Micro Plus H-topaz
ドイツでは、水素列車の導入が本格化し始めています。2024年12月15日からのダイヤ改正に合わせて、Siemens Mobility製の「Mireo Plus H」水素列車がバイエルン州とベルリン・ブランデンブルク州で営業運転を開始する予定です

欧州における水素列車の状況

水素列車とは

水素列車とは、水素燃料電池を搭載し、水素と酸素の化学反応によって電力を発生させて走行する列車です。走行時に排出されるのは水蒸気のみであり、二酸化炭素を排出しないため、環境に優しい次世代の鉄道車両として注目されています。

水素列車はディーゼル列車と比べて、二酸化炭素を排出しないため環境負荷が低く、騒音も少ないという利点があります。非電化路線において、ディーゼル列車を置き換える有効な手段として期待されています。

燃料電池の仕組み

水素列車の心臓部は燃料電池です。燃料電池は、水素と酸素を化学反応させて電気を生成します。この過程で発生するのは水蒸気のみで、CO2などの温室効果ガスは排出されません。具体的には、列車の屋根に搭載された水素タンクから水素が供給され、燃料電池内で酸素と反応して電気を生み出します。

水素燃料電池列車導入による環境への影響

水素燃料電池列車の導入は、従来のディーゼル列車と比較して、環境に以下のようなプラスの影響をもたらします。

  • CO2排出量の削減
    水素燃料電池は、水素と酸素の化学反応によって電気を発生させ、その際に排出されるのは水のみです。このため、走行中のCO2排出量がゼロとなり、地球温暖化対策に大きく貢献します。
  • 大気汚染の改善
    ディーゼル列車は、走行中に窒素酸化物や粒子状物質などの大気汚染物質を排出します。一方、水素燃料電池列車はこれらの有害物質を排出しないため、大気質の改善に役立ちます。
  • エネルギー効率
    燃料電池は高いエネルギー効率を持ち、従来のディーゼル列車に比べて運行コストを削減できます。
  • 静音性
    水素列車は電動であるため、運行時の騒音が少なく、周囲の環境に配慮した運行が可能です。

具体的に、ベルリン・ブランデンブルク州で導入されるMireo Plus Hは、年間110万リットルのディーゼル燃料の節約と、3,000トンのCO2排出量削減を見込んでいます。

しかし、水素燃料電池列車の導入が環境に完全に無害であるわけではありません。水素の製造過程でCO2が排出される可能性があるため、真に環境に優しい水素燃料電池列車を実現するためには、再生可能エネルギーを用いたクリーン水素の利用が不可欠です。

世界の水素列車の導入状況

現在、世界各国で水素列車の導入が進んでいます。例えば、ドイツでは世界初の水素燃料列車が運行を開始し、カリフォルニアでもアメリカ初の水素駆動旅客列車が2025年に運行予定です。日本でもJR東日本が水素ハイブリッド車両の開発を進めており、2030年度の実用化を目指しています。

  • ドイツ
    ドイツは水素列車の開発において世界をリードしており、Alstom社とSiemens社の2社が競い合っています。Alstom社はCoradia iLintを、Siemens社はMireo Plus Hを開発し、実用化が進められています。
    特に、Alstom社のCoradia iLintの車両はゼロエミッションを実現し、環境に優しい交通手段として期待されています。しかし、最近の運行中に故障が発生し、全面運休となる事例も報告されています。
  • スイス
    スイスでは、スタドラー社の水素列車「FLIRT H2」が開発され、ギネス世界記録を達成しました。この列車は、給油や充電なしで2803kmを走行することができ、効率的な運行が可能です。また、2024年のイノトランスでは、スイスのシュタドラーが展示した実験車両「RS ZERO」が水素とバッテリーの両方に対応可能であることを売りにしており、これも水素列車の技術の多様性を示しています。
  • フランス
    フランスでも水素列車の開発が進んでおり、特にアルストム社が中心となって新しいモデルの開発を行っています。これにより、フランス国内の非電化路線での運行が期待されています。
  • オーストリア
    オーストリア政府はカーボンニュートラルを目指し、水素技術の研究開発を進めています。特に公共交通機関への水素技術の応用が注目されており、水素ステーションの設置や燃料電池バスの導入が進められています。
  • 日本
    日本では、JR東日本が2030年度に水素電車を導入する計画を立てています。また、JR東海も水素エンジンと燃料電池の両方を検討しており、山間部の非電化区間でも運行可能な出力を目指しています。
  • 中国
    中国では、中車青島四方機車車両が開発した水素エネルギーを利用した都市間高速列車「CINOVA H2」が登場しました。この列車はゼロカーボン排出を実現し、高速での運行が可能です。

ドイツの水素列車競争

ドイツは水素列車の開発において世界をリードしており、Alstom社とSiemens社の2社が競い合っています。Alstom社はCoradia iLintを、Siemens社はMireo Plus Hを開発し、実用化が進められています。

Coradia iLintは、世界初の水素列車として2018年に営業運転を開始し、当初は大きな注目を集めました。 しかし、その後、技術的な問題が相次いで発生し、信頼性が低下したため、その隙をSiemens社のMireo Plus Hが突く形で、バイエルン州とベルリン近郊で運行を開始しました。

Mireo Plus Hは2024年12月に営業運転を開始したばかりで、現時点では目立った技術的な問題は報告されていません。 Siemensは、Coradia iLintの教訓を活かし、信頼性向上に力を入れてMireo Plus Hを開発したとされています。

商業運行の成功には、技術的な信頼性だけでなく、コストやインフラ整備なども重要な要素となります。 Coradia iLintは初期費用が高く、水素ステーションなどのインフラ整備も遅れていることが課題となっています。 Mireo Plus Hもこれらの課題を克服する必要があるものの、現時点ではCoradia iLintよりも商業的に成功する可能性が高いと言えます。

今後の展開としては、両社が技術的な課題を克服し、信頼性とコストパフォーマンスを向上させていくことが重要です。 また、水素供給インフラの整備や政府の支援なども、水素列車の普及を促進する上で不可欠な要素となります。

Alstom社の課題点:

2016年にCoradia iLintを発表し、2022年にニーダーザクセン州で営業運転を開始。その後ヘッセン州でも導入。

しかしヘッセン州では、Coradia iLintを導入した鉄道会社RMVが、2年間の運用で度重なる故障や部品不足などの技術的な問題が頻発したため、2025年からCoradia iLintをディーゼル車両に一時的に置き換えることを決定し、アルストム社は新しい推進技術に対する信頼を損なったと批判されています。
具体的な技術的な問題点は明確にされていませんが、報道や専門家の意見から、以下の点が指摘されています。

  • 部品の供給不足
    水素列車は新しい技術であるため、部品の供給が追いついていない可能性があります。
  • 燃料電池システムの不具合
    燃料電池システムの耐久性や信頼性に問題がある可能性があります。
  • メンテナンスの難しさ
    水素列車のメンテナンスには、専門的な知識や技術が必要です。

Alstom社の対応策:

ヘッセン州では、2025年末までディーゼル列車を代替として使用することを決定。
Alstom社は、2025年からCoradia iLintに新しい世代の燃料電池を搭載し、近代化プログラムを実施する予定です。

これにより、信頼性と性能が向上し、RMVの路線に復帰できる見込みです。
その他の問題についても、以下のような対応策を講じています。

  • 技術的な改良
    アルストム社は、Coradia iLintの技術的な問題点を分析し、信頼性向上のための改良を進めています。
  • 部品供給体制の強化
    部品の供給不足を解消するために、サプライチェーンの見直しや増産体制の構築を進めています。
  • メンテナンス体制の強化
    水素列車のメンテナンスに対応できる技術者の育成や、メンテナンス拠点の拡充を進めています。

アルストム社が水素列車事業で成功するためには、これらの対応策を着実に実行し、信頼性を回復することが不可欠です。 また、水素供給インフラの整備や政府の支援なども、水素列車の普及を促進する上で重要な要素となります。

Siemens社の躍進

  • Alstom社のつまずきを受け、Siemens社のMireo Plus Hがバイエルン州とベルリン近郊で営業運転を開始。
  • ベルリン近郊では7編成が導入され、年間110万リットルのディーゼル燃料と3,000トンのCO2排出量を削減見込み。
  • バイエルン州では2年半にわたりディーゼル列車を段階的に置き換え、最終的には路線を拡大予定。
  • Mireo Plus Hは、最大1,200kmの航続距離と最高速度160km/hを誇る。

Siemens社のMireo Plus Hの商業運行開始時期と運行路線

シーメンス社製の新型水素列車「Mireo Plus H」は、2024年12月15日からのダイヤ改正に合わせて営業運転を開始する予定です。
運行路線は以下の通りです。

  • バイエルン州
    バイエルン地方鉄道(BRB)がディーゼル列車を置き換える形で「Mireo Plus H」を導入します。
  • 試験運行は、まずオストアルゴイ-レヒフェルトネットワークで一部の運行から開始されます。
  • その後、運行範囲が拡大され、アマーゼー-アルトミュールタールネットワークでも運行される予定です。
  • ベルリン・ブランデンブルク州
    ニーダーバルニマー・アイゼンバーン鉄道会社(NEB)がハイデクラウトバーン線で7編成の「Mireo Plus H」を運行する予定です。

今後の展望

水素列車市場は、今後急速に成長すると予想されており、アルストム社とシーメンス社の競争はさらに激化すると考えられます。両社が市場で成功するためには、以下の点が重要になるでしょう。

  • 信頼性の向上
    水素列車の普及には、信頼性の向上が不可欠です。アルストム社は、Coradia iLintの技術的な問題を解決し、信頼性を回復させる必要があります。シーメンス社は、Mireo Plus Hの信頼性を維持し、さらに向上させていく必要があります。
  • コスト削減
    水素列車は、ディーゼル列車と比べてコストが高いことが課題となっています。両社は、量産効果や技術革新によってコスト削減を進め、価格競争力を高める必要があります。
  • 水素供給インフラの整備
    備が不可欠です。両社は、政府やエネルギー企業と協力して、水素供給インフラの整備を推進する必要があります。
  • 競争の激化:
    水素列車の導入は、脱炭素化と地域鉄道の活性化に貢献する重要なステップとなるため、他のメーカー(スペインのCAF、スイスのStadler、中国のCRRCなど)も水素列車市場に参入しており、競争の激化は加速することと予想されています。

水素列車は、初期導入コストが高いという課題がありますが、環境規制の強化や技術の進歩に伴い、普及が進むと予想されます。

ドイツにおける水素列車の導入は、Alstom社の初期のつまずきからSiemens社が優位に立つ展開を見せています。今後、Siemens社が信頼性を維持し、市場を拡大できるか、また他のメーカーとの競争がどのように展開されるかが注目されています。

ドイツ以外にも、スペイン、スイス、中国などで開発が進められており、世界的な普及が期待されています。