
欧州における水素列車の状況
水素列車とは:
水素列車とは、水素燃料電池を搭載し、水素と酸素の化学反応によって電力を発生させて走行する列車です。走行時に排出されるのは水蒸気のみであり、二酸化炭素を排出しないため、環境に優しい次世代の鉄道車両として注目されています。
水素列車はディーゼル列車と比べて、二酸化炭素を排出しないため環境負荷が低く、騒音も少ないという利点があります。非電化路線において、ディーゼル列車を置き換える有効な手段として期待されています。
燃料電池の仕組み:
水素列車の心臓部は燃料電池です。燃料電池は、水素と酸素を化学反応させて電気を生成します。この過程で発生するのは水蒸気のみで、CO2などの温室効果ガスは排出されません。具体的には、列車の屋根に搭載された水素タンクから水素が供給され、燃料電池内で酸素と反応して電気を生み出します。
水素燃料電池列車導入による環境への影響
水素燃料電池列車の導入は、従来のディーゼル列車と比較して、環境に以下のようなプラスの影響をもたらします。
具体的に、ベルリン・ブランデンブルク州で導入されるMireo Plus Hは、年間110万リットルのディーゼル燃料の節約と、3,000トンのCO2排出量削減を見込んでいます。
しかし、水素燃料電池列車の導入が環境に完全に無害であるわけではありません。水素の製造過程でCO2が排出される可能性があるため、真に環境に優しい水素燃料電池列車を実現するためには、再生可能エネルギーを用いたクリーン水素の利用が不可欠です。
世界の水素列車の導入状況:
現在、世界各国で水素列車の導入が進んでいます。例えば、ドイツでは世界初の水素燃料列車が運行を開始し、カリフォルニアでもアメリカ初の水素駆動旅客列車が2025年に運行予定です。日本でもJR東日本が水素ハイブリッド車両の開発を進めており、2030年度の実用化を目指しています。
ドイツの水素列車競争
ドイツは水素列車の開発において世界をリードしており、Alstom社とSiemens社の2社が競い合っています。Alstom社はCoradia iLintを、Siemens社はMireo Plus Hを開発し、実用化が進められています。
Coradia iLintは、世界初の水素列車として2018年に営業運転を開始し、当初は大きな注目を集めました。 しかし、その後、技術的な問題が相次いで発生し、信頼性が低下したため、その隙をSiemens社のMireo Plus Hが突く形で、バイエルン州とベルリン近郊で運行を開始しました。
Mireo Plus Hは2024年12月に営業運転を開始したばかりで、現時点では目立った技術的な問題は報告されていません。 Siemensは、Coradia iLintの教訓を活かし、信頼性向上に力を入れてMireo Plus Hを開発したとされています。
商業運行の成功には、技術的な信頼性だけでなく、コストやインフラ整備なども重要な要素となります。 Coradia iLintは初期費用が高く、水素ステーションなどのインフラ整備も遅れていることが課題となっています。 Mireo Plus Hもこれらの課題を克服する必要があるものの、現時点ではCoradia iLintよりも商業的に成功する可能性が高いと言えます。
今後の展開としては、両社が技術的な課題を克服し、信頼性とコストパフォーマンスを向上させていくことが重要です。 また、水素供給インフラの整備や政府の支援なども、水素列車の普及を促進する上で不可欠な要素となります。
Alstom社の課題点:
2016年にCoradia iLintを発表し、2022年にニーダーザクセン州で営業運転を開始。その後ヘッセン州でも導入。
しかしヘッセン州では、Coradia iLintを導入した鉄道会社RMVが、2年間の運用で度重なる故障や部品不足などの技術的な問題が頻発したため、2025年からCoradia iLintをディーゼル車両に一時的に置き換えることを決定し、アルストム社は新しい推進技術に対する信頼を損なったと批判されています。
具体的な技術的な問題点は明確にされていませんが、報道や専門家の意見から、以下の点が指摘されています。
Alstom社の対応策:
ヘッセン州では、2025年末までディーゼル列車を代替として使用することを決定。
Alstom社は、2025年からCoradia iLintに新しい世代の燃料電池を搭載し、近代化プログラムを実施する予定です。
これにより、信頼性と性能が向上し、RMVの路線に復帰できる見込みです。
その他の問題についても、以下のような対応策を講じています。
アルストム社が水素列車事業で成功するためには、これらの対応策を着実に実行し、信頼性を回復することが不可欠です。 また、水素供給インフラの整備や政府の支援なども、水素列車の普及を促進する上で重要な要素となります。
Siemens社の躍進:
Siemens社のMireo Plus Hの商業運行開始時期と運行路線:
シーメンス社製の新型水素列車「Mireo Plus H」は、2024年12月15日からのダイヤ改正に合わせて営業運転を開始する予定です。
運行路線は以下の通りです。
今後の展望
水素列車市場は、今後急速に成長すると予想されており、アルストム社とシーメンス社の競争はさらに激化すると考えられます。両社が市場で成功するためには、以下の点が重要になるでしょう。
水素列車は、初期導入コストが高いという課題がありますが、環境規制の強化や技術の進歩に伴い、普及が進むと予想されます。
ドイツにおける水素列車の導入は、Alstom社の初期のつまずきからSiemens社が優位に立つ展開を見せています。今後、Siemens社が信頼性を維持し、市場を拡大できるか、また他のメーカーとの競争がどのように展開されるかが注目されています。
ドイツ以外にも、スペイン、スイス、中国などで開発が進められており、世界的な普及が期待されています。
