
事業承継の新しい架け橋
フランスのスタートアップ「Breedge(ブリッジ)」は、企業の事業承継を円滑に行うためのAI搭載ソフトウェアを開発・提供している会社です。
企業の経営者が自身の会社を売却したいと考えた際に、最適な買い手候補を見つけるのは非常に困難です。Breedgeは、こうした悩みを抱える経営者や、裁判所から任命される管財人などをサポートするために設立されました。
自身の苦い経験から生まれたアイデアが、創業のきっかけに
創業者のポール・レニエ=ヴィグルー(Paul Regnier-Vigouroux)氏(36歳)は、以前に法律や規制に関わる専門職向けのWebマーケティング会社を立ち上げており、その会社を売却しようとした経験があります。その過程で、企業売却の難しさに直面しました。
彼は、フランス国内の事業承継がいかに非効率でアナログなプロセスに依存しているかを痛感しました。「現在は小規模な広告や限られた起業家ネットワークに頼るしかなく、雇用や技術の継承という観点からも、この分野は大きな改善の余地があると感じました」と語っています。
この問題意識から、彼は若きエンジニアのエンゾ・フラガル(Enzo Fragale)氏(24歳)とともにBreedgeを設立しました。エンゾ氏はフランスの名門工学系学校であるEPFおよびMinesで学んだ経歴を持ちます。
AIで買い手をマッチング
Breedgeの中核となるのは、人工知能(AI)を活用したマッチング技術です。このソフトウェアは、過去に行われた数千件に及ぶM&A(企業の合併・買収)データを分析し、事業売却を希望する経営者に対して、最適と思われる200人の買い手候補を自動的に提案します。
サービスは2つの側面から提供されます。ひとつは、企業の売却を希望する経営者に向けたものです。ここでは、まず1,500ユーロ(税込/約24万7,000円)の初期費用が発生します。これには企業評価、ティーザー資料や情報メモランダムの作成、AIによる買い手の探索、候補者との面談が含まれています。最終的に売却が成立した場合には、取引額の5%を成功報酬として受け取り、その際に初期費用は返金されます。
もうひとつは、破産手続き中の企業に対して最適な買い手を探すための支援です。このサービスは、裁判所から任命される管財人向けに提供されており、1回の検索につき200ユーロ(約3万3,000円)の料金が発生します。フランス国内には約200人の管財人がおり、それぞれが1日3〜4件の検索を必要とする可能性があるとポール氏は推計しています。というのも、2024年には66,000件を超える企業が破産申請すると見込まれているからです。
実績と支援、着実に歩む成長フェーズ
Breedgeは現在、モンペリエにあるBusiness & Innovation Centreでインキュベート(起業支援)を受けています。すでに4つの異なる業界(運輸、建設、資産管理、飲食)に属する企業を支援しており、これまでに1万5,000ユーロ(約247万円)の売上を記録しています。
創業以来、Googleからの融資35万ユーロ(約5,770万円)や、Bpifrance(フランス政府系金融機関)からの1万2,000ユーロ(約198万円)の融資、さらにFrench Tech(スタートアップ支援プログラム)から1万4,000ユーロ(約231万円)の助成金も獲得しています。
また、フランス最大の経済団体であるMEDEF(フランス企業運動)およびNumeum(テック業界団体)が主催するAI関連の全国コンペティション「Tour de France de l’IA」にも選出されるなど、その技術力と社会的意義が高く評価されています。
今後の展望と資金調達
Breedgeの共同創業者たちは、2025年内に60万ユーロ(約9,900万円)の資金調達を目指しています。この資金は、ソフトウェアのさらなる機能強化と、全国各地で経営者をサポートできる営業ネットワークの構築に充てる計画です。
彼らは、2026年までに640万ユーロ(約10億5,000万円)の売上を目指しています。中小企業の事業承継という社会的課題にAIを活用して取り組むこのスタートアップは、今後さらに注目を集めることでしょう。
企業情報
- 企業名:Breedge(ブリッジ)
- 設立:2024年1月
- 創業者:ポール・レニエ=ヴィグルー(36歳)、エンゾ・フラガル(24歳)
- 所在地:フランス・モンペリエ(Business & Innovation Centre内)
- 技術内容:過去のM&Aデータを活用したAIによる買い手マッチングソフトウェア
- 主な用途:企業の売却支援、破産企業の再生支援
- 現在の状況:4社を支援済み、売上1万5,000ユーロ(約247万円)
- 商業化の進行状況:初期費用+成功報酬モデル、司法分野への展開も開始
- 目標資金調達額:60万ユーロ(約9,900万円)
- 目標資金調達額:60万ユーロ(約9,900万円)
- 想定ユーザー:中小企業オーナー、破産手続き中の企業
- 対象市場:フランス国内の中小企業および司法破産分野
- 売上見通し:2026年に640万ユーロ(約10億5,000万円)を目標
