
一枚の写真から産業廃棄物の市場価値とCO₂削減効果をAIで即座に判定
産業廃棄物の山に、隠された価値を見出す。そんなミッションを掲げて2023年に誕生したスタートアップ「Wastetide(ウェイストタイド)」は、たった一枚の写真から産業廃棄物の市場価値とCO₂削減効果をAIで即座に判定する革新的なサービスを提供しています。
この独自技術が評価され、仏経済誌『Challenges』が選ぶ「2025年に投資すべきスタートアップ100社」に選出されています。
廃棄物市場は2100兆円、CO₂排出も航空業界以上
世界における廃棄物の処理・再利用の市場規模はおよそ2兆1000億ドル(約310兆円)に達するとされており、そのCO₂排出量は、実は航空業界よりも多いというデータもあります。にもかかわらず、エネルギーや水の消費を最適化するツールは数多く存在する一方で、「廃棄物の仕分け・価値化・リサイクル」の分野には、革新的な手段がほとんど導入されていません。
特に問題視されているのは、産業廃棄物の中でも「一般廃棄物(通称DIB=Déchets Industriels Banals)」と呼ばれるもので、有害物質でもなく、化学的に不安定でもない、いわば「普通の廃棄物」です。これらは大量に発生するにもかかわらず、その大半が埋立てや焼却処分され、適切な再利用がなされていないのが現状です。
1枚の写真から「価値」と「環境貢献度」を判定するAI
こうした状況に目をつけたのが、元France Digitale会長のニコラ・ブリアン氏(35歳)と、ベテラン起業家のマチュー・トゥルヌ氏(39歳)です。彼らは2023年9月にスタートアップ「Wastetide(ウェイストタイド)」を立ち上げ、AIによる廃棄物評価モデルの開発に着手しました。
このAIは、スマートフォンなどで撮影した廃棄物の山の画像1枚から、そこに含まれる再資源化可能な素材(ガラス繊維、金属合金、プラスチックなど)を識別し、その市場価値を瞬時に提示します。さらに、それをリサイクルした場合に削減できるCO₂量までも試算してくれるのです。
このシステムの開発には、フランス名門・理工系グランゼコールのエコール・ポリテクニーク出身のエンジニア2名が協力しています。

年額2万4000ユーロ、コスト削減が最大の売り
このAIは、年額2万4000ユーロ(約390万円)でライセンス契約を結ぶBtoB型のSaaSモデルとして提供されています。主な顧客は、製造業や建設業を営む工場や事業所で、すでにルノーやシーメンスなどの拠点でも導入が進んでいます。
このサービスの魅力は、「お金を生み出す廃棄物の価値を見える化し、売却して利益を出せる」点にあります。例えば、これまで焼却処分されていた廃プラスチックが、AIによって高価値素材と判定され、リサイクル業者に売却できた場合、企業にとっては大きなコスト削減と新たな収益源になります。
しかもWastetideでは、「満足できなければ返金保証」という自信に満ちた制度も導入しています。すでに10社の初期顧客に導入済みですが、「投資額を下回る結果になった企業はひとつもない」と、共同創業者のブリアン氏は胸を張ります。
成長の軸は「環境インパクト」ではなく「コスト最適化」
「Wastetideを立ち上げた理由は、もちろん環境への影響を最大化したかったからです。でも、私たちのクライアント企業にとって最も重要なのは、やはりコストの最適化なのです」とブリアン氏は語ります。
実は彼は、過去にフランス中部の町モントルソンで市議を務めた経験があり、地方自治体における「ごみ処理費」が最も大きな支出項目のひとつであることを痛感してきました。
その経験が、廃棄物分野への関心を生み、「12年間持ち続けた情熱」となって今のWastetideに結実しているのです。
すでに250社以上が導入を検討、次なる資金調達へ
Wastetideは2024年に初年度売上として10万ユーロ(約1600万円)を計上し、翌2025年にはその3倍、30万ユーロを目指しています。
事業の成長スピードを加速するために、同社は現在100万ユーロ(約1億6000万円)の資金調達に取り組んでいます。この資金は以下の用途に充てられる予定です。
- 営業チームの拡充と体制強化(すでに250社以上から問い合わせあり)
- AIアルゴリズムの再学習と精度向上(特に電子廃棄物の検出精度向上を目指す)
- プロダクト開発とユーザーインターフェースの改善
すでにアメリカの有力アクセラレーター「Techstars」から25万ユーロの出資を受けており、Google主催の「気候変動アクセラレータープログラム」や、NVIDIAのスタートアップ向け特別プログラム「Inception Program」にも採択されるなど、技術面での信頼性と将来性が高く評価されています。
AI×廃棄物、未開拓分野で持続可能なインパクトを
Wastetideが挑戦するのは、これまで十分に注目されてこなかった「普通の産業廃棄物」の再評価と再資源化です。この分野は、インフラや規制が複雑で、テクノロジーの導入が遅れていましたが、そこにAIを持ち込むことで一気にパラダイムを転換しようとしています。
特に「撮るだけで価値がわかる」というシンプルなUIは、現場の作業員でも使える直感的な設計で、企業における導入ハードルを下げている点も評価されています。
今後は、建設現場や自動車工場だけでなく、物流業界や小売業界など、あらゆる産業分野への展開が期待されており、「廃棄物=コスト」だった時代から、「廃棄物=収益資源」への転換を促す存在になるでしょう。
