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Caremag工場予定図

フランス南西部のピレネー・アトランティック県ラックにおいて、リヨンの企業カレスター社が主導するレアアースのリサイクル・精製工場の建設が開始されました。この工場は、中国がほぼ独占しているレアアース市場において、ヨーロッパの自立性を高めることを目的とし、フランスと日本の企業・政府機関が共同で資金を拠出し、レアアースの安定供給と資源の有効活用を目指すプロジェクトです。
パリロボくん
パリロボくん

この発表がこの時期になって本当に良かった。
トランプ米大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に対して、紛争終結後の安全保障支援を確約する条件として、レアアースなどの権益譲渡を迫っているというニュースが世界を巡り、やっぱりレアアースの資源開発も中国と米国の一騎打ちか、という殺伐とした雰囲気になっているけど、フランスがレアアース開発を目指しているのはかなり以前から伝えられていたから、フランスが中国と米国の独占競争を崩せると良いなと思っていた。
フランスの技術に対する信頼はあったけど、フランスあるあるというか、途中でプロジェクトが頓挫・中断してしまうことだけが心配だった。そこへ日本が、しかも岩谷産業さんがパートナーとして入ってくれることがわかって、「これで大丈夫だ!」と胸を撫で下ろしたよ。
カセットコンロで知られている岩谷産業さんは、LPG分野で日本の市場占有率1位の総合エネルギー企業で、リチウム・コバルト・マンガン等も扱う資源商社である他に、びっくりくらい多種類の事業を行っているんだ。でも単に経営の多角化というだけではなくて、一見関係がないように思える事業が面白いほどうまく繋がっているんだよね。しかも、どの事業に対してもすごく丁寧に、岩谷産業さん自身がしっかりと調査・マネージメントをしている。ヨーロッパ進出は企業にとってハードルが高くて、良い製品だからといって必ずしも成功できるわけではないんだ。しっかりと腰を据えて長い目で取り組まなくては、そう簡単に受け入れてくれるような開かれた市場ではないし費用もかかる。それに長い目でとは言っても、時代の変化への対応も求められるし、ヨーロッパ市場に向けた細かい変更も求められ、しかも日本らしさも無くしてはならないという、注文が多くて面倒な市場なわけだけど、岩谷産業さんは小さな市場から丁寧に柔軟に市場を開拓してきたんだ。世界中で事業展開をしているけど、その土地ごとにアプローチのしかたを柔軟に変えているんだよね。
僕は20年以上前に一緒にお仕事をさせていただいたことがあるんだけど、大企業なのに、いい意味でスタートアップのような姿勢を失っていないことに感銘を受けて、海外で成功していく秘訣はこういうところなんだなと思ったことを憶えている。
この大きなプロジェクトの受注に関しても、いきなり浮上したわけではなく、これまでの地道な努力が信用に繋がった結果だと思うんだ。

僕は日本とフランスがチームを組むのは、エネルギー分野がお互いの良さを一番発揮できる分野じゃないかと思うんだ。フランスも日本も技術は高いけど強みは違う、でもお互いに資源が豊富な国じゃないから、アイディアで勝負することが必要な状況なのは一緒だ。
フランス人が得意なのは、冒険や発明。好奇心が強く個性的で、新しいアイディアやデザインを生み出すことが得意なうえに技術力も高く、無理だと言われても押し通す忍耐力もある。いっぽうで個性を出すことがマイナスになってしまうような、チームで進める作業や、細かさや丁寧さが求められる作業を日々繰り返すことは苦手な人が多いんだ。だから作業にムラが出てしまって、事故や問題が起きる原因になってしまう。
原発大国なのに、爆発事故だとか蒸気漏れの事故はわりと頻繁に起こしていて、作業員が100人以上被曝したとか、日本だったら謝罪会見レベルの事故でも普通にニュースで流れるくらい。原因は地震などの天災と違って、だいたいが聞いて呆れるようなうっかりミスの人災だから余計たちが悪いよね。国民も大雑把だから文句言う人もあまりいないけど、原発事故の影響を受けるのは自分たちだけじゃないから、ちゃんとしなきゃだめだよね。当たり前のことすぎて書いていて情けないけど。
やっぱりフランスの(というか世界の)原発は、検査やメンテで世界一のレベルを誇る日本の人たちに保守を任せることが理想的だと思うんだ。丁寧さが求められる細かい作業を毎日根気よく続けられるという、フランス人の弱点を補ってくれる強みがあるからね。日本の人たちにとっては当たり前のことかもしれないけど、世界的に見ても特殊な能力だと思うんだ。製造業などに活かすだけではなくて、能力自体を売りにすべきだと思う。それが無理ならせめて保守のプログラムを作成して教育を担当してもらって、日本式の保守ができるフランス人たちに保守してもらうとか… 一番の理想を言えば、日本で原発の保守專門の会社を作って、検査員や管理者を世界に派遣してもらえたら、自然由来以外の原発事故は、かなり防げるのではないかと思うんだ。(自然由来の事故が起きたとしても、日本は経験豊富だから他の国より復旧は絶対に早いと思うし。)世界的にも、災害時などに派遣される日本の自衛隊の復旧活動の速さと仕事の質には定評があるから、平時からお願いできる民間の派遣会社があったら、助かる国や施設は多いと思う。
ウクライナの原発の修復は近い将来に確実に必要になるし、マクロン大統領はこれから原発をたくさん建設すると宣言しているし(以前は国民の半数程度が反対していたけど、ウクライナ侵攻によるエネルギー危機以降は反対の声は殆どあがらなくなって、国民も原発を産業の中心にするという現実に腹を括ったみたいだ)、自然災害の多い日本は原発に向いた国ではないし、新たな原発の建設は世論的にかなり難しいと思うので、原発はフランスに建設して、保守を日本が担当するというような構図であれば、両国のエネルギー供給の安定に繋がるのではないかと思うんだけど。難点は両国が地理的に遠いことだけれど、そこはなんとか輸送手段を発明してもらうとして…