートアップ100社」にも選ばれており、環境・栄養・社会的意義を一体にした革新的なフードテック企業として注目を集めています。
誕生したのは2023年 – 拠点はフランス・ブザンソン
BioAlvaは、2023年6月にフランス東部の町ブザンソンで創業されました。同社が手がけるのは、海藻とフランス産の豆類(マメ科植物)を発酵させて作る植物性食品で、魚と同等の栄養価を持ちながら、環境に優しく、手軽に食べられる新たな選択肢として位置づけられています。
その中心にいるのが、創業者アン・グエン氏(32歳)です。ベトナム出身の彼女は、パリ農業科学技術大学(AgroParisTech)で学び、卒業後はFindus(冷凍食品)、Unilever(消費財大手)、Danone(乳製品)といった大手企業で経験を積みました。「誰もが安心して食べられる、栄養豊かでおいしい食品を届けたい」という思いから起業に至りました。
共同創業者のマエル・ル・ミラン氏(33歳)はブルターニュ地方出身で、グルノーブル経営大学を卒業後、食品卸のPomona、Dior、L’Oréalといった企業を経て、環境政策をAgroParisTechで学び直すなど、食と環境の交差点でキャリアを築いてきた人物です。
「魚の代わり」ではなく、「魚に匹敵する」植物性食品
BioAlvaの食品は、魚のような海の香りやうま味を持ちながら、動物性の素材を一切使わずに作られています。その秘密は、海藻とマメ科植物を用いた独自の発酵プロセスにあります。
多くの代替タンパク質製品は、添加物や香料によって風味を補いますが、BioAlvaは添加物・人工香料を一切使わず、自然の発酵の力で旨味や栄養を引き出すことに成功しています。
これは世界でも類を見ない技術であり、同社は2025年7月までにフランス国内での特許出願を行う予定です。その後、世界各国での特許申請にも広げていきます。
ターゲットはフランスの集団給食市場
BioAlvaが最も注目しているのが、フランス国内の集団給食市場です。学校給食、企業の社員食堂、高齢者施設(EHPAD)などを含めると、その市場規模は年間20億ユーロ(約3,200億円)に上るといわれています。
中でも特に狙いを定めているのが、フランス政府の「エガリム法(Loi Egalim)」によって義務づけられた「週に1度のベジタリアン・メニュー」です。これにより生まれた年間5億ユーロ(約800億円)規模の植物性食品需要に対し、BioAlvaは高い訴求力を持つと考えています。
アン・グエン氏は、フランス政府とBpifranceが共催する「101人の女性起業家賞」にも選出されており、女性リーダーとしての社会的存在感も高めています。
BioAlvaが提供を予定している製品は以下の2タイプです:
- すぐに食べられる製品(スプレッド状のディップ、ベジタブルボールなど)
- 業務用の中間加工品(食品チェーンや専門卸売業者向け)
これらの製品は、調理の現場でレシピに組み込まれ、無理なく植物性メニューへと切り替えられるよう設計されています。
製品発売は2025年末を予定
BioAlvaの製品は、2025年末には商業販売が開始される見込みです。それに向け、現在は研究開発と試作の段階にあります。
このスケジュールに合わせ、ブザンソン市内にR&D(研究開発)ラボの新設が進行中です。この施設が稼働すれば、現在3人の従業員数が3倍に増加する予定で、組織としても一気に拡大フェーズへと入ります。
この成長に対応するために、BioAlvaはこれまでに計85万ユーロ(約1億3,000万円)の資金を調達しています。これは政府系助成金やスタートアップ賞の受賞によるものが中心です。例えば、彼女たちが所属しているブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域のスタートアップ支援機関「DECA-BFC」からの支援も受けています。
将来のビジョン – 2027年には100万ユーロ、2030年には850万ユーロへ
こうした事業拡大のために、BioAlvaは現在、新たに400万ユーロ(約6.4億円)の資金調達を目指しています。この資金は、以下の分野に活用される予定です:
- R&D施設の整備と人員の採用
- 製品の試験販売と製造スケールアップ
- 規制対応および特許の国際申請
- 販売チャネルの開拓とブランド構築
代替タンパク質市場にはすでに多くの競合企業が存在しますが、海藻と豆類を組み合わせた独自のアプローチ、そしてクリーンラベル(添加物不使用)という価値が差別化のカギとなっています。
「魚を食べずに魚の栄養を」- 食の選択肢を広げる挑戦
BioAlvaが提案するのは、「代替」ではなく「新しい可能性」です。食の嗜好が多様化し、環境負荷が問題視される今、私たちにはこれまでにない選択肢が求められています。
魚の栄養を、植物から。海の香りを、地球にやさしい方法で。
この挑戦に、BioAlvaは全力で取り組んでいます。小さなスタートアップの一歩が、やがて食卓の常識を変える日も、そう遠くはないかもしれません。
