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海洋におけるプラスチック汚染は、環境に深刻な影響を及ぼしていますが、微生物との相互作用に関する研究により、地球上の生物にとって更に深刻な影響があることがわかってきました。プラスチックが海に流入すると、微生物がその表面に付着し、特有の生態系を形成します。そこで生まれたプラスチックを食べる微生物がプランクトンや魚の体内に取り込まれ、食物連鎖を通じて生態系全体に影響を及ぼすことが懸念されています。

深海底や中層に溜まる永遠に消えないごみ

プラスチックは海洋生物に様々な悪影響を与えます。例えば、誤飲による窒息や餓死、プラスチックに絡まることによる怪我や動きの制限、そしてプラスチックに含まれる有害化学物質による中毒など、多くの害があることがわかっています。

調査によると、年間最大 1,100 万トンのプラスチックが海に流れ着いています。約5,000億個のマイクロプラスチックが地表や深層を「泳ぎ」、最も影響を受けている海のひとつである地中海だけでも、動物プランクトンとほぼ同数のマイクロプラスチックが存在することが解明されています。

海洋研究開発機構(JAMSTEC)と国連環境計画(UNEP)が、過去30年にわたり潜水調査船などで収集したデータによれば、水深2000メートルより深い海底で見つかったごみの33%がプラスチックであり、その89%がスーパーなどのレジ袋などの使い捨てプラスチックだったそうです。
プラスチックの割合は6000メートル以深では50%(使い捨てプラスチックは92%)に増加していたとのことで、深海の生態系に与える影響も憂慮されます。

石油でできたプラスチックは微生物に分解されないため、永遠に消えないごみとして、海の中に存在し続けることが問題とされてきました。
海へ流れ込んだプラスチックごみはやがて深海の海底へと到達しますが、アクセスの難しさから、回収される見込みはほぼありません。

さらに、海中ではプラスチックと細菌による憂慮すべきマリアージュ(結合)が起きてしまっていることが、フランス国立科学研究センター (CNRS)の研究者チームによる1年間のプラスチック廃棄物の影響に関する科学的ミッションにより解明されました。
石油でできたプラスチックでも、分解する微生物が存在すること、しかしその分解にもプラス面とマイナス面があり、マイナスな影響のほうが深刻であるということが研究結果として発表されたのです。

バニュルス・シュル・メール微生物海洋学研究所の研究チームの発見

フランス国立科学研究センター (CNRS) のバニュルス・シュル・メール海洋観測所で、海洋微生物生態毒性学研究室の研究部長を務めるジャン=フランソワ・ギリオン(Ghiglione Jean-François)氏の研究チームは、プラスチックと細菌の相互作用について、いくつかの重要な発見をしました。

  • プラスチックへの細菌の付着
    海中のプラスチックには、多くの細菌が付着し、複雑なバイオフィルムを形成しています。細菌は、プラスチック表面にクモの巣のような構造を作り、付着します。このバイオフィルムは、他の微生物や生物の付着を促進し、独自の生態系を形成します。
  • 細菌群集の多様性
    プラスチックに付着する細菌の種類は、プラスチックの種類、形状、周辺の海洋環境など、さまざまな要因によって異なります。ギリオン氏の研究チームは、地中海で採取したプラスチックサンプルから、非常に多様な細菌群集を発見しました。この研究では、どのような種類の細菌がプラスチックに付着し、どの種類の細菌が離れていき、どの種類の細菌がプラスチックの表面や内部で互いに結合するかを解明しようと試みています。
  • 汚染物質の影響
    研究チームは、プラスチックと細菌の複合体が環境と生物多様性に悪影響を及ぼすことを発見しました。プラスチックに付着した細菌は、炭化水素、日焼け止めクリームの残留物、フタル酸エステルなどの汚染物質を餌とし、それらを変化させたり、輸送したりします。
  • バイオデグレーデーションの限界
    研究チームは、プラスチックの生物分解(バイオデグレーデーション)は非常に遅く、自然環境下ではほとんど起こらないことを実験室での研究で確認しました。つまり、プラスチックは海洋環境中に長期間残留し、細菌や他の生物に継続的に影響を与える可能性があります。
  • 健康への影響
    プラスチックに付着した細菌の中には、魚類に病気を引き起こす病原菌も含まれています。これらの病原菌は、海洋生物の健康に悪影響を与えるだけでなく、食物連鎖を通じて人間にも影響を及ぼす可能性があります。
    バニュルス・シュル・メールの微生物海洋学研究所の研究者たちは、プラスチックと細菌の相互作用が海洋生態系と人間の健康に深刻な脅威をもたらす可能性があることを示唆する重要な発見をしました。これらの発見は、プラスチック汚染問題の解決に向けた国際的な取り組みの必要性を強調するものです。

プラスチック生産量と海洋汚染の関連性

プラスチック生産量と海洋汚染は密接に関連しています。 プラスチック生産量の増加は、海洋汚染の悪化に直結すると言えます。

  • プラスチック生産量の急増
    過去50年間でプラスチック生産量は20倍に増加し、今後20年間でさらに2倍になると予測されています。 毎年3億トン以上のプラスチックが生産されており、その40%が包装用に使われています。 このように大量のプラスチックが生産され、消費されていることが、海洋汚染の根本的な原因となっています。
  • 廃棄物の流出
    生産されたプラスチックのうち、最終的に海に流れ着くものが少なくありません。 包装材の30%以上が海に流出しているという推計もあります。 陸上で廃棄されたプラスチックは、河川や排水溝を通じて海に到達します。 海は、最終的にはあらゆる廃棄物の行き着く場所となっています。
  • 海洋生態系への影響
    海に流出したプラスチックは、海洋生物に深刻な影響を与えます。 海鳥や海洋哺乳類が誤ってプラスチックを摂取し、死亡するケースが報告されています。 また、プラスチックは海洋生物の生息環境を破壊し、生態系のバランスを崩す可能性もあります。
  • 分解の遅さ
    プラスチックは自然環境下では分解されにくく、海洋に蓄積され続けます。 プラスチックの寿命は約100年と推定されており、分解されるまでに非常に長い時間がかかります。 一部の細菌はプラスチックを分解する能力を持っていますが、そのプロセスは非常に遅く、自然界でのプラスチック分解にはほとんど寄与していません。

これらのことから、プラスチック生産量の増加が海洋汚染の深刻化に拍車をかけていることは明らかです。 海洋汚染を食い止めるためには、プラスチック生産量を抑制し、リサイクルや代替素材の利用など、プラスチックの使用量を削減する取り組みが不可欠です。
私たちの日常生活におけるプラスチックの使用量を減らすことも、海洋汚染の解決に貢献する重要な行動です。

海洋プラスチックの生物分解速度とその要因

海洋プラスチックの生物分解速度は、非常に遅く、そのプロセスは複雑で多くの要因に影響されます。

生物分解速度に影響を与える要因

プラスチックの種類

  • ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)など、一般的に使用されるプラスチックは、分解に強い構造を持っているため、生物分解速度が非常に遅いです
  • 一方、ポリ乳酸(PLA)など、バイオプラスチックと呼ばれるものは、微生物によって分解されやすい構造を持つため、比較的速く分解されます。
  • しかしたとえバイオプラスチックであっても、海洋環境での分解速度は必ずしも速くはありません。

環境条件

  • 水温、紫外線量、酸素濃度、塩分濃度など、海洋環境の条件によって、微生物の活性やプラスチックの分解速度が変わります。
  • 例えば、水温が高いほど微生物の活性は高まりますが、酸素濃度が低いと分解速度は遅くなります。

微生物の活動

  • 海洋には、プラスチックを分解する酵素を産生する能力を持つ微生物が存在します。
  • しかし、これらの微生物の数は限られており、分解速度も遅いため、海洋プラスチック問題の解決には不十分です。
  • バニュルス・シュル・メール海洋観測所の研究チームは、プラスチックに付着する細菌群集の多様性について研究を進めており、特定の細菌がプラスチック分解に重要な役割を果たす可能性を示唆しています。

プラスチックの形状とサイズ

  • 表面積が大きいほど、微生物が作用しやすいため、分解速度が速くなります。
  • マイクロプラスチックやナノプラスチックは、表面積が大きいため、比較的分解されやすい可能性があります。

海洋プラスチック分解のメカニズム

  • 物理的な分解
    波や海流による摩擦、紫外線による劣化などによって、プラスチックは小さな断片に分解されます。
  • 生物的な分解
    微生物が、プラスチックを分解する酵素を産生し、代謝することで分解が進みます。
  • 化学的な分解
    加水分解など、水と反応して分解が進む場合もあります。

生物分解の遅さがもたらす問題

海洋生態系への影響

  • 海洋生物がプラスチックを誤って摂取し、消化器系に詰まったり、栄養不足になったりするなどの被害が生じています。
  • また、プラスチックに有害物質が含まれている場合、食物連鎖を通じて生態系全体に広がる可能性もあります。

環境への影響

  • プラスチックは、海洋に漂うだけでなく、海底にも堆積します。
  • 分解されずに長期間残留することで、景観を損なうだけでなく、海洋環境全体の悪化につながります。

生物分解の促進に向けた取り組み

  • 分解速度の速いプラスチックの開発
    海洋環境中での分解速度が速いプラスチックの開発や、バイオプラスチックの利用促進が進められています。
  • 微生物分解技術の開発
    プラスチックを効率的に分解する微生物や酵素の探索と利用が進められています。
    バニュルス・シュル・メール海洋観測所の研究チームは、プラスチック分解能力を持つ細菌の研究に力を入れています。

海洋プラスチックの生物分解は、環境問題の解決に不可欠なプロセスですが、現状ではその速度が非常に遅く、多くの課題が残されています。 科学技術の進歩や国際的な協力、そして私たち一人ひとりの行動変容によって、この問題を克服していく必要があるでしょう。

餌と誤認による海洋生物への悪影響

  • 海洋生物、特にウミガメなどの視力の弱い生物は、プラスチック片をクラゲなどの餌と誤認して摂取してしまうことがあります。
  • また、細菌がバイオフィルムを形成したプラスチック片は、生物にとってより魅力的に見える可能性があり、誤認を助長する可能性も考えられます。
  • プラスチック片の摂取は、海洋生物の消化器系を詰まらせ、栄養不足や餓死を引き起こす可能性があります。

化学物質の蓄積と食物連鎖への影響

  • プラスチックは、PCB(ポリ塩化ビフェニル)などの有害な化学物質を吸着しやすい性質があります。
  • 細菌は、これらの化学物質を分解したり、体内に蓄積したりします。
  • プラスチック片を摂取した海洋生物は、これらの化学物質を体内に取り込むことになります。
  • 化学物質は食物連鎖を通じて上位の捕食者にまで蓄積され、生態系全体に悪影響を及ぼす可能性があります。

マイクロプラスチック・ナノプラスチックによる広範囲な汚染

  • プラスチックは、波や紫外線などの影響で、時間の経過とともに小さなマイクロプラスチックやナノプラスチックに分解されます。
  • これらの微小なプラスチックは、海洋全体に拡散し、海底堆積物にも蓄積します。
  • マイクロプラスチック・ナノプラスチックは、海洋生物が摂取しやすく、より広範囲の生物に影響を及ぼす可能性があります。

分解の遅さと長期的な影響

  • 多くのプラスチックは、自然環境下では分解速度が非常に遅く、数百年から数千年もの間、海洋環境中に残留する可能性があります。
  • プラスチックと細菌の相互作用による海洋生態系への影響は、長期にわたって続く可能性があり、その全容はまだ解明されていません。

海洋プラスチック汚染を解決するために、私たちにできること

  • 使い捨てプラスチックの使用を減らすこと
  • 再利用可能な製品を選ぶこと
  • プラスチックを適切に分別し、リサイクルすること
  • ビーチクリーンアップ活動に参加すること
  • 企業や政府に、プラスチック削減の取り組みを促す
  • プラスチック汚染問題の深刻さを認識し、国際的な取り組みを支援すること

バニュルス・シュル・メール海洋観測所の研究チームなど、多くの科学者がプラスチックと細菌の相互作用について研究を進めていますが、その影響の全容を解明するには、さらなる研究が必要です。 しかし、現時点で明らかになっている影響だけでも、海洋生態系への深刻な脅威であることは間違いありません。

海洋プラスチック汚染における生物学的影響

海洋プラスチック汚染は、海洋生態系に様々な生物学的影響を及ぼします。その中でも特に深刻な影響として、以下の3つが挙げられます。

  • 誤飲による海洋生物の死亡:
    海鳥、魚類、ウミガメなど、多くの海洋生物がプラスチックを誤飲しています。これは、プラスチックが餌と似ているため、または餌と一緒に摂取してしまうためです。誤飲したプラスチックは消化されず、胃や腸に詰まって、栄養失調や消化器系の損傷を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。 例えば、ウミガメはクラゲとビニール袋を区別することができず、誤飲してしまうケースが報告されています。 また、毎年140万羽の海鳥がプラスチックの誤飲によって死亡していると推定されています。
  • 食物連鎖への影響:
    マイクロプラスチックは、海洋生態系の食物連鎖全体に影響を及ぼします。プランクトンなどの小さな生物がマイクロプラスチックを摂取すると、それを捕食するより大きな生物にもプラスチックが蓄積されていきます。 このように、食物連鎖を通じてプラスチックは上位の捕食者にまで到達し、生態系全体に悪影響を及ぼす可能性があります。 例えば、地中海では、マイクロプラスチックの濃度がプランクトンの濃度と同程度になっているという報告があります。
  • 化学物質による汚染:
    プラスチックには、製造過程で添加される可塑剤や難燃剤などの化学物質が含まれています。これらの化学物質は、海洋生物に有害な影響を与える可能性があります。 プラスチックが海洋環境に流出すると、これらの化学物質が溶け出し、海洋生物に吸収されます。 さらに、プラスチックに付着した細菌がこれらの化学物質を分解し、より毒性の強い物質を生成することもあります。

これらの生物学的影響は、海洋生態系の健全性を脅かす深刻な問題です。海洋プラスチック汚染を解決するためには、プラスチックの使用量を削減し、適切な廃棄処理を行うなど、私たちの行動を変える必要があります。

プラスチックに付着する細菌群集の多様性と機能は?

プラスチックに付着する細菌群集は、非常に多様性に富んでおり、その機能も多岐にわたります。

細菌群集の多様性

  • プラスチックの種類、形状、海洋環境などによって、付着する細菌の種類や組成が異なります。
  • 海洋プラスチックには、数百種類もの細菌が付着していることが確認されています。
  • 中には、特定のプラスチックにのみ見られる特殊な細菌も存在します。

細菌群集の機能

  • プラスチックの分解
    細菌の中には、酵素を分泌してプラスチックをオリゴマー(oligomer)やモノマー(monomer)と呼ばれる小さな断片に分解する能力を持つものもいます。
  • 汚染物質の分解
    プラスチックに付着した細菌の中には、PCBなどの有害物質を分解できるものもいます。
  • 病原菌:
    一方で、魚類に病気を引き起こす病原菌もプラスチック上で発見されており、海洋生物の健康に悪影響を与える可能性があります。
  • バイオフィルム形成
    細菌はプラスチック表面にバイオフィルムと呼ばれる集合体を形成します。これは、他の生物が付着するための基盤となり、複雑な生態系を形成する役割を果たします。
  • 分散:
    プラスチックに付着した細菌は、海流に乗って広範囲に分散し、他の地域に影響を与える可能性があります。

研究の現状と課題

海洋プラスチックに付着する細菌群集の研究は、まだ始まったばかりです。
細菌の多様性や機能、生態系への影響など、解明すべき課題が多く残されています。
特に、プラスチック分解菌の能力や、その分解メカニズムの解明は、プラスチック汚染問題の解決に向けて重要な研究テーマです。
プラスチックに付着する細菌群集は、海洋プラスチック汚染に複雑に関与しており、その多様性と機能は、海洋生態系全体に大きな影響を与える可能性があります。

プラスチックと細菌の相互作用は海洋生態系にどう影響するか?

プラスチックと細菌の相互作用は、海洋生態系に複雑で深刻な影響を及ぼします。

  • 細菌は、海に流出したプラスチック片にコロニーを形成します
    この現象は、プラスチック片が海に漂流し始めるとすぐに起こり、細菌は「クモの巣状」の構造を作ってプラスチック片に付着します。この細菌のコロニーは、プラスチックを分解する能力を持つものもあれば、プラスチックに付着した汚染物質を分解するものもあり、海洋生態系にプラスとマイナスの両方の影響を与えます。
  • プラスチックに付着した細菌は、他の海洋生物に有害な影響を与える可能性があります
    例えば、一部の細菌は魚類の病原菌となったり、特定の病原菌が繁殖しやすくなるなど、魚類などの海洋生物に病気や死をもたらす可能性も指摘されています。また、これらの細菌は食物連鎖を通じて、最終的に人間にも影響を与える可能性があります。
  • マイクロプラスチックは、海洋生物に直接的な害を及ぼします
    海洋生物は、マイクロプラスチックを餌と間違えて摂取することがあります。 これは、海洋生物の栄養失調や消化器系の損傷を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。
    また、通常の海洋環境とは異なる微生物群集が形成されることで、海洋生態系のバランスが崩れる可能性があります。
  • プラスチックに付着した細菌は、プラスチックの分解を促進する可能性があります
    細菌は、酵素を分泌してプラスチックをオリゴマーやモノマーと呼ばれる小さな断片に分解します。 これらの断片は、一部の細菌によって栄養源として利用されます。
  • しかし、自然環境下でのプラスチックの生物分解は非常に遅く、 プラスチック汚染問題の解決策としては期待できません。

これらの相互作用は、海洋生態系の健全性に深刻な脅威をもたらしています。 プラスチック汚染を抑制し、海洋生態系を保護するために、プラスチックの使用量を削減し、適切な廃棄処理を行うことが不可欠です。

海洋プラスチック汚染の主要な原因

海洋プラスチック汚染の主な原因は、プラスチックの過剰生産と不適切な廃棄管理です。

  • プラスチック生産の増加
    過去50年間でプラスチックの生産量は20倍に増加し、現在では年間3億トンを超えています。この増加は、安価で用途の広いプラスチックが包装材として大量に使用されていることが主な要因です。さらに、今後20年間でプラスチック生産量はさらに2倍になると予測されており、海洋プラスチック汚染はますます深刻化する可能性があります。
  • 不十分な廃棄物管理
    生産されたプラスチックの約30%以上が適切に処理されずに海洋に流出しています。これは、廃棄物収集システムが不十分な地域や、ポイ捨てなどの人為的な要因が主な原因です。 陸上から河川や排水溝を通じて海に流入するプラスチックは、最終的に海洋に蓄積され、生態系に深刻な影響を及ぼします。
  • 使い捨てプラスチックの過剰消費
    現代社会における使い捨て文化は、プラスチック汚染問題を悪化させています。安価で便利な使い捨てプラスチック製品は、大量に消費され、廃棄されています。
  • プラスチックの耐久性
    プラスチックは自然環境下では分解されにくく、長期間にわたって環境中に残留します。そのため、一度海洋に流出したプラスチックは、分解されることなく海洋生物に悪影響を与え続けます。

これらの要因が複合的に作用することで、海洋プラスチック汚染は深刻化しています。
海洋プラスチック汚染問題を解決するためには、プラスチックの生産量を削減し、リサイクルを促進し、適切な廃棄物管理システムを構築することが重要です。 また、使い捨てプラスチックの使用を控え、繰り返し使える製品を選ぶなど、消費者の意識改革も必要です。

科学者は海洋プラスチック問題に対してどのような取り組みをしていますか?

科学者たちは、海洋プラスチック問題の解決に向けて、様々な取り組みを行っています。

海洋プラスチックの発生源、分布、影響の調査研究

  • 科学者たちは、世界中の海を航海し、海洋プラスチックのサンプル採取や観測を行っています。
  • 採取したサンプルは、顕微鏡や化学分析などを用いて分析され、プラスチックの種類、大きさ、量などが調べられます。
  • これらの調査研究を通じて、海洋プラスチックの発生源、海洋中での分布、そして海洋生態系への影響を明らかにしようとしています。
  • 例えば、フランスのバニュルス・シュル・メール海洋観測所の研究チームは、地中海におけるマイクロプラスチックの濃度が、北太平洋のゴミベルトに匹敵するほど高いことを明らかにしました。
  • また、ローヌ川の河口付近で採取したサンプルからは、PCBなどの産業汚染物質が付着したプラスチック片が発見されており、これらのプラスチックが河川を通じて海に流れ込んでいることが示唆されています。

プラスチック分解微生物の研究

  • 科学者たちは、プラスチックを分解する能力を持つ微生物の研究にも力を入れています。
  • バニュルス・シュル・メール海洋観測所では、プラスチック片に付着する細菌群集の多様性を調査し、特定の細菌がプラスチック分解に重要な役割を果たしている可能性を解明しています。
  • これらの微生物の働きを利用することで、海洋プラスチックを生物分解によって除去する方法が開発されることが期待されています。

環境に優しいプラスチックの開発

  • 科学者たちは、海洋環境中で分解されやすい生分解性プラスチックの開発にも取り組んでいます。
  • ポリ乳酸(PLA)など、植物由来のバイオプラスチックは、微生物によって分解されやすいため、海洋プラスチック問題の解決策として期待されています。
  • また、従来のプラスチックに代わる、米やアプリコットの種などの天然素材を用いた新素材の研究も進められています。

政策提言と社会への啓蒙活動

  • 科学者たちは、研究成果を論文や学会発表などで公表し、世界に情報を発信しています。
  • また、政府や国際機関に対して、政策提言を行い、海洋プラスチック問題の解決に向けた取り組みを促しています。
  • さらに、一般市民に対して、海洋プラスチック問題の深刻さを啓蒙し、プラスチックの使用量削減や適切な処理を呼びかけています。
  • 例えば、フランスの科学者たちは、2023年から「Exploration bleue」と呼ばれる研究プロジェクトを実施し、海洋プラスチック汚染の実態を調査するとともに、社会への啓蒙活動を行っています。
  • また、国際連合環境計画 (UNEP) は、2024年末までに、プラスチック汚染を終わらせるための世界的な条約を策定することを目指して、国際的な交渉を主導しています。

科学者たちの取り組みは、海洋プラスチック問題の解決に向けて重要な役割を果たしています。 しかし、この問題を解決するには、科学者だけでなく、政府、企業、そして私たち一人ひとりの意識と行動の変化が必要です。

海洋プラスチック汚染に関する科学的知見の現状と課題

海洋プラスチック汚染に関する科学的知見は近年急速に進展していますが、依然として多くの課題が残されています。現状と課題を以下に論じます。

現状

  • プラスチックの遍在性
    科学調査により、海洋プラスチック汚染は地球規模の課題であることが明らかになっています。北極海や世界最深部であるマリアナ海溝からもプラスチックが発見されており、事実上すべての海域が汚染されていると考えられています。
  • マイクロプラスチックの脅威
    特に、5mm以下の小さなプラスチック片であるマイクロプラスチックは、海洋生態系への深刻な脅威として認識されています。マイクロプラスチックは、海洋生物による誤飲を引き起こし、食物連鎖を通じて上位捕食者にも蓄積していくことが懸念されています。さらに、マイクロプラスチックは有害な化学物質を吸着し、海洋生物に有害な影響を与える可能性も指摘されています。
  • 細菌によるプラスチック分解の解明
    最近の研究では、細菌がプラスチックを分解する能力を持つことが明らかになってきました。細菌は酵素を分泌し、プラスチックをオリゴマーやモノマーと呼ばれる小さな断片に分解します。これは、将来的にプラスチック汚染問題の解決に役立つ可能性を秘めています。
  • プラスチックと細菌の相互作用
    プラスチック片は細菌にとって格好の足場となり、多様な細菌群集が形成されます。これらの細菌の中には、プラスチックの分解を促進するものや、有害物質を分解するものが存在する一方で、病原菌も含まれており、海洋生物の健康を脅かす可能性があります。

課題

  • 海洋プラスチックの総量の把握
    現在のところ、海洋に流出するプラスチックの総量を正確に把握することは困難です。目に見えるプラスチック片だけでなく、海底に沈んだものやマイクロプラスチックなど、検出が難しいプラスチックも考慮する必要があります。正確な汚染状況を把握することは、効果的な対策を講じるための前提条件となります。
  • プラスチック分解メカニズムの解明
    細菌によるプラスチック分解は、まだ実験室レベルでの研究が進んでおり、自然環境下での分解メカニズムは完全には解明されていません。分解速度や分解生成物の影響など、さらなる研究が必要です。
  • 生態系への影響の長期評価
    マイクロプラスチックやプラスチックに付着した化学物質の海洋生態系への影響については、まだ十分な知見が得られていません。長期的な影響を評価し、生態系へのリスクを明らかにする必要があります。
  • 効果的な対策の確立
    海洋プラスチック汚染の解決には、プラスチックの生産抑制、リサイクルの促進、適切な廃棄物管理など、多岐にわたる対策が必要です。科学的知見に基づいた効果的な対策を開発し、国際的な協力体制を構築することが急務です。

結論

海洋プラスチック汚染は、地球規模で深刻化する環境問題であり、その解決には科学的知見に基づいた対策が必要です。今後、研究のさらなる進展により、より効果的な解決策が開発されることが期待されます。

用語集:

  • マイクロプラスチック:
    5mm以下の小さなプラスチック粒子。海洋環境に広く拡散しており、海洋生物への悪影響が懸念されている。
  • ナノプラスチック
    100nm以下のさらに小さなプラスチック粒子。マイクロプラスチックよりもさらに生態系への影響が懸念されているが、その挙動や影響についてはまだ解明されていない部分が多い。
  • バイオデグラデーション(biodégradation
    微生物によって有機物が分解されるプロセス。プラスチックのバイオデグラデーションは、環境中で分解可能なプラスチックの開発に重要な役割を果たす。
  • 生分解性プラスチック(plastique biodégradable):
    最近の研究では、特定の細菌がプラスチックを分解する能力を持つことが明らかになっています。これらの細菌は、プラスチックの化学構造を分解し、最終的には水と二酸化炭素に変えることができます。例えば、深海から発見された微生物は、生分解性プラスチックを分解する能力を持つことが確認されています。
  • ポリマー(polymère
    多数の小さな分子(モノマー)が結合してできた巨大な分子。プラスチックはポリマーの一種です。
  • バイオプラスチック(bioplastique
    植物由来の原料から作られたプラスチック。従来の石油由来のプラスチックに比べて環境負荷が低く、海洋プラスチック汚染問題の解決策として期待されています。
  • 内分泌かく乱物質(perturbateurs endocriniens):
    ホルモンの働きを阻害する化学物質。プラスチックに含まれる一部の添加剤は内分泌かく乱物質として作用する可能性があり、生物への影響が懸念されています。
  • 熱分解(pyrolyse):
    酸素がない状態で有機物を加熱分解するプロセス。プラスチックのpyrolyseは、プラスチックを燃料や化学原料にリサイクルする技術として注目されています。
  • プラスティスフィア(plastisphere):
    プラスチック廃棄物の表面に生息する微生物のコミュニティを指す用語です。この生態系は、特に海洋環境において、プラスチックの表面に形成される生物膜(バイオフィルム)として知られています。プラスチックは、海洋や河川に漂流する際に、微生物が付着しやすい環境を提供します。
  • 北太平洋ゴミベルト(patch de déchets du Pacifique Nord):
    北太平洋のゴミベルト、通称「太平洋ゴミベルト」は、北太平洋の特定の海域に漂流する大量のプラスチックごみやその他の廃棄物が集まる場所です。カリフォルニア州とハワイの間に位置し、約160万平方キロメートルの広さを持っています。これは日本の陸地の約4倍に相当します。
  • 循環型経済(économie circulaire
    資源を可能な限り長く循環させ、廃棄物を最小限に抑える経済モデル。海洋プラスチック汚染問題の解決策として期待されています。