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2025年のフランス農業は、価格、収入、環境問題、世代交代など、多くの課題に直面しています。農業団体からの圧力に応え、政府は農業の方向性を示す法律を急遽可決しましたが、環境保護団体からは環境規制の緩和として批判されています。Salon International de l'Agriculture:SIA(国際農業見本市)は、これらの問題に対する議論の場となり、農業関係者、政府、消費者の間の対話を促進する機会となります。

食の大国の苦悩

2025年2月22日(土曜)~3月2日(日曜)まで、パリ万博公園(ポルト・ド・ヴェルサイユ)にて、第61回「Salon International de l’Agriculture:SIA(国際農業見本市)」が開催されています。

毎年2月に開催される国際農業見本市は、フランスにおける農業の重要さを華やかに世界に発信する祭典です。しかし2024年に、この伝統的な農業見本市は歴史的な転換点を迎えました。

エマニュエル・マクロン大統領が会場入りした瞬間、トラクターのクラクションと「政府は裏切り者!」の怒号が響き渡り、催涙ガスの白煙が会場を包みました。
この光景は、EU最大の農業国が抱える深い亀裂を象徴的に映し出していたのです。

崩れゆく農業大国の現実

数字が語る危機の深層

農家の収入の厳しい現実

国立統計経済研究所INSEEによると、2021年のフランス国内の39万の農家(林業を除く)の平均報酬は月額1,860ユーロでしたが、 その活動の種類(畜産・酪農及び繁殖農家、園芸農家、穀物農家)、農場の規模、およびその農家が位置する地域によって大きく異なります。
牛の飼育者は平均月収 1,480ユーロ、ワイン生産者は 2,760ユーロ、大手穀物栽培者は 2,150ユーロとなっていますが、2021年の新卒の平均給料が約 2,250~2,670ユーロであることと比較すると、ワイン生産者を除く農家の平均年収は、経験を積んだ大規模農家でさえ、新卒の平均的な初任給を大幅に下回る額であることがわかります。

特にヤギ、羊、馬の飼育者の月収平均はわずか680ユーロであり、農閑期のない手のかかる仕事でありながら、農家の収入だけでは生活できないことが実情です。
フランス全土の農家の18%は貧困線を下回っており、2001年の97万戸から2021年の39万戸までの農家数の減少からも、廃業せざるを得ない厳しさが伝わってきます。

そのうえINSEEの調査時の2021年から現在までに経費は 2年間で 25%増加したものの、収入は減っている農家が多く、特に経費の負担が大きい酪農や畜産農家を中心として、廃業に踏み切る農家が急増しており、子どもたちには農家を継がず、普通に就職して欲しいと願う農家が殆どだそうです。

EUの規制に対するフランスの農家の不満とは?

フランスの農家は、EUの規制に対していくつもの不満を抱えています。主な不満の点は以下の通りです:

政策の光と影

フランスの農家は、これらの規制が農業経営に与える影響を軽減し、より実現可能で持続可能な方法で規制を導入するよう、EUに対して改善を求める声を上げています。

EGalim法とは

EGalim法は、正式には「農業及び食料分野における商業関係の均衡並びに健康で持続可能で誰もがアクセスできる食料のための法律」と呼ばれる法律で、2018年にフランスで制定されました。この法律は、主に農業者と食品産業の取引関係を改善し、農業者の所得を向上させることを目的としています。

目的と背景

この法律は、フランスにおける農産物の価格形成や取引条件を見直すもので、農業者の利益を保証し、持続可能な農業を推進することを狙っています。EGalim法は、マクロン大統領が主導した「食料全体会議」の結果として導入されたもので、農業者が生産した商品が適正に評価され、価格が決定される仕組みを整えています。

主な規定

EGalim法にはいくつかの重要な規定があります。

EGalim法はその成立以降、様々な面で農業と食品産業に影響を及ぼしています。
農業者の収入を安定させることに加え、食品供給の品質向上を図るために制定された法律です。

この法律の一環として、2017年に制定された学校給食に関する規定は、子どもたちの健康を守るために大切な規定です。具体的には、学校給食の食材の20%をオーガニックにすること、そして50%を持続可能な高品質食材で構成することが求められています。

さらに、EGalim法は、食品業界が公正な取引を行うための環境を整えることも目的としており、この法的枠組みは食品のトレーサビリティを高め、消費者がより健康的で持続可能な選択をできるようにする助けとなります。

EGalim法の功罪

農家の交渉力強化を目指したこの法律は、大規模流通業者の海外調達拡大を招く逆効果を生んでしまいました。
目標を細かく設定することにより、農家は農作業の他に、契約書の締結やオーガニックであることを証明するための書類作成や、品質検査など、新たな手続きと事務処理の必要性が生まれてしまったのです。

農家側と給食の食材流通関係者は新たな規定に対応するために多くの手続きと作業が必要になり、コストが増えてしまったため、食材流通関係者は少しでも安く農産物を供給できる生産者を探し、農家は不利な条件で契約を提携するしかなくなり、その負担は農家側に押しかかることになってしまったのです。

パリ郊外の野菜農家ピエール・マルタン氏(49)は苦渋に満ちた表情で語っています。「補助金が出るとは言っても、新たなコストをカバーするほどの金額ではない。規制が厳しくなるほど法律の抜け穴を突く業者が現れて、それが見つかることで更に規制が厳しくなる。まるで鼠取り器がそこらじゅうにあるようなものだ。」

フランスの農業にとっての国際農業見本市の役割

「Salon International de l’Agriculture:SIA(国際農業見本市)」は、フランス農業にとって多岐にわたる影響をもたらす重要なイベントです。2025年の国際農業見本市のテーマは、「フランスの誇り(fierté française)」です。
このテーマは、農業が国の団結の象徴であることを強調し、フランス人が農業の重要性を再認識する機会とすることを目的としています。2024年の国際農業見本市が農民たちによる抗議で混乱した状況とは対照的に、2025年の国際農業見本市はより穏やかな雰囲気で開催され、フランス農業のポジティブな側面をアピールすることに重点を置いています。
国際農業見本市が、フランスの農業に果たす役割は以下の通りです。

国際農業見本市で話し合われた課題

FNSEA(全国農業従事者組合連合会)の役割

FNSEA(フランス農業総連盟)は、農業の生産的な性質を再確認しようとしています。
具体的には、以下の点を重視しています。

これらの施策は、政府がFNSEAとの対話を重視し、農業界の要求に応えようとしていることを示しています。フランソワ・バイルー首相も、主要な農業団体が政府の努力を認識していることを強調しました。

再生への挑戦 – 先進事例に学ぶ

Vivescia Transitionsプログラム

Transitionsプログラム(移行プログラム)の目的は、農業従事者がより持続可能な慣行へと移行するための経済的・技術的な手段を提供することです。
このプログラムの具体的な目的は以下の通りです。

成功事例

ノール県の小麦農家マリー・ルフェーブル氏(42)は、精密農業技術導入で収量15%向上、化学肥料使用量40%削減を達成しています。「データ活用で収益と環境配慮の両立が可能だと実感しました。」

デジタル農業の最前線

2025年農業基本法の新機軸

消費者が変える農業の未来

パリ市民の意識改革

「デジタル農民」プロジェクトでは10万人の都市住民が仮想農場を運営。参加者の75%が地産地消を実践するようになり、CSA(地域支援型農業)加入者が3倍に増加しました。

ミレニアル世代の購買行動

項目割合
有機認証製品購入率68%
地元生産者直接取引53%
食品ロス削減意識89%
持続可能包装重視74%

持続可能な農業の再構築に向けて

リヨン国立農学研究所のアンヌ・デュボア教授は展望を語っています。「真の改革は技術ではなく関係性の再構築にあります。生産者と消費者、都市と農村、伝統と革新の架け橋こそが未来を拓くのです。」

2025年度の国際農業見本市には、マクロン大統領も訪れていましたが、農家の人々の関心が最も高かったのは、農家出身のフランソワ・バイルー首相が12時間も滞在して農家の人々の声に耳を傾けたことです。
EUの農家にとってはまだこれからも厳しい状況が続くことでしょうが、フランスでは国際農業見本市が農家にとって、政府や国民に対して声を上げられる重要な機会であることは、これからも変わらずにいて欲しいですね。

パリロボくん
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