
次世代航空機の主要技術の革新
エアバスは、将来の航空機に向けた革新的な技術を「Airbus Summit 2025」で発表しました。エアバスは、より燃料効率が良く、環境負荷の少ない次世代の単通路型航空機の開発に力を入れています。
この新しい航空機は、おそらくボーイングよりも早く、20%から25%の燃料消費量削減を目指し、2020年代後半に市場投入される予定です。エアバスは、このプロジェクトを今後10年間で最も重要な商用航空機開発と位置づけています。
次世代単通路機(A320後継機)の開発
- エアバスは、20%から25%の燃費向上を目指す次世代単通路機を、2030年代後半に市場投入することを目指しています。
- この新型機は、新しいエンジン、新しい翼、より多くの電化と自動化技術を搭載する予定です。
- エアバスのカルム・モカデム研究技術担当取締役は、次期エアバスの主な進歩の軸を紹介しながら、『良い知らせは、我々が順調に進んでいることだ』と述べています。
革新的なエンジン技術
オープンファンエンジンの特徴
エアバスが将来の航空機への搭載を検討しているオープンファンエンジンは、従来のターボファンエンジンとは異なる革新的な設計であり、以下のような特徴を持っています。
- 非カバード(Non-Caréné)設計:
最も大きな特徴は、従来のエンジンのようにファンが覆われていないことです。これにより、バイパス比(希釈率)を大幅に高めることができます。 - 高いバイパス比による高効率:
バイパス比とは、エンジンに入る空気のうち、燃焼室を通らずに直接後方に排出される空気の割合のことです。オープンファンエンジンは、このバイパス比を非常に高くする(例:60に達する)ことで、推進効率を向上させます。従来の最新世代のエンジンではバイパス比は11から12程度です。 - 大幅な燃料消費量の削減:
高いバイパス比により、オープンファンエンジンは従来のエンジンと比較して燃料消費量を約20%削減できると期待されています。これは、航空機の運航コストの削減と、CO2排出量の大幅な削減に貢献します。
RISEプログラム
- オープンファンエンジンの最も先進的で野心的なプロジェクトが、SafranとGEによる共同開発プログラム「RISE(Revolutionary Innovation for Sustainable Engines)」です。
- エアバスはこのRISEプログラムのエンジンを次世代航空機の主要なエンジン候補としており、その導入に強い関心を示しています。ただし、他のエンジンメーカーの可能性も排除していません。
- RISEエンジンは、持続可能な航空燃料(SAF)との互換性があり、長期的には水素燃料との潜在的な互換性も視野に入れています。
高性能な翼の開発
より長く、より薄い翼の開発
- エアバスが開発している新しい翼は、現在よりも長く、より薄い形状になる予定です。
物理学的な原理に基づき、翼を長くし薄くすることで、より大きな揚力が得られ、空気抵抗が減少します。 - これにより、航空機の燃費効率が向上し、結果として燃料消費量が削減され、CO2排出量の低減に繋がります。次世代航空機の翼は、燃料消費量を5%から10%削減すると期待されています。
- 将来のエアバス機の翼幅は、現在のA320の約35メートルに対し、最大で50メートルに達する可能性があるとされています。これは、片側あたり最大5メートルの延長です。
折畳み式翼端
- しかし、翼が長くなると、航空機が現在の空港のゲートに適合しなくなるという問題が生じます。この課題を解決するために、エアバスは翼端を折り畳むという解決策を採用する予定です。
- ボーイングのB777-9で採用されているように、翼端を折り畳む機構を導入することで、地上での翼幅を縮小し、既存の空港インフラへの適合性を維持します。エアバスは、単に折り畳むだけでなく、飛行中にこれらの翼端を動かすことで、乱気流をより良く吸収する可能性も研究しています。
- 翼の重量増加を抑制するために、従来の金属ではなく複合炭素材料を使用する方向で開発が進められています。これには、英国のエアバス工場における新たな製造方法の確立が必要となります。
燃料効率と環境性能
燃料消費量とCO2排出量の削減
- オープンファンエンジンは、従来の「Leap」エンジンと比較して、20%の燃料消費量とCO2排出量の削減が期待されています。
- 長く薄い翼は物理学的に、より大きな揚力を生み出し、空気抵抗を減少させるため、航空機の効率が向上し、燃料消費量を5%から10%削減できると見込まれています。「Wings of Tomorrow」プログラム責任者のSue Partridge氏は「最高の燃料は燃やさない燃料だ」と述べ、翼の効率を高めることの重要性を強調しています。
- 燃料消費量の削減は、直接的にCO2排出量の削減に繋がります。これは、従来のジェット燃料だけでなく、持続可能な航空燃料(SAF)や将来的な水素燃料を使用する場合でも有効です。
現在、数百件のテストが実施されており、2026年に地上試験、2027年にボーイングの試験機による飛行試験、2028年にはエアバスA380による飛行試験が計画されています。
持続可能な航空燃料(SAF)と水素への取り組み
- エアバスは、SAFでの飛行を推進しており、エアバスサミットではトタルエナジーがA321 XLRにSAFを充填する様子が紹介され、「SAFで飛行することで、地上から採取される化石燃料の排出量と比較して、燃料のライフサイクル全体で排出量を削減できる」と説明されています。
- SAFは、既存のインフラを活用しながら、従来のジェット燃料と比較してライフサイクル全体での温室効果ガス排出量を大幅に削減できる可能性があり、短期的な排出量削減に貢献する現実的な選択肢です。
- しかし、現時点では商業的に実現可能ではないと判断されています。その主な理由は、現在の規制の枠組みと水素のエコシステムが整っていないことです。そのため、エアバスは「水素のコンコルド」のような商業的にリスクの高い計画は避けたいと考えています。
- このため、現在エアバスが注力しているのは、より近い将来の導入を目指した、燃料効率を20%から25%向上させる次世代の単通路型航空機の開発です。
水素航空機の開発の進捗は、当初の予想よりも遅れているとされています。そのため、2035年頃に登場が期待される次世代の単通路型航空機には、より進んだ他の技術が優先的に統合される見込みです。
技術的な課題と開発状況
- GEとSafranは、既に数百回に及ぶ要素試験を実施しており、フランスのモダーヌの風洞実験などでは良好な結果が得られています。
- しかし、開発はまだ初期段階であり、完全なエンジンの地上試験は2026年に開始される予定です。
- その後、2027年にはGEの試験機(ボーイング747)で、2028年にはエアバスのA380で飛行試験が行われる計画です。エアバスは、A380へのエンジン統合の方法や挙動、接続方法などを研究しています。
電化、自動化、人工知能の活用
- 次世代航空機は、A320で初めて導入されたフライ・バイ・ワイヤ技術をさらに進化させ、より多くの電化、エネルギー、接続性、そして人工知能(AI)を活用します。
- AIは、交通量の多い状況や悪天候下でのパイロットの操縦を支援し、飛行中の故障の自動解決を改善し、空港での自動着陸と地上走行を容易にすることを目指しています。
その他の注目すべきイノベーション
最新鋭機 A321 XLR
- A321 XLR は A321 Neo の航続距離延長型です。エアバスの最新のナローボディ機であり、A321 Neo をベースに、より長距離を飛行できるように設計されています。
- 優れた燃料効率 を誇ります。同クラスの他の航空機と比較して、より少ない燃料でより遠くまで飛行できます。
- A321 Neo との主な違いは、拡張され強化されたリアセンタータンクです。この燃料タンクの容量は 40,000リットル以上 に及びます。
- この大容量の燃料タンクにより、シドニーからクアラルンプールまで飛行できるほどの航続距離を実現しています。
- A321 シリーズの他の航空機と同様に、持続可能な航空燃料(SAF)での飛行が可能です。トランスクリプトでは、Total Energies が SAF を A321 XLR に給油する様子が紹介されています。SAF を使用することで、従来の化石燃料と比較して燃料のライフサイクル全体での排出量を削減できます。
A321 XLR は、A321 Neo の優れた燃料効率を維持しつつ、リアセンタータンクの大型化によって長距離飛行能力を大幅に向上させた最新鋭機と言えます。SAF に対応している点も、環境負荷低減への貢献が期待される重要な特徴です。


高速ヘリコプター Racer
- 高速ヘリコプターのデモンストレーターであるRacer は、速度と燃料消費の両方を重視して開発されています。
- 固定翼機とヘリコプターの特性を組み合わせた、両者の中間的な存在と言えます。
- ローターに加え、非対称なテールを備えているのが特徴です。
- ホバリングが可能でありながら、時速400km以上での飛行も可能です。
- この速度は、従来のヘリコプターの2倍以上に相当します。


ハイブリッド推進 Eco Pulse
- Eco Pulseは、エアバスとそのパートナー(Dara、SEF Hong)との協力と革新の成果です。
- 最先端のハイブリッド電気推進を採用しています。
- 機体の前縁に沿ってエンジンが配置されているのが特徴です。
- これらのエンジンは、推力を分散させ、抗力を低減し、航空機の性能を向上させる役割を果たします。
Eco Pulseは、エアバスがパートナーと協力して開発した、ハイブリッド電気推進技術を実証するための機体です。機体前縁に配置された複数のエンジンによる推力分散と抗力低減という革新的なアプローチを通じて、航空機の性能向上を目指していることがわかります。これは、航空業界におけるより持続可能な推進技術の開発に向けた重要な一歩と言えるでしょう。


地上試験 Optimate
Optimate は航空機ではなく、地上での試験を目的とした特別なトラックです。
- Optimate は、「昨年のVivaTechでの発表を見逃した方へのネタバレ」として紹介されており、飛行機ではないことが強調されています。
- このトラックには、850コックピットが搭載されています。
- さらに、最新のセンサー、カメラ、フライトシステムも搭載されています。
- Optimate の目的は、これらの航空機に搭載されるべき最新の技術やシステムを、実際に走行する車両に搭載して試験することです。
Optimate は航空機そのものではなく、将来の航空技術を地上で検証するためのプラットフォームと言えます。飛行試験に先立ち、コックピットシステムやセンサーなどの最新技術を、実際の走行環境下でテストし、その性能や信頼性を評価することを目的としています。これは、航空機の開発プロセスにおける重要な段階であり、リスクを低減し、より効率的な開発を進めるために役立つでしょう。


エアバスの将来戦略
エアバスはより環境負荷の少ない航空機の開発と普及を目指し、航空業界全体の持続可能性に貢献していくことを目指しています。
エアバスの将来戦略は、短期的にはSAFの利用拡大、中期的には革新的な技術を導入した次世代航空機の開発と実用化、そして長期的には水素航空機の実現に向けた研究開発を柱として、航空業界のカーボンニュートラルを目指すものです。