CES 2025-topaz
フランス国内の政治・経済が低迷する中で、CESに出展したフランスのスタートアップ企業110社は、世界が直面する課題に対するソリューションを提供することに重点を置き、特に健康、モビリティ、持続可能性の分野におけるテクノロジーの未来を形作る上で、重要な役割を果たす態勢を整えています。

CESとは?

CES(Consumer Electronics Show)は、毎年1月にラスベガスで開催される世界最大級の家電見本市です。世界中から家電メーカーやIT企業などが参加し、最新の技術や製品を発表します。CESは、家電業界の動向を知る上で重要なイベントであり、世界中のメディアから注目されています。

CESは、世界のスタートアップ企業にとって、以下のような機会を提供することから、スタートアップ企業が海外進出するための登竜門としても有名です。

世界的な注目

  • CESは世界最大級のテクノロジー見本市であり、スタートアップ企業にとっては、世界中の投資家、パートナー、顧客に自社の製品やサービスをアピールする絶好の機会となります

ネットワーキング:

  • CESには、世界中の業界リーダー、投資家、メディアが集まります。 スタートアップ企業は、そういった関係者とネットワークを築き、ビジネスチャンスを広げることができます。特に、BMWグループ、三菱電機、ソニーイノベーションファンド、ゼネラルモーターズなどの大手企業との団体ミーティングが予定されており、有益なビジネスコネクションを築く上で重要な役割を果たします。

資金調達:

  • CESは、スタートアップ企業が資金調達を行うための重要な場でもあります。多くのベンチャーキャピタリストや企業が、CESで有望なスタートアップ企業を探しています

市場の洞察:

  • CESでは、最新のテクノロジーのトレンドや、消費者ニーズの変化を把握することができます。スタートアップ企業は、これらの洞察を自社の製品開発やマーケティング戦略に活かすことができます。

アメリカ市場への進出:

  • CESは、アメリカ市場への進出を目指すスタートアップ企業にとって、重要な足がかりとなります。アメリカは世界最大のテクノロジー市場であり、成功すれば大きなビジネスチャンスを獲得できます。

フランスのスタートアップ企業が直面している課題とは

フランスのスタートアップ企業は、CES 2025において、いくつかの課題に直面しています。

スタートアップ企業の参加数の減少

2025年のCESにおけるフランスのスタートアップ企業の参加数は、前年と比べて減少しています。2025年には、Business Franceの支援を受けて110社のフランスのスタートアップ企業がCESに参加しましたが、2024年の135社から減少してしまっています。

2018年と2019年には、COVID-19パンデミック以前は300社以上のフランスのスタートアップ企業がCESに派遣されており、パンデミック以降は参加者が減少するいっぽうとなっています。

減少の最大の理由は、フランスの政治と経済の不安定な状況です。
フランスは2024年7月に実施された実施された解散総選挙の結果により、過半数の党が存在しないハング・パーラメント(hung parliament)議会となったため、法案の成立が難しくなり、2025年度の予算が2025年に入っても議会を通過できないという前代未聞の状況に陥っています。

そのため海外からの投資が停滞するなどの影響が出ており、スタートアップ企業の海外進出にも遅れが出ています。

参加企業の減少が、スタートアップ企業の海外進出に与える影響と、今後の課題は以下の通りです。

CESへの出展数の減少が、スタートアップの未来に与える影響

スタートアップ企業への投資環境の悪化

  • CESは世界最大級のテクノロジー見本市であり、スタートアップ企業にとっては、世界中の投資家、パートナー、顧客に自社の製品やサービスをアピールする絶好の機会となります。

CESにおけるフランスの存在感の希薄化

  • CES 2025 に出展したフランスのスタートアップ企業数は 110 社で、前年 (135 社) 、2018−2019年(300社以上)よりも減少しており、CESにおけるフランスの存在感が薄れる可能性があります。

資金調達の困難さ:

  • フランスのテック業界は、資金調達の課題と、倒産件数の増加に苦しんでいます。CESに出展するスタートアップ企業の成長には、投資家からの支援が不可欠です。潜在的な顧客や投資家を説得するために、大胆かつ断固たるイメージを示す必要があります。

韓国企業との競争:

  • 韓国は、サムスンやLGなどの大手企業を含む、1,031社が出展しており(前年比772社から増加)、そのうち641社がスタートアップ企業です。フランスのスタートアップ企業は、韓国企業との競争に打ち勝つために、特に独創的で創造的である必要があります。

CESへの出展の意義と今後の課題

国際的な認知度向上

  • CESは、世界中のメディアや業界関係者が注目するイベントです。フランスのスタートアップ企業は、CESに出展することで、国際的な認知度を高め、新たな顧客やパートナーを獲得することができます。

アメリカ市場への適応

  • フランスのスタートアップ企業の多くにとって、CES 2025はアメリカ市場への初めての進出となります。アメリカのビジネス文化に適応し、効果的なマーケティングとネットワーキング戦略を採用する必要があります。

市場の洞察

  • CESは、最新の技術動向や市場ニーズを把握するための絶好の機会です。フランスのスタートアップ企業は、CESに出展することで、市場の洞察を得て、製品やサービスの開発に役立てることができます。

政府の支援

  • フランス政府は、CESに出展するスタートアップ企業を支援しています。Business Franceは、準備プログラム、コーチングセッション、ネットワーキングイベントなどを提供しています

CESはフランスのスタートアップ企業にとって、大きな課題と機会に満ちたイベントです。 課題を克服し、機会を最大限に活用することは、フランスのスタートアップ企業が国際的な成功を収めるために不可欠であり、政府によるテコ入れが行われています。

Business Franceによるサポート体制

フランス企業の国際的な成長を支援する政府機関であるBusiness Franceは、CESへの参加を最大限に活用できるように、スタートアップを支援する準備プログラムを開発しました。

参加者は、資金調達、ピッチング、アメリカ市場の理解、CES後の産業化に関するコーチングセッション、メディア、広報、輸送、ロジスティクスに関するワークショップの恩恵を受けています。
Business Franceは、BMWグループ、三菱電機、ソニーイノベーションファンド、ゼネラルモーターズなどの主要企業との団体面会も設定しています。

Business Franceは、CESに参加するフランス企業を、下に挙げるようなさまざまな方法で支援しています。

準備プログラム:

  • CESは世界最大級のテクノロジー見本市であり、スタートアップ企業にとっては、世界中の投資家、パートナー、顧客に自社の製品やサービスをアピールする絶好の機会となります
  • 資金調達、ピッチング、アメリカ市場の理解、CES後の産業化に関するコーチングセッション
  • メディア、広報、輸送、ロジスティクスに関するワークショップ
  • CES Unveiledへの参加 (CESイノベーションアワード受賞企業のみ)

ネットワーキングの機会:

  • Business Franceは、CES参加企業が、世界中の主要な関係者とネットワークを構築できるよう支援しています。具体的には、以下のような取り組みを行っています。
  • BMWグループ、三菱電機、ソニーイノベーションファンド、ゼネラルモーターズなどの主要企業との団体面会を設定
  • スタートアップ企業が、ベンチャーキャピタリストや企業のバイヤーと直接交流できる機会を提供

フランスパビリオン

  • Business Franceは、CESのEureka Parkに出展するフランスのスタートアップ企業のために、フランスパビリオンを設けています。 フランスパビリオンは、フランスのスタートアップ企業が、世界中の投資家、流通業者、企業関係者などの主要な業界関係者とつながり、ビジネスチャンスを拡大するための重要な拠点となっています。

広報活動

  • Business Franceは、CESに参加するフランス企業の広報活動を支援しています。具体的には、以下のような取り組みを行っています。
  • フランスのテックエコシステムの卓越性を促進
  • 国際市場への扉を開く

これらの支援策により、CESに参加するフランス企業は、ビジネスチャンスを拡大し、国際的な認知度を高めることができます。

フランスからの初出展の企業は80%という健闘

Business Franceの支援のおかげもあり、総出展企業数は減少したものの、CES 2025に出展したフランス企業のうち、初出展の企業は80%を占めています。 これは、フランスのスタートアップエコシステムが常に刷新され、新しい企業が次々と生まれていることを示しています。

CES 2025は、これらの新しいスタートアップ企業にとって、国際的な舞台で自分たちのイノベーションを披露し、投資家やパートナーとつながる貴重な機会となりました。
フランスから出展した110社のスタートアップ企業のうち、100社がEureka Parkに、10社がラスベガスコンベンションセンターの自動車パビリオンに出展しました。

フランス企業は、ヘルスケア、グリーンテクノロジー、モビリティという3つの主要セクターに焦点を当て、質の高いイノベーションを披露しました。 特にヘルスケア分野は、フランスパビリオンのスタートアップ企業の4分の1を占めていました。

フランス政府の支援機関であるBusiness Franceは、スタートアップ企業のCESへの参加準備、ネットワーキング、資金調達を積極的に支援しました。 Business Franceが提供した支援には、以下のようなものがあります。

CES 2025での、フランスの技術革新の世界市場における位置付け

フランスの技術革新は、CES 2025において、世界市場で確固たる地位を確立し、いくつかの主要な分野で注目を集めています。

人工知能(AI):

  • フランスは、AI技術を活用した革新的なソリューションで世界的に認知されています。CES 2025では、ヘルステック、グリーンテクノロジー、モビリティといった主要な分野において、AIを搭載した製品やサービスが数多く展示されました。

    例えば、Withingsは、AIを搭載したスマートミラー「Omnia」を発表し、健康状態を総合的に把握できる未来的なソリューションを提案しています。

    また、Skytedは、周囲の人に迷惑をかけることなくユーザーの声を増幅するAI搭載ヘッドセット「Skyted 320」を発表し、通話のプライバシー保護に貢献しています。これらの企業は、AIを駆使することで、世界が抱える課題に対する解決策を提供し、市場を牽引しています。

持続可能な技術

  • フランスは、環境問題への意識が高く、持続可能な技術開発にも力を入れています。
    CES 2025では、気候変動対策や環境保護に貢献するグリーンテクノロジーが注目を集めました。

    例えば、Aerleumは、大気中のCO2を回収し、海運や航空分野で使用可能なe-メタノールに変換する技術を開発し、脱炭素化に貢献しています。

    また、Tewkeは、家庭のエネルギー使用量を最適化するスマートライトスイッチ「Tap」を開発し、エネルギー効率の向上に貢献しています。これらの企業は、持続可能な社会の実現に向けて、革新的な技術を提供することで、世界的な評価を高めています。

モビリティ

  • フランスは、モビリティ分野においても、革新的な技術を開発し、注目されています。
    CES 2025では、自動運転、電気自動車、マイクロモビリティなど、未来の移動手段に関する技術が展示されました。

    例えば、Vayは、遠隔操作で車両を顧客に届けるカーレンタルサービスをCES 2025で紹介し、自動運転技術の進歩をアピールしました。

    Atmos Gear は、特許取得済みの交換可能なホイールシステムを備えた電動ローラーを展示しました。フランスのスタートアップ企業は、モビリティ分野の技術革新を通じて、より安全で持続可能な交通システムの構築に貢献しています。

ロボット工学

  • フランス企業は、ロボット工学の分野でも進歩を見せています。
    CES 2025 では、産業オートメーションからパーソナルアシスタントまで、幅広い用途に対応したロボットが展示されました。

    例えば、Enchanted Tools が発表した Mirokai ロボットは、ユーザーに仲間意識とロジスティックサポートを提供するように設計されており、高度な人工知能を搭載し、お店や病院で物を動かしたり、顧客や患者に情報を提供したり、支援を提供したりするために導入することができます。

これらの分野は、世界的に関心の高い分野であり、フランスのスタートアップは、これらの分野における技術革新を通じて、世界市場での存在感を高めようとしています。

パリロボくん
パリロボくん

昨年から続くフランスの政治・経済界の混乱は、2013 年に開始したフレンチテックにとって過去最大の危機と言える。健康危機が産業界にとって大きな打撃となった2020年でも、フランス国内におけるスタートアップ投資額は52億ドル(約5700億円)に増資され、ヨーロッパではイギリスとドイツに次ぐ3番目の投資額となり、ヘルスケアやロジスティックなど、時代のニーズに特化したスタートアップがどんどん生まれて、向かい風を追い風に変えてきたんだ。しかし、政治不安と国の赤字が原因となった経済の低迷や国債の格付けの引き下げは、海外の投資家たちが最も投資を控える要素だから、まだ地盤がしっかりしていないスタートアップにとっては、たった一打でも致命的な打撃になってしまう。そのうえ今回の経済危機は、フレンチテックの生みの親とも言われ、France 2030を政策のトップに掲げてきたマクロン首相が原因となった政治危機でもあり、フレンチテックに関する発言をすることは官僚たちにとって、踏み絵か地雷を踏むような、避けるべき話題になっている雰囲気がある。
でも大変な状況でこそ、官民が協力して地盤を支え、せっかく出た芽を育てていかなければ未来への希望は生まれないよね。政府の機関であるBusiness Franceは政局が不安定ななかで(2024年だけで首相が4人も変わったという前代未聞の状況だ)よく支援してきたと思うし、たとえ減少したとは言え、110社ものフランスのスタートアップ企業がCESに出展できたのは、すごい健闘だと思うんだ。この荒波を乗り越えて自分たちの足で歩いていけるよう、陰ながら応援しているよ!