
Climate Impulseプロジェクトの概要
Climate Impulseは、フランスの元ヨットマンであるラファエル・ディネリと、ソーラーインパルスで世界一周飛行を成功させた冒険家ベルトラン・ピカールによって始められたプロジェクトです。この航空機は、液体水素を燃料とし、電気モーターを駆動する仕組みを採用しています。
- 目標:無着陸・無支援での世界一周飛行(約40,000km)
- 予定飛行期間:約9日間
- 燃料:液体水素(12m³タンク×2基)
- 予定離陸年:2028年
初のノンストップゼロエミッション世界一周飛行計画
初のノンストップゼロエミッション世界一周飛行は、2028年に計画されています。
- 2025年2月13日のプレスリリースでは、画期的なノンストップ、9日間のゼロエミッション世界一周飛行が2028年に設計されたグリーン水素動力航空機で行われると発表されています。
- モロッコのUniversity Mohammed VI Polytechnic (UM6P)とOCP Groupがメインパートナーとなった際の発表でも、グリーン水素航空機によるノンストップゼロエミッション世界一周飛行が2028年までに実現するとされています。
ノンストップゼロエミッション世界一周飛行計画の目標
この世界一周飛行は、複数の重要な目標を実証することを目的としています。
- 気候変動対策の旗艦となること:
この飛行は、効率的なソリューションがいかに世界を持続可能な方向へと導くことができるかを示すことを目指しています。 - 持続可能でより責任ある航空モビリティへの道を開くこと:
プロジェクトの成功は、将来の航空輸送のあり方に影響を与える可能性があります。 - 効率的なソリューションが人々に希望と熱意をもたらし、気候変動に対する考え方を変えることができるということを示すこと:
環境保護活動家から政治家、ビジネスリーダーまでを結集し、前向きな変化を促すことを目指しています - ソリューションが私たちの世界を持続可能な未来へと効果的に導くことができるということを実証すること:
ベルトラン・ピカールとラファエル・ディネリは、この飛行を通じて具体的な解決策を示すことを意図しています - 航空産業、そしてより広くはモビリティ分野に革命をもたらす可能性のある具体的な技術を展示すること:
ソーラー・インパルス財団の遺産を受け継ぎ、さらに発展させることを目指しています。 - ゼロエミッションの空の旅に向けた未来を形作ること:
科学とイノベーションを活用して困難な課題を克服し、水素動力航空機による世界一周飛行を通じて新たな境地を開拓することを目指しています。 - 研究開発の背後にある技術移転の可能性を示すこと:
ラファエル・ディネリは、このプロジェクトが技術的な進歩と応用を促進することに意義を見出しています
技術的な挑戦
液体水素の貯蔵と維持
- 最大の課題の一つは、12m³の液体水素タンク2つに貯蔵された液体水素を、-253℃という極低温で8〜9日間維持することです 。これは、これまで誰も試したことのない技術であり、危険も伴うとされています。
- 機体はA320型機と同程度の翼幅を持ち、炭素繊維で製造されています。2025年2月時点では、機体の開発は50%完了しており、順調に進んでいるとされています。
- 当初、2026年にはサフラン社製の電気モーターによる飛行が計画されており、その後、水素燃料による飛行の承認を経て、2027年には最初の水素飛行が行われる見込みです。
航空機に液体水素を貯蔵する主な課題は、貯蔵システムの重量を抑えつつ、極低温を長期間維持するための技術的なハードルが高いことであると言えます。特に、航空機という特殊な環境下で、これまで実績のない長期間の液体水素貯蔵に挑戦することは、安全性の面からも慎重な検討が必要となるでしょう。
機体の設計
- 翼幅はA320型機と同程度
- 軽量かつ強度の高い炭素繊維製
- 電気モーターはサフラン社製
世界一周飛行の意義
この世界一周飛行は、単なる冒険飛行ではなく、CO2排出量ゼロの商用航空の実現に向けた技術移転の可能性を示すものとして期待されています。
- エアバスやアリアンスペースといった航空宇宙産業の企業もこのプロジェクトの進捗を注視しています
- ラファエル・ディネリは、過去のヴァンデ・グローブでの経験から、化石燃料に依存しない航海を実現しており、そのパイオニア精神を航空分野にも活かしたいと考えています 。彼は、このプロジェクトを「環境のためのパイオニアの時代」の取り組みと位置づけています
- ベルトラン・ピカールは、自身のソーラーインパルスでの世界一周の経験を活かし、このプロジェクトの広報と資金調達を担当しています。俳優のトム・クルーズが最初の搭乗者の一人になることを希望しているという話は、投資家の関心を集める可能性があります
Climate Impulseプロジェクトにおける世界一周は、水素エネルギーを活用した航空技術の限界に挑戦する壮大な目標であり、将来の環境に優しい航空輸送システムの実現に向けた重要なステップとして位置づけられています。
水素技術の商用航空機への応用
- 液体水素の貯蔵技術
- 水素燃料電池の航空機応用
- CO2排出ゼロの航空機開発
Climate Impulseは、単なる冒険ではなく、航空業界の未来を変える可能性を秘めています。エアバスやアリアンスペースといった航空宇宙産業の企業もこのプロジェクトに注目しており、水素技術の商用航空機への応用が期待されています。
環境保護への貢献
Climate Impulseの意義は、地球環境保護に大きく貢献する点にもあります。
- CO2排出ゼロ:従来のジェット燃料を使用しない。
- 持続可能な航空:再生可能エネルギーを活用。
- 航空業界の未来像:水素航空機の商用化を促進。
ラファエル・ディネリは、2008年のヴァンデ・グローブでは化石燃料を一切使用せずに航海を成功させるなど、環境保護に対する強い意識を持っています。
この精神がClimate Impulseにも反映されているのです。
冒険家たちの挑戦
ベルトラン・ピカール
- ソーラーインパルスで世界一周を達成。
- Climate Impulseの共同パイロット。
- 資金調達・広報活動も担当。
ラファエル・ディネリ
- ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に4回参加。
- 1996年に海で36時間漂流し生還。
- 2008年、化石燃料不使用の航海を達成。
プロジェクトの主要な技術パートナー
Climate Impulse は、持続可能性のためのイノベーションへの共通の献身によって結ばれた大胆なパートナーを結集しています。
このプロジェクトには、主要パートナー、オフィシャルパートナー、オフィシャルサポーター、サービスサプライヤー、専門パートナー、ミッションサポーターといった様々なスポンサーシップレベルが存在します。
主要なパートナーとしては、University Mohammed VI Polytechnic (UM6P) と OCP Group が「Climate Impulse」プロジェクトのメインパートナーとなるためのパートナーシップ契約を正式に締結したことが発表されています。
Syensqo は、その高度な技術によって Climate Impulse を支援する主要な技術パートナーです。
オフィシャルパートナーとしては Breitling が挙げられています。
ミッションサポーターとしては、Axa、Bouygues、Aliaxis、Fondation Engie、BNP Paribas、SLB、Schneider Electric Foundation、ADEO、Movin’On、Holcim、Bekaert、Deutsche Telekom などが名を連ねています。
ミッションサポーターは、Solar Impulse Foundation のパートナーのために用意されています。
49 Sud は、航空機の設計と建設を担当しており、様々な技術パートナーからの支援を受けて、2人乗りコックピットなどの主要コンポーネントを製造しています。また、Safran は電気モーターを提供することになっています。
Airbus や Arianespace も Climate Impulse の進捗を注視しており、水素を利用したCO2排出のない民間航空の将来像を描いています。
未来への展望
この世界一周飛行は単なる冒険ではなく、環境に優しい技術の可能性を示し、持続可能な社会への移行を加速させるための具体的な行動となることを目指しています。
このプロジェクトが成功すれば、商用航空機のCO2排出削減に大きく貢献し、持続可能な航空業界への道を開くことでしょう。