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近年、フランスはデジタルインフラの強化に力を入れており、その中核をなすのが「データセンター構想」です。この構想は、単なる技術的な取り組みではなく、経済、環境、セキュリティのバランスを取りながら、フランスおよび欧州のデジタル未来を築くための国家的な戦略です。特に、GDPR(一般データ保護規則)の施行以降、企業は欧州域内でデータを管理する必要が高まっています。フランスは、自国およびEUのデジタル主権を強化するため、データセンターの国内誘致を積極的に推進しています。

フランスのデータセンター構想

フランスのデータセンター構想は、デジタルインフラの強化と持続可能な発展を目指す国家的な戦略の一環です。
フランスは、EU(欧州連合)内でデジタル主権を強化し、データのローカライゼーション(データを国内またはEU域内に保存すること)を推進しています。また、環境問題への関心が高まる中、エネルギー効率の高いデータセンターの構築が求められています。

データセンターにおけるフランスの優位性

政府の支援と民間の投資が組み合わさり、AIの発展に不可欠なインフラの構築を促進しています。エマニュエル・マクロン大統領は、今後数年間で1,090億ユーロの民間投資を発表しましたが、Bpifranceは2029年までにAIに100億ユーロを投資することが決定しています。アラブ首長国連邦との提携による1ギガワットの容量を持つ「キャンパス」ファンドであるBrookfieldによるデータセンターの開発に200億ユーロが投資されることも発表されており、フランスはデータセンターの開発と投資にとって魅力的な場所となっています。

  • 欧州市場の重要性
    欧州は、クラウドサービスやデータ需要が急速に拡大している重要な市場です。特にフランスは、EUのデジタル主権強化やGDPR(一般データ保護規則)に基づくデータローカライゼーションの流れを受けて、データセンターの需要が高まっています。
  • 高い接続密度
    フランスは、光ファイバーによる高い接続密度を誇っています。フランス南部のマルセイユは、大陸を灌漑する海底ケーブルの3分の2が接続される地点であり、データの高速かつ効率的な伝送を可能にします。
  • 豊富な電力供給と脱炭素化されたエネルギー
    フランスには豊富で脱炭素化された電力があります。これは、データセンターの運営に不可欠な要素であり、環境負荷を低減する上でも重要です。
  • エネルギーインフラ
    フランスは原子力発電の割合が高く、比較的安定した電力供給が可能です。また、再生可能エネルギーの利用も進んでおり、環境に優しいデータセンター運営が可能です。
  • 利用可能な土地
    フランスには、データセンターに適した広大な土地が、特に産業用地跡地に多く存在します。データセンターは通常、1ギガワットの電力を必要とするため、市街地から離れていることは重要な利点となります。
  • 政府の支援
    フランス政府は、データセンターの建設を支援するために、35の主要な土地を特定し、迅速な開発を可能にしています。
    データセンターの建設を希望する企業と地域には、税制優遇や補助金、インフラ整備などのインセンティブを提供しています。

オー・ド・フランスのデータセンター計画

Hauts-de-France(オー・ド・フランス)地域には、8つのデータセンターの建設地として選ばれており、フランス国内で最も多いデータセンターが集まる地域となる見込みです。
オー・ド・フランス地域は、フランスの北部に位置し、ベルギーとドーバー海峡に接していることから、イギリスやベルギー、それに続くオランダなどの国への玄関口になっています。

この地域は、歴史と文化が豊かで、地理的優位性を活かした経済発展が進んでいます。伝統的な産業として、農業、繊維産業、自動車や列車、飛行機の製造などの部品生産、英仏海峡に面した地理的条件を活かし、物流業が発展してきましたが、新しい産業として、画像処理などのデジタル技術や、データセンターやクラウドサービスの拠点として注目されています。
今後はデータセンターを中心としたデジタルインフラの整備により、欧州のデジタルハブとしての役割を担うことが期待されています。

この地域がデータセンターに適した理由としては、既存のデータセンターの集積、技術的・人的資源の豊富さ、雇用創出への期待、電力需要を満たすための原子力発電所(Gravelines原子力発電所)への近接性などがあります。

データセンターの予定地

8つのデータセンターの建設地として選ばれたオー・ド・フランス

オー・ド・フランス地域(Hauts-de-France)は、フランス北部に位置し、データセンターの建設に適した条件が整っていることから、近年デジタルインフラの重要な拠点として注目されています。この地域では、大規模なデータセンター計画が進んでおり、国内外の企業や投資家が参画しています。

オー・ド・フランスがデータセンターに適している理由

  • 地理的優位性
    オー・ド・フランスは、パリ、ブリュッセル、ロンドン、アムステルダムなど、欧州の主要都市に近接しています。このため、低遅延のネットワーク接続が可能で、欧州全域に効率的にサービスを提供できます。
    英仏海峡に面しており、国際的な海底ケーブルの接続点としても重要な役割を果たしています。
  • 既存のデータセンターの集積
    オー・ド・フランス地域には既に多くのデータセンターが存在しており、その実績が評価されたと考えられます。
  • 技術的・人的資源の豊富さ
    データセンターの運営に必要な技術者や専門家が豊富にいることが、この地域を選ぶ理由の一つとなっています。
  • 原子力発電所への近接性
    データセンターは大量の電力を消費するため、安定した電力供給が不可欠です。
    オー・ド・フランスのQuaëdypre(クエディプル)のデータセンターは、Gravelines(グラヴリーヌ)原子力発電所に近接していることが利点となっています。データセンターの電力消費量は、原子力発電所のエネルギーの20%に相当するとも言われています。

環境への配慮

オー・ド・フランスは環境に優しいデジタルインフラの構築を目指しています。

  • 再生可能エネルギーの活用
    オー・ド・フランス地域は、風力発電や太陽光発電の導入が進んでいます。データセンター運営においても、これらの再生可能エネルギーを活用することで、環境負荷を最小限に抑えます。
    GoogleやOVHcloudなどの企業は、カーボンニュートラルを目指した運営を推進しています。
  • エネルギー効率の向上
    最新の冷却技術やサーバー技術を導入し、エネルギー消費効率(PUE: Power Usage Effectiveness)の向上を図っています。
  • エネルギーインフラ
    オー・ド・フランス地域は、比較的安価で信頼性の高い電力を利用できます。
    再生可能エネルギー(風力、太陽光など)の導入も進んでおり、環境に優しいデータセンター運営が可能です。

デジタルインフラへの取り組み

  • データセンターの誘致
    オー・ド・フランス地域は、地理的優位性と安定した電力供給を背景に、データセンターの建設に適した地域として注目されています。
    GoogleやOVHcloudなどの企業が、カンブレー(Cambrai)やその他の都市にデータセンターを建設する計画を進めています。
  • デジタルエコシステムの形成
    地域内の大学や研究機関と連携し、デジタル技術の研究開発を推進しています。
    またスタートアップ支援プログラムやイノベーションハブの整備も進んでいます。

ただし、データセンターの建設と運営には、エネルギー消費や環境への影響といった課題も存在します。オー・ド・フランス地域では、データセンターのエネルギー効率を高め、環境負荷を低減するための取り組みが求められています。例えば、データセンターから排出される熱を都市暖房に利用するシステムや、原子力エネルギーを利用した「エネルギーの脱炭素化」を目指す動きもあります。

ブルックフィールドの持続可能なデータセンター計画

ブルックフィールドの投資計画

カナダの大手投資ファンドであるブルックフィールド(Brookfield)は、フランスに200億ユーロを投資し、データセンターを含むデジタルインフラの開発を計画しています。この投資の一環として、オー・ド・フランス地方のカンブレー(Cambrai)に大規模なデータセンターを建設するという計画を2023年に発表しています。
カンブレーのデータセンターは環境に配慮し、再生可能エネルギーを活用したグリーンデータセンターとして運営される予定です。

カンブレーにデータセンターを建設する理由

  • 地理的優位性
    カンブレーはフランス北部に位置し、欧州の主要都市(パリ、ブリュッセル、ロンドンなど)へのアクセスが良好です。このため、低遅延のネットワークを提供するのに適しています。
  • 地域経済の活性化
    フランス政府は、地方都市への投資を促進し、地域経済の活性化を図っています。カンブレーへのデータセンター建設は、雇用創出や関連産業の発展につながると期待されています。
  • エネルギーインフラ
    カンブレー周辺は安定した電力供給が可能であり、データセンターの運営に必要なエネルギーを確保しやすい環境です。

Googleがパリ近郊にデータセンターを開設

欧州市場での覇権を強化

2021年、Googleはフランスのパリ近郊に新たなデータセンターを開設することを発表しました。このプロジェクトは、Googleの欧州市場における戦略的な展開を示すとともに、フランスのデジタルインフラ強化にも大きく貢献するものです。

なぜGoogleはフランスにデータセンターを開設するのか?

  • 欧州市場の需要拡大
    欧州では、企業や政府機関のクラウド移行が急速に進んでいます。Google Cloudの需要が高まる中、現地にデータセンターを設置することで、低遅延かつ高信頼性のサービスを提供できるようになります。
  • データローカライゼーションの対応
    EUのGDPR(一般データ保護規則)により、企業は欧州域内でデータを保存・処理する必要があります。フランスにデータセンターを設置することで、Googleは規制遵守を容易にし、顧客の信頼を確保します。
  • 競争力の強化
    欧州では、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureが既にデータセンターを展開しています。Googleも欧州市場での競争力を維持するため、フランスにデータセンターを設置しました。

パリ近郊が選ばれた理由

  • 地理的優位性
    パリは欧州の中心に位置し、地理的に優位です。パリ近郊にデータセンターを設置することで、欧州全域に効率的にサービスを提供できます。
  • フランス政府の支援
    フランス政府は、外国企業のデータセンター誘致に積極的です。税制優遇や補助金などのインセンティブを提供し、Googleの投資を後押ししました。
    パリ近郊には外国籍の企業が多く、多くのIT企業が本社を構えています。

データセンターの特徴

  • 規模と容量
    データセンターの詳細な規模は明らかにされていませんが、Googleのハイパースケールデータセンターとして、大規模なサーバー容量を備えることが期待されます。
    また欧州全域のGoogle Cloudユーザーに対応するため、高い処理能力と信頼性が求められます。
  • 環境への配慮
    Googleは、2030年までにカーボンフリーエネルギーを100%使用することを目標としており、フランスの再生可能エネルギーを活用します。
    エネルギー効率の高い設計が採用され、環境負荷を最小限に抑えます。

フランスへの経済的・社会的影響

  • 雇用創出
    データセンターの建設・運営により、現地での雇用が創出されます。建設段階では数百人、運営段階では数十人の雇用が見込まれます。
  • 地域経済の活性化
    データセンターは地域経済に大きな影響を与え、関連産業(建設、IT、エネルギーなど)の活性化が期待されます。
  • デジタルインフラの強化
    Googleのデータセンターは、フランスのデジタルインフラを強化し、クラウドサービスやAI技術の普及を促進します。

Googleがパリ近郊にデータセンターを開設することは、欧州市場での覇権を強化するための重要な戦略です。このプロジェクトは、Googleの技術力とフランスのデジタル政策が融合した成功例であり、今後の展開に注目が集まります。

Microsoftがオー・ド・フランス地域にデータセンターを開設

Microsoftがオー・ド・フランス地域(Hauts-de-France)に40億ユーロを投資しQuaëdypreを含む4つのデータセンターを建設する計画は、フランスのデジタルインフラ強化と欧州市場での競争力を高めるための重要なプロジェクトです。
このプロジェクトは、フランスのデジタルインフラ強化と持続可能な発展に大きく貢献し、地域経済の活性化も期待されます。

欧州市場の需要拡大

欧州では、企業や政府機関のクラウド移行が急速に進んでいます。Microsoft Azureの需要に対応するため、現地にデータセンターを設置することで、低遅延かつ高信頼性のサービスを提供できるようになります。
EUのGDPR(一般データ保護規則)により、データのローカライゼーション(欧州域内でのデータ保存)が求められており、現地データセンターの設置は規制遵守にも役立ちます。

フランス政府の支援

フランス政府は、外国企業のデータセンター誘致に積極的です。税制優遇や補助金などのインセンティブを提供し、Microsoftの投資を後押ししています。
フランスのデジタル主権強化戦略「クラウド・ド・コンフィアンス(Cloud de Confiance)」にも合致する取り組みです。

環境への配慮

Microsoftは、2030年までにカーボンネガティブ(二酸化炭素排出量を実質ゼロ以下にする)を目標としており、再生可能エネルギー(風力、太陽光、水力)を活用し、カーボンフリーなデータセンター運営を目指します。
エネルギー効率の高い設計(PUE: Power Usage Effectivenessの最適化)が採用され、地域のグリーンエネルギー戦略に貢献します。
Microsoftのカーボンネガティブ目標に沿った持続可能な開発が進みます。

投資額と規模

  • 投資額:40億ユーロ
  • データセンター数::4つ(Quaëdypreを含む地域に建設予定)。
  • 容量
    大規模なハイパースケールデータセンターとして、欧州全域のMicrosoft Azureユーザーに対応するための高い処理能力を備えます。

今後の展望

  • 欧州のクラウド市場での競争力強化
    低遅延かつ高信頼性のサービスを提供し、AWS(Amazon Web Services)やGoogle Cloudとの競争力を高めます。
  • フランスのデジタル主権強化
    データのローカライゼーションを推進し、フランスおよびEUのデジタル主権を支援します。
  • 地域の持続可能な発展
    環境に優しいデータセンター運営を通じて、地域のグリーンエネルギー戦略に貢献します。
パリロボくん
パリロボくん

フランスがデータセンター大国を目指すというのは、やっぱりそうなるよね、というかそっち(ハード側)に行かざるを得ないよね、という印象だ。
膨大なテキストデータから学習させなければいけないLLMなどの生成AIモデルでは、GDPRの1.同意の必要性(個人データを収集する際に、明確な同意を得ることが求められること)、2.データの匿名化(個人を特定できないようにデータを匿名化することが求められること)などが原因で、学習に使用できるデータが限られてしまうことや、アルゴリズムの透明性と説明責任が求められることに対して、「ブラックボックス」と呼ばれるほど複雑なAIモデルが対応できないことなど、EU内でAIモデルを開発するには障害がありすぎるんだ。(「GDPRとは?その概要と影響」という記事を読んでいただければ、EUでAIモデルを開発することがどれほど無謀なことかわかると思う。)フランスには数学に強い人が多く、AI開発が得意なITエンジニアも多いのに、優秀なひとほど米国などEU外に行ってしまうのは仕方ない流れだと言える。しかもGDPRは、EU市民のデータをEU域外に移転する際に厳格な規制を設けているから、どうしたってEU内で保存するデータ量が膨大になる。その意味でも、EUのどこかの国がEUのデータセンターを引き受けることは必須ということになる。ドイツは脱原発で原発が全てなくなったところにロシアのウクライナ侵攻で天然ガスの供給量が大きく減少したことが重なり、エネルギーの供給不安と価格上昇で製造業などの不振が続き、電力はフランスから輸入している状況だから、データセンターなどとても担えないし、今や原発がなければやっていけなくなってしまったEU諸国には、フランス以外にデータセンターなど膨大に電力を消費する施設を建設できる国なんてない。そういうフランスだって、ウクライナ侵攻後には、電力の大幅な値上げと電力不足に陥り(部屋の温度は19度以上に上げてはいけない規則ができたり、公共の場所でお湯が使えるところもなくなってしまった)、しかも2022年にはトラブルとメンテナンス続きで複数の原発の稼働が止まるなど不安続きの中、綱渡りでやっと持ち直してきたというところだ。野党からは、データーセンターなんて膨大な電力を必要とするものをたくさん作って、また電力不足に陥って稼働停止なんてことになったら責任取れるのか、などという反対の声も上がっているし(当然だけどね)、不安な点は残るよね。フランスは原発の歴史が長く、ほぼ同年代に廃炉を迎える原発が多いので、既に小さい事故や故障が頻発している原発付近の住人たちはヒヤヒヤしながら生活している状況で、数年前までは国民の半数近くが原発に反対していたんだよ。でもウクライナ侵攻後の電力の値上がりや電気の使用制限を経験して、今や原発反対なんて声を上げる人や政党は殆どなくなった。フランスだって風力発電などの再生可能エネルギーには力を入れているけど、投資に比較して生産量が低すぎることが問題になっている。フランスは日本以上にエネルギー資源に乏しい国だし、天候が安定しないうえに冬の間は日照時間が少ないから(日本よりずっと緯度が高いからね)再生可能エネルギーの生産には向いていない国なんだ。
そういった裏事情を考えると、データセンター大国化ばんざい!と素直に喜ぶ気分にはなれないけど、せめてデータセンターでお金を稼いで、そのお金で古い原子炉の廃炉を進めたり、メンテナンスにもっとお金を費やして欲しいよね。でもその前にEUをガラパゴス化しているGDPRを、一刻も早く廃止にして欲しいんだけど。