
核融合エネルギーとは?
核融合エネルギーは、太陽の内部で起こっている反応と同じ原理でエネルギーを生み出す技術であり、化石燃料に代わる次世代のエネルギー源として期待されています。
核融合エネルギーの研究開発の目標は、地球上にほぼ無尽蔵でクリーン、安全、かつ経済的なエネルギー源を実現することであり、長年にわたり世界中の科学者と技術者たちの努力を結集させてきました。
核融合エネルギーの基本概念
核融合エネルギーとは、軽い原子核(例えば、水素の同位体である重水素や三重水素)が融合して、より重い原子核(主にヘリウム)を形成する際に放出されるエネルギーを指します。
太陽を含む星々では、この核融合反応がエネルギーの源となり、無限に持続可能な能力を持っています。核融合反応では、質量の一部がエネルギーに変換されるため、非常に大量のエネルギーが得られます。
核融合エネルギーは、主に水素の同位体である重水素(D)と三重水素(T)を燃料として使用し、これらを融合させることでエネルギーを生成します。この過程で生じるエネルギー量は、従来の化石燃料に比べて圧倒的に高いことが特筆されます。
核融合エネルギーが実現すれば、以下のような潜在的な利点が期待されています。
- ほぼ無尽蔵の燃料:
核融合の主要な燃料となる重水素は海水中に豊富に存在し、トリチウムはリチウムから生成できます。これらの資源は地球上に豊富に存在するため、燃料枯渇の心配が少ないとされています。 - クリーンなエネルギー:
核融合反応は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しません。 - 高い安全性:
核融合反応は連鎖反応ではないため、暴走の危険性がなく、原理的に安全性が高いと考えられています。事故が発生した場合でも、プラズマは自然に停止し、大規模な災害につながる可能性は低いとされています。 - 高エネルギー密度:
核融合は、同じ質量の燃料から核分裂よりもはるかに大きなエネルギーを生成できます。
このような利点から、1930年代に核融合の原理が解明されて以来、世界中で核融合エネルギーの実用化に向けた研究開発が進められてきました。
ローソン条件
ローソン条件(Lawson criterion)は、核融合反応を持続的に起こすために必要なプラズマの温度、密度、閉じ込め時間の指標を示すものです。具体的には、重水素と三重水素による核融合を実現するためには、プラズマが1億度の超高温を維持し、十分な密度で長時間閉じ込められる必要があります。この条件が満たされると、核融合炉の運転に必要なエネルギーと生産されるエネルギーが等しくなります。
ローソン条件を満たすことで、核融合反応から得られるエネルギーが外部から加えられるエネルギーとつり合い、持続的な反応が可能になります。これにより、核融合発電が実現するための重要なステップとなっています
現在主流の原子力発電で用いられる核分裂(重い原子核を分裂させる反応)とは逆のプロセスです。
「ローソン条件」のための三つの具体的な要件は、以下の通りです。
- 高温:
プラズマの温度は約1億度以上でなければならず、これにより原子核が必要な運動エネルギーを得て、衝突できるようになります。例えば、太陽の中心部ではこの温度が約1500万度ですが、高い密度を実現するために、地球上では1億度以上が必要とされています。 - 高密度:
1立方センチメートルあたり100兆個以上の原子核が存在する必要があり、この高密度が原子核間の衝突を促進します。これは、実際のプラズマで実現される密度の何倍も高く、反応を持続させるための条件です。 - 長い閉じ込め時間:
プラズマがゆっくり漏れ出さないよう、軽い原子核(重水素や三重水素)を一定の時間(最低でも1秒)閉じ込めておく必要があります。この間に核融合が起こる必要がありますが、閉じ込めの工夫が重要です。特にプラズマの閉じ込めがなかなか難しく、長時間維持するための技術革新が求められています。
ローソン条件は、パネルの設計や運転条件を決定する際に重要な指標であり、核融合炉の心臓部とも言えるプラズマの特性を定量的に示すことで、核融合エネルギーの実現に向けた方向性を提供します。
また、ローソン条件を満たすことで、核融合反応が持続的に行われる「自己点火条件」や、核融合で得られるエネルギーがシステムに必要なエネルギーを上回る「臨界プラズマ条件」にもつながります。これにより、持続的な核融合反応が可能となり、人類が直面するエネルギー問題に対する解決策となることが期待されています。
核融合を成功させるためには、プラズマを効果的に加熱し、制御するための技術が不可欠です。これには、電波や中性粒子を用いた加熱方法などが含まれます。プラズマが外部の空気に触れないように閉じ込めるためには、強力な磁場が利用されます。
例えば、トカマク型やヘリカル型といった装置がこの目的で使われます。このような装置は、プラズマをドーナツ形に閉じ込め、電気の特性を利用してプラズマを安定させる構造を持っています。
トカマク型とヘリカル型
トカマク型
トカマク型(Tokamak)は、核融合炉の一種で、超高温のプラズマを磁場によって閉じ込めることを目的としています。この方式は、円環状のプラズマをトロイダル磁場で保持するために、特別に設計されたコイルから生成される磁場を使用します。
トカマクは、元々ロシアで開発され、国際熱核融合実験炉(ITER)など、現在の多くの核融合実験装置において主流の技術です。
トカマク型の基本的な構造では、プラズマがドーナツ状に配置され、そこで発生するトロイダル電流が持続可能な核融合反応を引き起こすために必要な加熱および閉じ込めを行います。プラズマが持続的に存在するための条件としては、高温保持、高密度維持、エネルギー閉じ込め時間の確保が挙げられます。
ヘリカル型
ヘリカル型(Helical)は、トカマク型と同様に核融合炉の一種ですが、プラズマを閉じ込めるために、ねじれたコイルを使用します。この方法では、ヘリカルコイルを用いることで、トカマク型とは異なる方式でプラズマを保持します。ヘリカル型のプラズマ閉じ込めは、一般的に長時間の運転が得意とされており、連続運転や安定性に対して改善された特性を持つとされています。
ただし、ヘリカル型はプラズマ性能においてトカマク型に劣る点が指摘されています。具体的には、プラズマの密度や温度を高めることが難しく、これにより核融合反応を効率的に起こすためには、より大型な装置が必要な傾向があります。
ヘリカル型の長所と短所は以下の通りです:
長所
- 定常運転が可能
- ヘリカル型は、プラズマ電流を必要としないため、原理的に連続運転(定常運転)が可能です。これは、将来の核融合発電所にとって大きなメリットとなります。
- ディスラプションが原理的に起こらない
- トカマク型で問題となるプラズマの急激な崩壊現象(ディスラプション)が、ヘリカル型では原理的に起こりません。これにより、安定した運転が期待できます。
- 外部コイルによる磁場生成
- ヘリカル型は、真空容器の外部に設置されたコイルによって磁場を生成するため、プラズマ制御が比較的容易です。
短所
- プラズマ性能の課題
- 一般的に、ヘリカル型はトカマク型に比べてプラズマの閉じ込め性能が劣るとされています。プラズマの密度や温度を向上させるための研究開発が進められています。
- コイル構造の複雑さ
- ヘリカルコイルは複雑な形状をしているため、設計や製造が難しいという課題があります。
- 装置の大型化
- プラズマの厚み、太さがプラズマ特性の大きな要素となるためヘリカル型はトカマク型に比べ装置が大型化します。
ヘリカル型には、ステラレータ方式(主に欧米)とヘリオトロン方式(主に日本)の2つの主要な方式があります。
日本の核融合科学研究所では、大型ヘリカル装置(LHD)を用いた研究が進められており、ヘリカル型核融合炉の実用化に向けた成果を上げています。
近年、ヘリカル型核融合の研究も進展しており、ゆくゆくは実用化に向けた新たなアプローチや技術が開発される可能性があります。特に、日本の株式会社Helical Fusionのようなスタートアップ企業が、ヘリカル型核融合炉の実現に向けた研究を行っており、これが将来的な進展につながるかもしれません。
これら2つの方式は、いずれも核融合エネルギーの実現を目指して研究が進められていますが、それぞれ異なるアプローチと課題が存在します。
世界最大のトカマク型核融合実験装置
世界最大のトカマク型核融合実験装置は、茨城県那珂市にある「JT-60SA」です。JT-60SAが現在稼働しているトカマク型核融合実験装置は、プラズマ体積において世界最大であり、ギネス世界記録にも認定されています。
JT-60SAとは
JT-60SAは、日本の茨城県那珂市に位置し、日本と欧州が幅広いアプローチ協定の下で共同建設したトカマク型超伝導プラズマ実験装置です。2024年9月4日、JT-60SAは、160立方メートルというプラズマ体積を達成したことにより、ギネス世界記録によって「世界最大のトカマク」として正式に認定されました。
この160立方メートルというプラズマ体積は、これまでの最大記録であったJET(Joint European Torus)の約100立方メートルを大幅に上回っています。プラズマの閉じ込め性能はプラズマの大きさに依存するため、JT-60SAは今後の加熱実験において世界最高性能を示すことが期待されています。JT-60SAは、約-269℃(絶対温度約4K)に冷却された強力な超伝導コイルを使用しており、これにより1億度にも達する超高温プラズマを閉じ込めることができます。
JT-60SAの主な目的は、ITER(国際熱核融合実験炉)計画を支援し、核融合エネルギーの早期実用化に貢献すること、そして将来のDEMO(原型炉)に向けた研究を行うことです。
2023年10月23日には、JT-60SAは初プラズマの生成に成功し、前身であるJT-60からのアップグレードを経て、重要なマイルストーンを達成しました。現在、超伝導コイルを用いたプラズマ制御技術の最適化を含む、統合試験運転が継続されています。
将来的には、加熱システム、炉内コンポーネント、プラズマ診断装置などの主要なコンポーネントのアップグレードが計画されており、2026年半ばには次の試運転段階に入り、その年の後半には実験が開始される予定です。
国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクト
ITER(イーター)とは、International Thermonuclear Experimental Reactor(国際熱核融合実験炉)の略称です。これは、太陽や星がエネルギーを生み出す核融合を地球上で再現し、将来のエネルギー源としての可能性を探ることを目的とした、世界最大級の国際協力プロジェクトです。
ITERの建設は、フランス南東部のブーシュ=デュ=ローヌ県、サン=ポール=レ=デュランス(Saint-Paul-lès-Durance)に所在するカダラッシュ原子力施設(Cadarache)の隣接地で開始されました。
ITERの計画するプラズマ体積は830~840立方メートルとなり、これはJT-60SAや現在稼働中の他のどのトカマクよりも大幅に大きい(約5~6倍)です。
ITER計画の主な概要は以下の通りです。
目的:
- 核融合エネルギーの科学的・技術的な実現可能性を実証すること。
- CO2を排出しない、大規模な電力生産の可能性を示すこと。
- 「燃焼プラズマ」を生成し、その挙動を理解すること。燃焼プラズマとは、核融合反応で生成されたヘリウム原子核のエネルギーがプラズマの温度維持に十分であり、外部からの加熱を低減または完全に不要とする状態です。
- 将来の原子炉が自己燃料となるトリチウムを生産するための様々な「トリチウム増殖ブランケット」の概念を検証すること。
- 核融合装置の安全性を実証すること。
参加国:
- 欧州連合(EU)、日本、ロシア、アメリカ合衆国、中国、インド、韓国の7つの主要パートナーによって進められています。EUは27の加盟国を代表しています。
- 建設費の大部分はEUが負担し(45.6%)、残りの費用は他の6つのパートナーが均等に分担しています(各9.1%)。
- スイスは一時的に参加が中断されましたが、2026年から再び正式メンバーとなる予定です。イギリスはEU離脱後もITERとの協力を模索しています。
建設地:
- フランス南部のカダラッシュにある原子力施設の隣接地。
ITERの役割:
- ITERは実験炉であり、発電の実証は次の段階であるDEMO(実証炉)の役割です。ITERで得られた知見がDEMOの開発に活かされることが期待されています。
- 日本とEUの間では、ITER計画を補完する「幅広いアプローチ」という協力体制があり、DEMOに向けた技術開発なども共同で行われています。
ITERは、核融合エネルギーの実用化に向けた重要なステップと位置づけられていますが、計画の遅延やコスト超過、技術的な課題など、多くの困難に直面しているのが現状です。
ITERの科学的研究の主な焦点
核融合エネルギー生成において、プラズマ閉じ込めは極めて重要な課題です。核融合反応を起こすためには、1億度を超える超高温のプラズマを生成し、それを安定して一定時間閉じ込める必要があるからです。
もしプラズマが不安定になったり、閉じ込めが不十分だったりすると、エネルギー損失が起こり、効率的な核融合反応を持続させることができません。
ITERの科学的研究の主な焦点は以下の点にあります:
現状と課題:
- ITERプロジェクトは、大幅な遅延と予算超過に見舞われています。当初2016年とされていた最初のプラズマ生成は2034年に延期され、18年の遅れとなっています。
遅延の要因としては、「最初に納入されたモジュールで『寸法的不適合』が発見された」ことや、溶接されるべき部品間に最大2センチのずれがあったこと、冷却を担う熱シールドにも欠陥が見つかったことが挙げられています。 - 建設コストも当初の計画から大幅に増加し、現在までに少なくとも250億ユーロの公的資金が投じられ、現物出資を含めると400億ユーロ以上に達するとされています。
- ITERのピエトロ・バラバッシ事務局長自身も、「核融合は、私たちの地球が今日直面している問題を解決するのに間に合わない」と発言しており、ITERが稼働する頃には技術的に時代遅れになるという意見もあります。
ITERプロジェクトの現状と今後の計画
- 2025年1月現在、ITER OrganizationはITER理事会に最新の「ロードマップ」を提出し、評価を受けています。この新しいロードマップは、「効率的な科学運転の開始を優先する」ように設計されており、初期運転段階では水素と重水素によるプラズマ生成、長時間の放電、最大磁場強度での運転を目指しています。
- 「最大磁場強度の達成は2036年となり、2016年のロードマップで想定されていたよりも3年遅れる」見込みです。また、「重水素-トリチウム運転の開始は2039年となり、4年遅れる」とされています。
- ITERの「最初のプラズマ」生成は、「当初2025年に予定されていたが、多大な遅延とコスト超過に見舞われたため、最終的な運転開始は「2034年」に延期されたことをITER Organizationが発表しています。
代替エネルギー開発の動向:
- ITERプロジェクトの遅延とコスト超過に対し、多くの大学研究室やスタートアップ企業が核融合研究に参入し、「ここ数ヶ月で重要な進歩を発表している」と報じられています。ITERの指導部は、民間セクターとの協力を強化することを約束しています。
- Beyond Nuclear Internationalは、代替エネルギーとして「エネルギーを節約し、無駄をなくし、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力)を開発し、改善する」ことを提唱しています。ただし、これらの再生可能エネルギーの開発が工業的かつ中央集権的に行われている現状には批判的な視点を示しています。
- 将来のエネルギー生産は、「小規模で、地域的で、大多数の人々がアクセスできる技術で、エネルギー消費量が少なく、配給コストを回避できる」べきだと主張しています。
核融合研究の進展:
- フランスのCEA(原子力・代替エネルギー庁)が運営するウエスト(West)と呼ばれるトカマク型炉において、「22分以上プラズマを維持することに成功し、記録を更新した」という進展が報じられています。この実験は、「ITERの科学的運転を可能な限り準備する」ことを目的としており、プラズマをより高温にし、より長期間維持することを目指しています。
- 日本とCEAは、ITERの補完として、より早期の核融合実験と将来の商業炉「Demo」の開発に向けた協力を行っており、「JT-60SA」という世界最大の実験用トカマク型炉が稼働を開始しています。JT-60SAは、ITERが本格稼働する前に、プラズマと核融合反応に関する新たな技術を探求する役割を担います。ITERは「原理実証」を目的としていますが、「Demo」は「最初の真の電力商業化のためのプロトタイプ原子炉」となる予定で、2050年頃の実現を目指しています。
ITERプロジェクトは、核融合エネルギーの実現という壮大な目標を掲げていますが、技術的な困難、大幅な遅延、そして巨額のコスト超過という課題に直面しています。一部からはその有効性や将来性に対する強い批判も出ており、代替エネルギー開発へのシフトを求める声も高まっています。一方で、核融合研究自体は着実に進展しており、ITER計画を補完する研究や、より早期の商業化を目指す動きも見られます。今後、ITERプロジェクトがこれらの課題を克服し、その目標を達成できるのか、注視していく必要があります。
ITERの役割:
大幅な遅延と予算の大幅な超過
しかしながら、ITERプロジェクトは、科学的研究の困難さと複雑さを示す事例でもあります。
当初の計画から大幅な遅延(18年の遅れ)と予算の大幅な超過(少なくとも250億ユーロ)が発生しており、その進捗と費用対効果については様々な議論があります。これらの遅延は、初期に納入された部品の寸法不良など、技術的な課題に起因するものが含まれています。
それにもかかわらず、ITERの研究は着実に進んでおり、2024年には新たなロードマップがITER理事会に提出され、科学的運転の早期開始を目指す方針が示されています。最初のプラズマ生成は2034年に、重水素 -トリチウム運転は2039年に予定されています。
民間企業の参入
ITER計画と並行して、世界各地で核融合エネルギーに関する様々な科学的研究が進められています。例えば、フランスのWEST(W Environment in Steady-state Tokamak)JT-60SAは、ITERが本格稼働するまでの間、世界最大のトカマク型実験装置として、ITERの運転シナリオの開発や将来のDEMO(実証炉)に向けた研究に貢献することが期待されています。
さらに、近年では民間企業も核融合エネルギーの研究開発に積極的に参入しており、ITERとは異なるアプローチでより早期の実用化を目指す動きも出てきています。これらの企業は、長年の公的研究で培われた知識や技術を活用し、より迅速な開発と実証を競っています。
プラズマ閉じ込めと制御技術の開発
- トカマク型装置と磁場閉じ込め:
ITER (国際熱核融合実験炉)、フランスのWEST (W Environment in Steady-state Tokamak)、そして日本とヨーロッパが共同で開発したJT-60SA (Super Advanced)はいずれもトカマク型と呼ばれる実験装置です。
トカマクは、ドーナツ型の真空容器内で、強力な磁場を用いてプラズマを閉じ込める方式を採用しています。磁場は、プラズマ中の荷電粒子(イオンと電子)を磁力線に沿って運動させることで、プラズマが容器の壁に接触するのを防ぎ、高温状態を維持します。 - ITERにおけるプラズマ閉じ込めの目標:
ITERの主要な目標の一つは、「燃焼プラズマ」を生成し、その挙動を理解することです。燃焼プラズマとは、核融合反応自身が生み出すエネルギーによって高温状態が維持されるプラズマのことで、外部からの加熱システムへの依存度を減らすことができます。ITERは、長時間のプラズマ維持を目指しており、それによって将来の核融合発電所における連続運転の可能性を探ります。 - WESTにおける長時間のプラズマ維持の成功:
WESTトカマクは、22分以上(1337秒)のプラズマ維持という記録を達成しました。これは、長時間のプラズマ閉じ込め技術が着実に進歩していることを示す重要な成果であり、ITERにおける長時間のプラズマ制御に向けた貴重な知見を提供しています。 - JT-60SAの役割:
JT-60SAは、ITERが本格稼働するまでの間、世界最大のトカマク型実験装置として、ITERの実験を補完し、将来の実証炉 (DEMO)に向けた研究に貢献することが期待されています。JT-60SAは、ITERと同様に超伝導磁石を搭載しており、より高度なプラズマ閉じ込めと制御技術の開発に役立つと考えられています。 - プラズマの不安定性とその制御:
高温のプラズマは本質的に不安定な性質を持っており、様々な要因で閉じ込めが破綻し、エネルギーが失われる可能性があります。そのため、プラズマの安定性を維持し、効率的に閉じ込めるための高度な制御技術が不可欠です。ITERやWEST、JT-60SAなどの実験装置では、磁場の制御やプラズマへのエネルギー投入の制御などを通じて、プラズマの安定化と高性能化を目指した研究が行われています。
プラズマを安定して長時間閉じ込めることは、核融合エネルギーの実用化に向けた最も重要な技術的課題の一つです。ITERをはじめとする国際的な研究プロジェクトや、各国、そして民間企業による研究開発を通じて、より効率的で信頼性の高いプラズマ閉じ込め技術の確立が目指されています。WESTにおける22分以上のプラズマ維持の成功は、この分野における着実な進歩を示すものと言えるでしょう。
エネルギー供給の革命
科学的研究は、未知の領域に挑む過程であり、常に困難や予期せぬ課題に直面する可能性があります。ITERプロジェクトは、その壮大な目標と直面する課題の両面において、現代の科学研究のあり方を象徴していると言えるでしょう。その成果は、将来のエネルギー供給に革命をもたらす可能性を秘めており、国際協力の重要性を示す事例としても注目されます。
結論として、核融合エネルギーの研究開発は、基礎科学の探求と応用技術の開発が不可分に結びついた、挑戦的かつ重要な科学的研究分野です。ITERはその中心的なプロジェクトであり、遅延やコスト超過はあるものの、将来のクリーンエネルギー実現に向けた重要な一歩となることが期待されています。また、ITERと並行して進められる多様な研究や民間企業の取り組みが、核融合エネルギーの実用化を加速させる可能性を秘めています。