
レジ待ちゼロのスマート決済ソリューション
買い物で最もイライラする瞬間の一つは、レジに並ぶことではないでしょうか。そんな課題を解決しようと生まれたのが、フランス発のスタートアップ「Pikkopay(ピッコペイ)」です。このアプリを使えば、買い物中にスマートフォンで商品のバーコードを読み取り、そのままアプリ上で決済を済ませることができます。レジに並ぶ必要はなく、専用の通路を通ってQRコードを見せるだけで買い物が完了します。
この利便性が評価され、フランスの経済誌『Challenges』が選出する「2025年に投資すべき100のスタートアップ」にも選ばれています。
買い物の「不快な待ち時間」を解決
調査会社ハリスが行ったアンケートによると、フランス人の約9割が「レジ待ちが長すぎて買い物を途中でやめたことがある」と回答しています。これが原因で、小売業界では年間およそ163億ユーロ(約2兆6,050億円)の売上が失われているとも試算されています。
このような背景から、スーパーマーケット各社は無人レジやセルフスキャン端末など、待ち時間を減らす取り組みを進めています。その流れの中で誕生したのがPikkopayです。
若手エンジニアが起業、アイデアでコンテスト受賞
Pikkopayの創業者は、アレクサンドル・チェンさんとジョー・チンさんという2人の若きエンジニアです。いずれもフランスの工科大学「ESILV(ポール・レオナルド・ド・ヴァンシ)」の卒業生で、25歳という若さで起業しました。
彼らは「買い物客のスマートフォンをセルフレジに変えてしまおう」というアイデアで、2022年春に開催された「テクノポール・ド・ローブ・アン・シャンパーニュ」のピッチコンテストで優勝しました。その後、同施設でインキュベーション(事業育成)を受け、フランス東部の都市トロワにて正式にPikkopay社を設立しました。
アプリの仕組み:QRコードで即スタート
Pikkopayの使い方はとても簡単です。まず、買い物客は店舗の入り口でQRコードをスキャンしてアプリを起動します。次に、購入したい商品のバーコードをスマホで読み取り、買い物が終わったらそのままスマホで支払いを済ませます。支払い方法はApple Pay、Google Pay、PayPal、レストランカード、あるいはクレジットカードの読み取りなど、様々な選択肢が用意されています。
そして退店時には、再度QRコードを表示してスタッフにスキャンしてもらうだけで完了。平均で14秒ほどのスムーズな「セルフ会計」が可能となります。
アプリの利用にはインストールが不要で、ウェブブラウザ上で完結するため、買い物客にとっても手間が少ないのが特徴です。また、店舗側にも大きな設備投資は必要ありません。初期費用として1,000〜3,500ユーロ(約16万〜56万円)、月額使用料として100〜400ユーロ(約1.6万〜6.4万円)を支払うだけで導入できます。
セキュリティ対策も万全、店側の不安を解消
「QRコード文化がコロナ禍で定着した今が、まさに好機です。しかも我々のアプリは、自動レジよりはるかに安価に導入できます」と、アレクサンドル・チェンさんは語ります。
一方で、店舗側にとっては「万引きや不正利用」のリスクも気になるところ。
これに対し、PikkopayではAIベースのアルゴリズムを導入し、買い物客の行動を分析して不審な挙動をスコア化するシステムを開発しています。さらに、チェック用のタブレット端末を店員に提供し、ランダムでカートの中身を確認できる体制を整えています。
実証実験から本格展開へ、2027年には1,400店舗を目指す
Pikkopayはすでに、フランス国内の大手スーパーであるカルフール、アンテルマルシェ、マッチ、ネットで実証実験を実施。6店舗でのテストを成功させた後、2025年4月末には30店舗への拡大を予定しており、年末には100店舗まで増やす見込みです。
現在、パリのスタートアップ拠点「Station F」やリールの「Euratechnologies」にオフィスを構え、本格的な事業展開に乗り出しています。2027年までには1,400店舗での導入を目標としており、急速なスケールアップが見込まれています。
資金調達と今後の展望
Pikkopayは現在、120万ユーロ(約1億9,200万円)の資金調達を進めており、これにより営業チームの拡充とアプリのさらなる改良を図ります。
最終的には、買い物客の「当たり前の会計手段」となることを目指し、フランス全国に普及させたい考えです。
企業情報
- 企業名:Pikkopay(ピッコペイ)
- 設立:2022年(テクノポール・ド・ローブ・アン・シャンパーニュで創業)
- 創業者:アレクサンドル・チェン氏、ジョー・チン氏(いずれも25歳)
- 所在地:フランス・トロワ(拠点:Station F[パリ]、Euratechnologies[リール])
- 技術内容:買い物中にスマホで商品バーコードを読み取り、その場で決済するセルフレジアプリ(インストール不要)
- 主な用途:スーパーマーケットなどでのレジ待ち解消
- 現在の状況:実証実験(6店舗)を経て、2025年内に100店舗展開予定
- 商業化の進行状況:導入店舗拡大中。2027年には1,400店舗目標
- 目標資金調達額:1.2百万ユーロ(約1億9,200万円)
- ターゲット顧客:スーパーマーケット、小売チェーン
- 想定ユーザー:日常的に買い物をする一般消費者
- 対象市場:フランス全国の小売店舗、将来的には海外展開も視野
- 売上見通し:非公開。ただしレジ機器よりも導入費が安価でコストメリットが高いと高評価
