
Caremag工場予定図
フランスに世界的規模のレアアースのリサイクル・精錬工場の設立
レアアース(希少土)のリサイクルと精錬を目的としたカレマグ(Caremag)工場が、フランス南西部のピレネー・アトランティック県ラック(Lac, Pyrénées-Atlantiques)にあるトタルエネルジーの旧ガス施設跡地の、5ヘクタールの敷地を活用して建設されることが決まり、2025年3月17日にラック工場で起工式が行われました。
工場建設の起工式には、フランスのパニエ=リュナシェ・エネルギー移行大臣も出席し、このプロジェクトの重要性を強調しました。
以前産業大臣を務めていた時からこのプロジェクトを支援してきたパニエ=リュナシェ大臣は、「画期的な大規模プロジェクト」と位置付け、2026年末または2027年初頭の操業開始を目指し、電気自動車用モーターの製造過程で生じる廃材のリサイクルを通じて、世界需要の15%を占めるレアアース生産を実現する計画であると述べました。
フランスと日本はすでに、この戦略的施設に2億1,600万ユーロの投資を表明しています。
現在、同様の工場を持つのは中国のみであり、本プロジェクトによってフランスの対中依存からの脱却が可能になるとされています。
フランスと日本の協力のもと、環境に配慮した革新的な技術でレアアースの安定供給と資源の有効活用を目指す、ヨーロッパにおける重要なプロジェクトとなることが期待されています。
JOGMECの大伴道夫総裁も起工式に出席し、日仏間の資源協力の象徴的なプロジェクトであると述べました。
戦略物資確保へ官民連携
フランス政府は、レアアースをはじめとする重要原材料の循環性を高める計画を推進しており、カレマグはその一環として位置づけられています。
また、カレマグが生産する重希土類酸化物は、長期的な購入契約に基づき日本に供給される予定であり、日本の産業界におけるレアアースの安定調達にも繋がります。
レアアースは、風力発電のタービンや電気自動車のモーターなどに使用される永久磁石の主原料であり、エネルギー転換に不可欠な材料です。しかし、現状ではその市場の大部分(約98%)を中国が支配しており、ヨーロッパはこの分野で中国への強い依存を抱えています。
カレマグプロジェクトは、このような状況を打破し、ヨーロッパにおけるレアアースの自給能力を高めることを目指しています。フランスと日本の官民が連携することで、この戦略的な課題に対処しようとしています。
資金調達
このプロジェクトには、総額2億1600万ユーロの資金が投じられています。
資金調達の内訳は以下の通りとなっています。
- フランス:1億600万ユーロ
フランス復興計画(France Relance)およびフランス2030計画に基づく補助金と返済可能な前払い金、ならびにグリーン産業税額控除の形で提供されます。 - 日本:1億1000万ユーロ
日本の公的機関である金属鉱業・エネルギー機構(JOGMEC)と、日本の民間企業である産業・家庭用ガス専門商社の岩谷産業株式会社が共同で、カレスター社の関連会社であるカレマグに対して、自己資本と株主ローンの形で調達されます。
レアアース工場の建設は、フランスと日本が資金を出し合う形での協力体制によって進められており、日本の出資額がフランスの出資額をわずかに上回る形となっています。
この財政的な協力は、両国がこのプロジェクトを戦略的に重要視していることを示しており、日本の貢献には、資金提供に加えて、生産される重希土類酸化物の長期的な購入契約も含まれており、安定した市場を確保する側面でも重要な役割を果たしています。
カレマグ社とは?
- 会社名:CAREMAG
- 設立:2020年11月16日
- 本社所在地:TOUR PART DIEU 129 RUE SERVIENT 69003 LYON, France
- 従業員数:92人(予定)
- 親会社:
CARESTER
https://www.carester.fr/en/our-plant/- 設立:2019年1月25日
- 事業内容:エンジニアリング、技術研究
- 主な事業内容:
- レアアース酸化物の製造:
環境に配慮した高性能なプロセスを用いて、ヨーロッパ初の工業規模でのレアアース酸化物の生産を目指しています。 - 永久磁石からのレアアースリサイクル:
使用済み機器に含まれる永久磁石をリサイクルし、純粋なレアアース酸化物を生産するヨーロッパのパイオニアです。あらゆる種類の磁石を処理でき、リサイクルされた材料は元の品質を保持し、完全な循環性を実現します。 - 鉱石精鉱からのレアアース抽出:
重希土類を含む鉱石精鉱からも純粋なレアアース酸化物を生産します。 - 副産物の回収:
生産プロセスにおいて排出されるCO2を再利用し、液体排出物をなくし、副産物を回収します。例として、硝酸アンモニウムを再濃縮し、肥料として販売することが計画されています。 - 磁石の買取と解体:
NdFeB磁石を含む使用済み機器(スタック、ローター、電気モーターなど)から永久磁石を買い取り、機器の解体と材料の最適な回収を行います。
- レアアース酸化物の製造:
- 主な生産拠点:
- ラック工場 (Lacq):
ラック工場には2つの主要機能が備えられる予定となっており、第一に、磁石メーカーからの製造端材を年間2,000トン処理するリサイクル施設、第二に、前処理済みの重レアアース精鉱5,000トン以上を高純度レアアースに精製する設備という、2つの施設から形成されます。 - その他の拠点:
ムーレンクス (Mourenx)、ヴィルルバンヌ (Villeurbanne)、ヴェニシュー (Vénissieux) にも事業所があり、これらは主に選別された廃棄物の回収を行っています。
かつてラックとエシレ (Echiré) にも廃棄物回収の事業所がありましたが、現在は閉鎖されています。
- ラック工場 (Lacq):
- 生産能力 (計画):
- 軽希土類酸化物 (ネオジム、プラセオジム):
年間 800トン (使用済み磁石2,000トンから抽出)。内訳として、ジジム酸化物(NdPr)650トン、ネオジム酸化物150トンが計画されています。 - 重希土類酸化物 (ジスプロシウム、テルビウム):
年間 600トン (鉱石精鉱5,000トンを精製)。これは現在の世界の生産量の約 15% に相当し、「西洋最大の分離された重希土類生産者」となる見込みです。内訳として、ジスプロシウム酸化物500トン、テルビウム酸化物90トンが計画されています。
- 軽希土類酸化物 (ネオジム、プラセオジム):
- 環境への取り組み:
- CO2排出量の削減とリサイクル(直接的なCO2排出量の80%をリサイクルする予定)
- 水消費量の最小化
- 液体排出物の完全な排除
- 副産物の回収と再利用 (例: 硝酸アンモニウムの肥料化)
- 将来的には100%リサイクルされた材料での生産を目指し、カーボンニュートラルを達成することを目標としています。
レアアースとは
レアアースは地殻に存在する金属元素群で、ニッケル、コバルト、銅などが含まれる。現在市場で最強とされる永久磁石の製造に不可欠な素材です。
Caremag社のフレデリック・カレンコット社長は「外部からの電力供給が不要なため、多くの電気自動車モーターにレアアース磁石が使用されている」と説明しています。
産業機械・装置分野はその軽量性から、ハイブリッド車のモーター、風力発電タービン、ドローン、電動スクーター、産業用モーターなど、幅広い用途で採用されています。
永久磁石の戦略的重要性
数ある磁石の種類の中で、一定の磁力を保つものを永久磁石と呼びます。 特に希土類元素(レアアース)を使用した磁石は、磁力が非常に強いタイプです。 そのため、工業製品から日用品にまで広く用いられます。
希土類元素を使用した磁石は、主にネオジム磁石とサマリウムコバルト磁石の2種類があげられます。永久磁石は、現代の多くの産業において不可欠な要素であり、特に以下の分野で戦略的な重要性を持っています。
カレマグ工場建設の目的
- ヨーロッパの希土類における中国への依存度を低減し、自立性を確保すること:
現在、ヨーロッパのレアアース市場は中国が98%を供給するという極めて高い依存状態にあります。カレマグ工場は、この状況を打破し、ヨーロッパにおけるレアアースの自給自足体制を構築する上で重要な役割を果たします。 - 戦略物資である希土類の安定供給を確立すること:
レアアース、特にネオジムやプラセオジムなどの軽希土類、そしてジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類は、電気自動車や風力タービンなどのエネルギー転換に不可欠な永久磁石の製造に用いられる戦略的な資源です。
カレマグ工場の操業により、これらの重要物資の安定的な供給源がヨーロッパ域内に確保され、サプライチェーンの強靭化に貢献します。 - ヨーロッパ初のレアアースリサイクル企業の誕生:
カレマグ工場は、「ヨーロッパ初のレアアースリサイクル企業」となる予定です。これにより、使用済み磁石からのレアアース回収が可能となり、資源の有効活用と一次鉱物への依存度低減、さらには廃棄物削減にも貢献します。
年間2,000トンの磁石をリサイクルする能力を持ち、操業におけるCO2排出量の80%を再利用するなど、環境基準の高い工場を目指しています。 - 日本との戦略的なパートナーシップを構築し、長期的な経済協力を推進すること:
日本は、資金提供だけでなく、生産された重希土類酸化物の長期的な購入契約を結ぶなど、このプロジェクトに深く関与しています。この協力体制は、中国のダンピングリスクに対抗する上でも重要です。このような国際的な戦略的連携は、経済安全保障の観点からも重要視されます。 - 特に重希土類酸化物の供給を確保すること:
カレマグ工場は、「西洋最大の分離された重希土類生産者」となる見込みであり、年間600トンの酸化ジスプロシウムと酸化テルビウムを生産する計画です。これは、現在の世界の生産量の約15%に相当し、特に中国が強い影響力を持つ重希土類市場において、ヨーロッパの供給能力を大幅に向上させます。 - 技術的自立性の向上:
レアアースのリサイクルと精製に関する技術をヨーロッパ域内で確立することは、技術的なノウハウの蓄積と自立性の向上に繋がります。これにより、将来的な市場の変化や地政学的なリスクに対するヨーロッパの抵抗力を高めることができます。
フランスのレアアース工場建設は、ヨーロッパのレアアース供給における中国への構造的な依存を是正し、経済安全保障を高めるための重要な一歩と言えるでしょう。また、リサイクルを核とすることで、持続可能な資源利用にも貢献します。
エネルギー転換分野
- 電気自動車(EV):
高性能な永久磁石は、電気自動車のモーターに使用され、小型で軽量ながら強力な動力を生み出すために不可欠です。電気自動車の普及は、化石燃料への依存度低減と温室効果ガス排出量削減に貢献する重要な戦略であるため、そのコンポーネントである永久磁石の安定供給は非常に重要です。 - 風力タービン:
風力発電機においても、永久磁石を用いた発電機は効率が高く、信頼性に優れています。再生可能エネルギーの主力電源の一つである風力発電の推進において、高性能永久磁石は不可欠な材料です。
産業機械・装置分野
- ロボット工学:
ロボットの駆動モーターやセンサーなど、精密な動作を実現するために高性能な永久磁石が使用されます。 - 電子機器:
各種電子機器の小型モーターやアクチュエーターなど、多くの部品に永久磁石が利用されています。 - ポンプ:
様々な産業用や家庭用のポンプにも、効率的な駆動のために永久磁石が用いられています。
永久磁石が戦略的要素となる理由
これらの分野において永久磁石が戦略的要素となる主な理由は、以下の通りです。
- 高性能:
永久磁石、特にネオジム磁石やサマコバ磁石などは、非常に高い磁力と保磁力を持ち、小型・軽量でありながら強力な力を発揮できます。これにより、機器の小型化、高性能化、高効率化に貢献します。 - エネルギー効率:
永久磁石を用いたモーターや発電機は、エネルギー変換効率が高く、省エネルギーに貢献します。エネルギー効率の向上は、経済性だけでなく、環境負荷の低減にもつながるため、戦略的に重要です。 - レアアースへの依存:
高性能な永久磁石の製造には、ネオジム、プラセオジム(軽希土類)、およびジスプロシウム、テルビウム(重希土類)中国への依存度が非常に高い状況にあります。 - サプライチェーンの脆弱性:
レアアースの供給が特定国に偏っているため、地政学的なリスクや貿易政策の変更などにより、永久磁石の安定供給が脅かされる可能性があります。これは、上記のような戦略的産業の発展に大きな影響を与えるため、問題視されています。
永久磁石は家庭用電化製品からハードディスク、電気モーター、風力タービンなど、あらゆる場所で使用されています。しかし、これらの金属合金はレアアースから製造されているにもかかわらず、現在リサイクルされているのは1%未満であり、そのほとんどの鉱山が中国によって管理されている状況です。
カレスター社(カレマグの親会社)の工場建設は、このような背景のもと、ヨーロッパにおけるレアアースの安定供給を確保し、中国への依存度を低減するための重要な一歩として位置づけられています。
自国内および友好国との連携を通じて、永久磁石のサプライチェーンを強化することは、各国の経済安全保障にとって極めて重要な戦略となります。
エコロジーの観点からも革新敵なプロジェクト
エコロジーにおいても革新的です。Caremag工場は、液体排出物を出さない技術を採用し、アムモニウム硝酸塩を再集中して肥料として販売する予定です。さらに、CO2の直接排出の80%はリサイクルされるとされています。
カレマグ工場は、高い環境基準を目指しており、操業で生じる直接的なCO2排出量の80%をリサイクルし、副産物の硝酸アンモニウムを肥料として再利用するなど、循環型経済への貢献も考慮されています
パニエ=リュナシェ・エコロジー移行大臣は、このプロジェクトが化石燃料からの脱却も後押しすると強調しています。
「今日、環境移行に投資する人々こそが真の愛国者です」と述べ、「フランスとEU域内に入る全ての物資は環境負荷低減のためにリサイクルされる必要があります。」という方針を示しました。
遅れを取り戻す必要性を認めつつも、同大臣は「環境産業を軸とした工場建設と雇用創出は、環境移行が重要課題であることを示しています」と指摘しています。
環境移行に向けて、現在フランス国内では4つの電気自動車用バッテリー工場が建設中または稼働中となっています。
フランス国内外の関連プロジェクト
フランスにおけるレアアースリサイクルへの取り組みは、この工場だけに留まりません。
フランス政府は以下のようなプロジェクトも支援しています。
- イゼールにあるスタートアップ企業「MagREEsource」は、年間50トンのリサイクルされた磁石から永久磁石を生産するヨーロッパ初のテスト工場を開設しました。
- ベルギーのSolvayは、ラ・ロシェルでレアアースを基にした性能製品の製造施設を運営しており、永久磁石用のレアアース酸化物の生産を開始する予定です。
- フランスの鉱山グループオラノは、2022年に高性能永久磁石製造のための産業基盤を築く「マグノリアプロジェクト」を発表しています。
日本は、「長期的視野を持つ信頼できるパートナー」
パニエ=リュナシェ・エネルギー移行大臣は、「我々の価値観や戦略的利益を共有しない国々への依存は避けなければならない」と強調しました。
現在市場を独占している中国に対抗するため、フランスは信頼できるパートナーとの協力を重視する方針です。すでにステランティス(2024年9月~)などの自動車メーカーや磁石メーカーとの提携を実現しています。
日本とは生産協力でも合意しており、同大臣は日本を「長期的視野を持つ信頼できるパートナー」と評価しています。
このレアアースリサイクル工場の建設は、中国への依存度が高いレアアースなどの戦略的資源の供給確保を目指す欧州と日本の取り組みの重要な一歩と位置づけられています。
日仏両国の官民協力により、資源循環と技術革新を推進しつつ、環境への配慮も両立させる先進的なプロジェクトとして注目を集めています。
資源安全保障の新たな動き
欧州連合(EU)は「重要原材料法(Critical Raw Materials Act)」を2023年に採択し、2030年までにEU域内の年間需要量の15%をリサイクルでまかなうことを目標としており、カレマグ工場はこの目標達成に大きく貢献することが期待されています。
専門家は「中国がレアアース輸出規制を強化する中、欧州の動きは地政学リスク軽減に不可欠」であると評価しています。国際エネルギー機関(IEA)の推計では、2040年までにクリーンエネルギー技術向けレアアース需要が現在の3~7倍に急増する見通しとなっています。
パニエ=リュナシェ・エネルギー移行大臣は、「このプロジェクトは、我が国が重要原材料の供給において中国や他国の独占から脱却できる起爆剤となる」と、昨年10月に着手した重要原材料の循環計画の完成を加速させたい意向を示しています。
政府は、グラン・エスト地域(東部)でリサイクル用磁石の収集・処理体制を構築中のDaimantelや、2024年11月にグルノーブル近郊で完全リサイクル材料から永久磁石を製造するヨーロッパ初の工場を開設したMagREEsourceなど、他の産業企業も支援しています。
参照文献:
Challenge – 2025-03-17
France 3 Nouvelle-Aquitaine 他

この発表がこの時期になって本当に良かった。
トランプ米大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に対して、紛争終結後の安全保障支援を確約する条件として、レアアースなどの権益譲渡を迫っているというニュースが世界を巡り、やっぱりレアアースの資源開発も中国と米国の一騎打ちか、という殺伐とした雰囲気になっているけど、フランスがレアアース開発を目指しているのはかなり以前から伝えられていたから、フランスが中国と米国の独占競争を崩せると良いなと思っていた。
フランスの技術に対する信頼はあったけど、フランスあるあるというか、途中でプロジェクトが頓挫・中断してしまうことだけが心配だった。そこへ日本が、しかも岩谷産業さんがパートナーとして入ってくれることがわかって、「これで大丈夫だ!」と胸を撫で下ろしたよ。
カセットコンロで知られている岩谷産業さんは、LPG分野で日本の市場占有率1位の総合エネルギー企業で、リチウム・コバルト・マンガン等も扱う資源商社である他に、びっくりくらい多種類の事業を行っているんだ。でも単に経営の多角化というだけではなくて、一見関係がないように思える事業が面白いほどうまく繋がっているんだよね。しかも、どの事業に対してもすごく丁寧に、岩谷産業さん自身がしっかりと調査・マネージメントをしている。ヨーロッパ進出は企業にとってハードルが高くて、良い製品だからといって必ずしも成功できるわけではないんだ。しっかりと腰を据えて長い目で取り組まなくては、そう簡単に受け入れてくれるような開かれた市場ではないし費用もかかる。それに長い目でとは言っても、時代の変化への対応も求められるし、ヨーロッパ市場に向けた細かい変更も求められ、しかも日本らしさも無くしてはならないという、注文が多くて面倒な市場なわけだけど、岩谷産業さんは小さな市場から丁寧に柔軟に市場を開拓してきたんだ。世界中で事業展開をしているけど、その土地ごとにアプローチのしかたを柔軟に変えているんだよね。
僕は20年以上前に一緒にお仕事をさせていただいたことがあるんだけど、大企業なのに、いい意味でスタートアップのような姿勢を失っていないことに感銘を受けて、海外で成功していく秘訣はこういうところなんだなと思ったことを憶えている。
この大きなプロジェクトの受注に関しても、いきなり浮上したわけではなく、これまでの地道な努力が信用に繋がった結果だと思うんだ。
僕は日本とフランスがチームを組むのは、エネルギー分野がお互いの良さを一番発揮できる分野じゃないかと思うんだ。フランスも日本も技術は高いけど強みは違う、でもお互いに資源が豊富な国じゃないから、アイディアで勝負することが必要な状況なのは一緒だ。
フランス人が得意なのは、冒険や発明。好奇心が強く個性的で、新しいアイディアやデザインを生み出すことが得意なうえに技術力も高く、無理だと言われても押し通す忍耐力もある。いっぽうで個性を出すことがマイナスになってしまうような、チームで進める作業や、細かさや丁寧さが求められる作業を日々繰り返すことは苦手な人が多いんだ。だから作業にムラが出てしまって、事故や問題が起きる原因になってしまう。
原発大国なのに、爆発事故だとか蒸気漏れの事故はわりと頻繁に起こしていて、作業員が100人以上被曝したとか、日本だったら謝罪会見レベルの事故でも普通にニュースで流れるくらい。原因は地震などの天災と違って、だいたいが聞いて呆れるようなうっかりミスの人災だから余計たちが悪いよね。国民も大雑把だから文句言う人もあまりいないけど、原発事故の影響を受けるのは自分たちだけじゃないから、ちゃんとしなきゃだめだよね。当たり前のことすぎて書いていて情けないけど。
やっぱりフランスの(というか世界の)原発は、検査やメンテで世界一のレベルを誇る日本の人たちに保守を任せることが理想的だと思うんだ。丁寧さが求められる細かい作業を毎日根気よく続けられるという、フランス人の弱点を補ってくれる強みがあるからね。日本の人たちにとっては当たり前のことかもしれないけど、世界的に見ても特殊な能力だと思うんだ。製造業などに活かすだけではなくて、能力自体を売りにすべきだと思う。それが無理ならせめて保守のプログラムを作成して教育を担当してもらって、日本式の保守ができるフランス人たちに保守してもらうとか… 一番の理想を言えば、日本で原発の保守專門の会社を作って、検査員や管理者を世界に派遣してもらえたら、自然由来以外の原発事故は、かなり防げるのではないかと思うんだ。(自然由来の事故が起きたとしても、日本は経験豊富だから他の国より復旧は絶対に早いと思うし。)世界的にも、災害時などに派遣される日本の自衛隊の復旧活動の速さと仕事の質には定評があるから、平時からお願いできる民間の派遣会社があったら、助かる国や施設は多いと思う。
ウクライナの原発の修復は近い将来に確実に必要になるし、マクロン大統領はこれから原発をたくさん建設すると宣言しているし(以前は国民の半数程度が反対していたけど、ウクライナ侵攻によるエネルギー危機以降は反対の声は殆どあがらなくなって、国民も原発を産業の中心にするという現実に腹を括ったみたいだ)、自然災害の多い日本は原発に向いた国ではないし、新たな原発の建設は世論的にかなり難しいと思うので、原発はフランスに建設して、保守を日本が担当するというような構図であれば、両国のエネルギー供給の安定に繋がるのではないかと思うんだけど。難点は両国が地理的に遠いことだけれど、そこはなんとか輸送手段を発明してもらうとして…