
フランスのフィンテックスタートアップの資金調達動向
2024年、フランスのフィンテック業界はコロナ後の不安定な時期を乗り越え、力強い回復と成長を見せています。人工知能(AI)やクラウド技術などの最新テクノロジーを活用した革新的なサービスが、多様な領域で登場しており、国内外の注目を集めています。
また、明確な市場ニーズに応えるニッチな戦略を採用するスタートアップや、連続起業家による実践的な経営ノウハウを持つ企業が、成長の中心を担っています。これらの要素が相乗効果を生み、フランスのフィンテックエコシステムをさらに加速させています。
2024年の復活と多様化
フィンテック業界は、2023年に大きな打撃を受けました。資金調達額は前年比で73%も減少し、多くのスタートアップ企業が人員削減や事業の見直しを迫られました。
しかし、2024年に入ると状況は一変し、力強い回復の兆しが見え始めました。
世界的な監査法人EY(アーンスト・アンド・ヤング)の調査によると、フィンテック分野は資金調達額で全業界中第3位となり、総額8億4,000万ユーロ(約1,400億円)を集めました。これは前年から32%増加という、明確な成長を示しています。
この回復には、人工知能(AI)やデータ活用などの先端技術を取り入れたサービスの登場や、投資家の信頼回復が背景にあると考えられています。
成熟と多様化
フランスのフィンテック市場は、かつて主流だったオンライン決済や送金サービスだけにとどまらず、多様な分野へと拡大し、徐々に成熟の段階へと移行しています。いまやフィンテックは、一般消費者向けのサービスや法人・公共部門向けのソリューションにも広がっており、その応用範囲は非常に幅広くなっています。
たとえば、最近注目されているスタートアップの事業領域を見ると、
- 中小企業向けの迅速な融資サービス
- 富裕層を対象としたAIによる資産運用
- 安全性を重視したリスクフリー貯蓄口座
- 中小企業やフリーランス向けの請求書管理アプリ
- 個人投資家やプロトレーダー向けのリアルタイム市場分析ツール
- 気候変動に対応する農業用の天候保険
- 金融犯罪やなりすましを防ぐ不正検知システム
- 中小規模店舗向けのスマート決済端末
- 地方自治体向けの公共サービスに特化した保険商品
- 後継者不足に悩む企業のための事業承継支援プラットフォーム
といったように、非常に多様な課題に対してテクノロジーを活用した革新的な解決策が生まれています。
これらのサービスは、それぞれの業界におけるニッチなニーズに応えると同時に、より広範な社会課題にもアプローチしており、フィンテックが持つ応用可能性の高さと社会的影響力を改めて示しています。
AIの活用
人工知能(AI)は、リスク評価、市場分析、不正検知、保険料算出、マッチングなど、様々な分野でフィンテック・スタートアップの競争力を高める重要な要素となっています。
特定のニーズへの対応
既存の金融機関のサービスでは十分にカバーできていない、中小企業、富裕層未満の層、地方自治体など、特定のターゲット層や課題に焦点を当てたサービスを提供するスタートアップが多く見られます。
連続起業家の存在
複数のスタートアップを立ち上げ成功させてきた連続起業家が、新たなフィンテック・スタートアップの設立を牽引しています。
フランスの主要フィンテック・スタートアップと資金調達状況
- Hero:AIを活用した中小企業向け融資・決済プラットフォーム
- 技術:
Hero社は、人工知能(AI)を活用して中小企業の資金調達と決済に革新をもたらす技術を採用しています。具体的には、以下の点が挙げられます。- AIによる信用リスク評価と迅速な融資:
Hero社は、顧客のSiren番号(フランスの企業識別番号) を基に、AIを用いて信用リスクを評価し、数時間で融資 を提供することができます。これは、従来の手法に比べて非常に迅速な資金調達を可能にするものです。 - 革新的な銀行機能:
Hero社は、「より革新的な銀行」として機能し、従来の銀行にはない新しい金融サービスを提供しています。- 3%の利息が付く当座預金口座:
顧客は預金に対して3%の利息を得ることができます。 - 法人向けオールインワン口座:
この口座には、支払遅延機能付きのカード や、サプライヤーへの支払い後の分割払い機能などが含まれており、中小企業の資金管理を効率化します。
- 3%の利息が付く当座預金口座:
- AIによる信用リスク評価と迅速な融資:
- 目標資金調達額:3000万ユーロ
- 現状:
Hero社は2021年に設立されました。共同創業者の一人は、ポリテクニック(フランスの高等教育機関)出身のNicolas Millot氏で、彼は以前LazardとRothschild に在籍していました。
現状の主な実績としては以下の点が挙げられます。- 2024年の売上高:250万ユーロを達成しています。
- 顧客数:1万人の顧客 を抱えています。
- 規制当局の認可:フランスの金融監督当局であるACPR(Autorité de contrôle prudentiel et de résolution)の認可を受けています。
- 投資家の獲得:アメリカのファンドであるValar から出資を受けています。Valarは、PayPalやN26 などの著名なフィンテック企業にも投資していることで知られています。
- 技術:
- RockFi:10万ユーロから500万ユーロの資産を持つ家庭に助言を行うフィンテック企業
- 技術:
RockFiは、顧客の資産戦略に最も適した金融商品を選定するため、高性能なツールを駆使する専門性の高いアドバイザーのネットワークを構築しています。対象となるのは、いわゆる「マス・アフルエント(mass affluent)」と呼ばれる層です。「伝統的な金融とフィンテックの良いとこ取り」 を目指し、以下の技術とアプローチを採用しています。
専門知識を持つアドバイザーのネットワーク:
RockFiは、高度な専門知識を持つ金融アドバイザーのネットワークを構築しています。これには、ソシエテ・ジェネラル・プライベート・バンキングの元ディレクターであるStéphane Caries氏や、HSBCプライベート・バンキングの同じ役職にあったVincent Pagny氏など、伝統的な金融機関で経験を積んだ人材が含まれています。
高性能なツールの活用:
これらのアドバイザーは、約3500もの金融商品の中から顧客に最適なものを選び出すための高性能なツールを利用しています。 - 富裕層向けとプライベートバンクの中間層をターゲット:
RockFiは、金融資産を10万ユーロから500万ユーロの間で保有する層をターゲットとしています。この層は、一般の銀行の標準的なサービスでは不十分であり、一方でプライベートバンクのサービスを利用するには資産が少ないと考えられています。 - 目標資金調達額:1500万ユーロ
- 現状:
RockFi社は、起業家のPierre Marin氏(Prépa First、Iziworkの創業者) が、技術系の専門家や銀行家と協力して設立しました。2024年5月には、RockFiは最初の資金調達として300万ユーロを獲得しました。現在はパリ、リール、アヌシーに拠点がありますが、新たにボルドー、リヨン、トゥーロンにもオフィスを開設しました。2025年中には、トゥールーズ、ニース、レンヌにも拠点を設ける計画です。そして来年までに、預かり資産総額10億ユーロ(約1,600億円)を目指しており、これが達成されれば、ビジネスとしての採算ラインに到達すると見込んでいます。- 顧客数:数百の顧客をすでに獲得しています。
- 料金体系:顧客は2000ユーロからの定額料金を支払うことでサービスを利用できます。
- 技術:
- Swaive:リスクなしの貯蓄商品を専門に扱うスタートアップ
- 技術:
フランスでは、安全性を重視する貯蓄スタイルが根強く、5700万人が保有する「リブレットA」や、「LDDS(持続可能な開発支援預金口座)」といった年利2.4%の非課税で元本保証の貯蓄商品が圧倒的な人気を誇っています。どちらも国が保証する無リスク資産であり、特に低金利時代においても安定的な貯蓄手段としてフランス国民に支持されてきました。
しかし問題は、この2つのリブレット以外に、同様の安全性と利回りを持つ商品がほとんど存在しないという点です。なぜなら、これらの商品の提供は銀行にとって収益性が低く、積極的に開発・提供されていないからです。
その結果、フランス国内では個人や企業の当座預金口座に、総額約1兆2000億ユーロ(約190兆円)が眠ったままになっており、これらの資金は持ち主に利息を一切もたらしていないという状況が続いています。
しかしこの資金、実は銀行にとっては大きな利益源となっています。元BNPパリバのマーケット部門で7年間アナリストを務めたムレジャン氏によれば、「この資金は、銀行が毎晩ヨーロッパ中央銀行(ECB)に預け入れることで、2023年には450億ユーロ(約7兆円)もの利息収入を銀行にもたらした」とのこと。つまり、預金者は得をせず、銀行だけが利ざやを享受しているのが実態なのです。
こうした構造に疑問を抱いたムレジャン氏は、2024年初頭にSwaive(スウェイブ)社を創業。リスクのない金融商品に特化したデジタル・プラットフォームを立ち上げ、フランス国内の預金者に向けて、より多様で公平な「無リスク」貯蓄オプションを提供することを目指しています。
Swaive社のプラットフォームでは、たとえば以下のような技術や機能が導入される予定です:- 複数の無リスク金融商品を横断的に比較できる検索・分析ツール
- 利用者の資産状況に応じた最適な商品提案機能(AI活用)
- 定期預金・貯蓄口座の申込みから運用までをオンラインで完結できるUX設計
- 透明性の高い手数料体系とリアルタイムでの金利更新機能
- 目標資金調達額:700万ユーロ(主にマーケティング費用や、現在8人のチームを強化するために活用される予定です。)
- 現状:
グザビエ・ニール氏(フリーテレコムの創業者)やベルナール・アルノー氏(LVMH会長)、さらにギャラリー・ラファイエットのオーナー家などのファミリーオフィスや投資ビークルから、220万ユーロ(約3億5千万円)の初期資金を調達しました。また、必要な認可(Orias、COBSP、CIF)も取得済みです。2025年1月には、銀行パートナーであるCFCAL銀行とマッコーリー銀行と共にサービスを開始し、すでに3000人の顧客を獲得しています。顧客1人あたりの平均投資額は2万2000ユーロと、他のオンライン貯蓄サイトの平均を大きく上回っています。
- 技術:
- Paybystep:業務委託者が確実に・迅速に報酬を受け取れるよう支援するプラットフォーム
- 技術:
Paybystep(ペイバイステップ)は、見積もりを段階的に支払う仕組みによって、業務委託者がより早く報酬を得られるようにするプラットフォームを開発しました。
欧州委員会によると、ヨーロッパで発行される請求書のうち約60%が期日通りに支払われておらず、企業の倒産の4分の1がこうした遅延に起因しているとのことです。この問題に対抗するため、ヨアン・シャレイロン氏(41歳)は2024年末にPaybystepを立ち上げました。このプラットフォームは、企業(中小企業、中堅企業、大企業)と、その業務を請け負う小規模事業者やフリーランスの間で、段階的に報酬が支払われるようプロセスを整理し、スムーズにするものです。
その主要な技術とビジネスモデルは以下の通りです。- 段階的な支払いシステム:従来の見積書の各項目を「段階」として捉え、各段階が完了するごとに支払いが行われる仕組みを採用しています。
- プラットフォームの機能:
サービス提供者はプラットフォームに自身の商品(またはサービス)をアップロードします。
顧客は各段階の成果物に対して支払いを行い、次の段階に進みます。
最終的に、顧客は知的財産権を購入することも可能です - 収益モデル:
Paybystep社は、サービス提供者から、入金、請求書、または知的財産権の譲渡契約ごとに1ユーロの手数料 を徴収します。将来的には、ファクタリングなどの機能を通じてパートナーからの収益も得ることを目指しています。 - 目標資金調達額:180万ユーロ
- 現状:
Paybystep社は2024年末に設立されました。共同創業者には、連続起業家のYohann Videgrain-Charreyron氏と、Autolib’、Cdiscountに関わったMorald Chibout氏がいます。
現状の主な実績としては以下の点が挙げられます。
顧客数:現在約20社の顧客を抱えています(主に建築家、弁護士、コーチング会社、調査・設計事務所といった第三次産業に属する事業者)。
取引額:100万ユーロの取引が行われています。
- 技術:
- TwoWay:トレーダーが最適な価格を提示できるよう支援するツール
- 技術:
このプラットフォームは、トレーダーとブローカーの間で交わされるやりとりをAIで分析し、より精度の高い価格データを提供する仕組みです。
投資銀行の現場では、トレーダーたちがブローカーからリアルタイムで届くチャットメッセージを絶えず受け取っています。これらのメッセージには市場価格の情報が含まれていますが、創業者のシリン・ベンザイエド=ブルジュリさん(41歳)と共同創業者のダヴィド・ボクレさん(33歳)は、世界中の20以上の大手銀行でトレーダーやトレーディングデスクの責任者と200件以上のインタビューを行った結果、実に80%近くのメッセージが、時間やリソース不足によって処理されずに見過ごされていることを発見しました。
この情報の取りこぼしにより、金融機関は年間で数百万ユーロ規模の損失を出している可能性があるとのことです。なぜなら、最適とは言えない価格を提示してしまうトレーダーが少なくないからです。
このような問題を解決するために、TwoWayはAIを活用し、ブローカーとトレーダー間のやりとりを要約して価格に関する有用な情報を抽出し、それを既存の価格配信プラットフォーム(Bloomberg、Reuters、360Tなど)と連携させる仕組みを提供しています。
具体的には以下の点が挙げられます。- AIによるチャットメッセージの要約と分析:トレーダーがブローカーから受け取るチャットメッセージをAIが要約し、重要な情報を抽出します。
- 価格プラットフォームとの照合:AIは要約された情報を従来の価格プラットフォームの情報と照合します。
- リアルタイムで高精度な市場データの提供:これらの処理により、TwoWay社の技術は、トレーダーに対してリアルタイムで、より精度の高い市場データを提供することを可能にします。
- 目標資金調達額:150万ユーロ
- 現状:
TwoWay社は2024年の夏 に設立されました。創業者は、AgroParisTechとMITの出身で、金融ソフトウェア企業Finastraでイノベーション部門を率いていたChirine BenZaied-Bourgerie氏とDavid Boclé氏です。
現状の主な実績としては以下の点が挙げられます。 - インキュベーション:Station F の Edhec を通じたインキュベーションプログラムに参加しています。
- 主要顧客:アメリカのState Street銀行と イタリアのIntesa Sanpaolo銀行が顧客となっています。
- 収益モデル:顧客銀行は年間1トレーダーあたり1万ユーロから2万ユーロのサブスクリプション料金を支払うことでサービスを利用しています。
- 技術:
- Orakle Weather:雨のリスクに備える保険を提供するスタートアップ
- 技術:
Orakle Weatherは、これまで存在しなかった革新的な保険商品、つまり「雨のリスクに対する保険」を開発しました。この保険は、特に観光業やイベント業に従事する企業向けに設計されており、予約のプロセスに組み込むことが可能です。
天候に恵まれなかった新郎新婦に対して「雨の日の結婚式は幸せになる」という言い伝えで慰める代わりに、今では実際に雨を保険でカバーすることができるようになりました。
利用者はワンクリックで加入でき、もし雨が降った場合には、保険金の支払いが自動で行われます。面倒な損害申告の手続きは一切不要です。
その主要な技術は以下の通りです。- AIアルゴリズム:AIに基づいたアルゴリズムを使用して、雨が降るリスクを予測し、保険料を計算しています。このアルゴリズムは、場所と時期を考慮に入れています。
- 自動払い戻しシステム:予測された雨が降った場合、自動的に保険金が払い戻される仕組みを採用しています
- 目標資金調達額:50万ユーロ
- 現状:
Orakle Weather社は2024年に設立されました。創業者は、保険会社AXAで同僚だったリスク管理の専門家であるStella Jovet氏とRym Ben Hassine氏 です。
現状の主な実績としては以下の点が挙げられます。- ターゲット顧客:主にキャンプ場チェーンやアウトドアアクティビティを提供する事業者と契約を結んでいます。
- 契約件数:9000人の個人に対して保険を提供しています。
- 月間経常収益:5万ユーロの月間経常収益を上げています。
- 今後の目標:2025年末までに3万人の顧客を獲得することを目指しています。また、今後は雨だけでなく、気温や強風リスクなど、他の気象リスクに対応する保険商品へも多角化していく予定です。
- 技術:
- Heptalytics:企業を詐欺被害から守るスタートアップ
- 技術:
Heptalytics社は、金融機関、フィンテック企業、一般企業向けに、SaaS型のAIアシスタントを提供しています。このAIは、年々巧妙化する不正行為に対して、リアルタイムで検知・予測することを目的としており、決済や金融取引のセキュリティを強化します。
たとえば、長期間利用されていなかった“休眠口座”に対する異常なトランザクションを検出し、持ち主に“次に来る取引は詐欺の可能性がある”と警告することができます。 - そのために開発されたのが、脳卒中の早期診断を可能にするモバイルアプリです。「まるで神経科医が診察するように、このアプリは患者に対し、腕を上げる、特定のフレーズを繰り返すなどの簡単な動作を求めます。それをAIが解析することで診断を支援します。
- 目標資金調達額:120万ユーロ
- 現状:
Heptalytics社は2023年末に設立されました。創設者は、フィンテック企業Paykrom(Qontoに売却)の創業者であるアレクサンドル・ダヴィッド氏と、ENS Ulm出身で数学博士のブリス・ル・グリニョウ氏です。彼らのAIアシスタントはすでに複数のフィンテック企業(Kard、Be-Bunkなど)と契約しており、100万ユーロの売上高を達成しています。また、エリック・ラス(Treezor、THK Capital)氏との間で最初の資金調達ラウンドを完了しています。今後は、さらに規模の大きな企業に対して、組織的なマネーロンダリング対策支援を展開していきたいと考えています。
- 技術:
- Pikkopay:レジ待ちを解消するためのアプリ
- 技術:
買い物の中でも「レジ待ち」は大きな負担になっています。ハリス社の調査によると、フランス人の約9割がレジ待ちを理由にカゴを放棄した経験があると回答しており、これによる損失は年間163億ユーロにのぼるとされています。この問題を解決するために、多くのスーパーマーケットが、セルフレジや店内バーコードスキャナーなどの導入を進めています。
Pikkopayは、スマートフォンをレジとして活用するため、支払いの時間を更に短縮することができ、列に並ぶ必要もありません。- 店舗入口でQRコードをスキャンすることで利用を開始します。その後、顧客は商品のバーコードをスマートフォンでスキャンし、20秒以内に支払いを完了させることができます。支払いが完了すると、QRコードが生成され、店員に提示することでチェックアウトが完了します。
- この「スマホ決済」は、平均してわずか14秒で完了するため、劇的な時間短縮が可能になります。さらに、お客様は専用アプリをダウンロードする必要もなく、Apple Pay、Google Pay、PayPal、食事券カード、あるいはクレジットカードの読み取りなど、様々な決済手段を選択できます。
- このシステムは専用アプリを必要とせず、店舗側も特別なハードウェアを導入する必要がないため、店舗側の費用は、初期費用として1000〜3500ユーロ、月額費用として100〜400ユーロです。
- またPikkopayのシステムには、不審な行動を検知するアルゴリズムが搭載されており、従業員はタブレットを使って買い物かごの中身を確認できます。
- 目標資金調達額:120万ユーロ
- 現状:
Pikkopayは、2022年のTechnopole de l’Aube en Champagneのピッチコンテストで優勝し、その年の夏にトロワで設立されました。設立者は、アレクサンドル・チェン氏とジョー・トリン氏(Esilv出身)です。Pikkopayのサービスは、新型コロナウイルスの流行によりQRコードが広く普及したタイミングで開始されました。同社は、自動レジよりも低コストであることを強みとしています。
既に6つのスーパーマーケットでテスト運用が行われ、年末までに10店舗に拡大する予定です。
- 技術:
- Localia:自治体が気候リスクに備えて保険をかけられるよう支援するスタートアップ
- 技術:
フランス元老院(上院)の財政委員会による最近の調査によれば、地方自治体の公的建築物に対する保険の取り扱いが非常に厳しくなっていることが明らかになりました。保険料の高騰や気候災害の多発により、2024年には1,500もの自治体が公的建築物に対する保険契約を打ち切られました。また、自治体の5%が保険の契約自体を諦めている状況にあります。これは、保険会社がリスクの大きさから積極的に引き受けようとしないため、市場が縮小していることによるものです。
「多くの自治体は、自分たちの地域が抱えるリスクを把握し、コントロールする手段を持っていません。そのため、保険会社に提出する入札書類を適切に準備できず、結果として保険会社も手を引いてしまうのです」と語るのは、Localia共同創業者のアンジェリク・デュランさん(28歳、ENS Ulm卒)です。彼女はこの市場規模を2025年時点で25億ユーロ(約4,000億円)と見積もっています。 - 目標資金調達額:120万ユーロ
- 現状:
2024年4月に設立されたLocaliaは、地方自治体に対して自動化されたリスク診断レポートを提供しています。この診断はAIを活用して作成され、数百万件に及ぶ公的データ(フランス生態移行省、財務総局、国土地理院、土地台帳、CEREMA(環境・リスク・都市計画の研究機関)など)を統合したものです。このレポートは、自治体が保険会社への入札や契約交渉を行う際のベース資料として活用されます。
Localiaのサービスは、住民1人あたり1ユーロで提供されます。現在、ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏、ブロワ、ベチューン、ポワティエが顧客となっています。
また、Localiaは保険仲介業も行っており、その手数料は10%から20%です。同社の目標は、公共部門における保険のリーダーとなることです。
- 技術:
- Breedge:企業の事業承継を支援するソフトウェア
- 技術:
AI(人工知能)の力を活用したBreedge(ブリッジ)は、企業の経営者が事業を譲渡する際や、裁判所が任命する破産管財人(= 法的代理人)が最適な後継者を見つけるための支援を行うソフトウェアです。Breedge社の設立の背景には、創業者であるポール・レニエ=ヴィグルー氏が自身の最初のスタートアップ売却を試みた際に、企業の譲渡・売却プロセスがほとんどデジタル化されておらず、多くのTPE(従業員10名未満の小規模企業)・PME(従業員10名以上50名未満の中小企業)が廃業に至っている現状を認識したことがあります。
Breedgeの主なサービスは、過去の数千件におよぶM&A(合併・買収)データをAIで分析し、売却を考える経営者にとって最適な買い手候補200社を提案するというものです。AIのアルゴリズムにより、売却の可能性が高く、事業にマッチした後継者を効率的に見つけることが可能になります。
サービス料金体系として、売り手企業に対しては初期費用1500ユーロと、取引成立時に取引額の5%が課金されます。一方、管財人に対しては、1回の買い手候補検索あたり200ユーロでサービスを提供しています。 - 目標資金調達額:60万ユーロ(この資金は、技術サービスの強化、企業経営者をサポートする営業代理ネットワークの構築に充てられる予定です。)
- 現状:
Breedge社は2024年1月にポール・レニエ=ヴィグルー氏(Skema BS出身)とエンツォ・フラガル氏(EPF、Mines出身)によって設立されました。同社は、モンペリエのBIC(ビジネス・イノベーション・センター)でインキュベーションを受けており、Google、Bpifrance(フランス国立投資銀行)、French Techからの支援を得ています。(Googleからのローン:35万ユーロ・Bpifranceからのローン:1万2,000ユーロ・フレンチテック補助金:1万4,000ユーロ)
- 技術:
フィンテックスタートアップの今後の展望
フィンテックスタートアップの今後の展望は、AIをはじめとする先進技術の活用、特定のニーズへのきめ細やかな対応、既存の金融システムとの連携や競争、そして効率化とコスト削減といった要素によって形作られていくと考えられます。市場は成熟期に入りつつありますが、イノベーションと課題解決への強い意欲を持つスタートアップが、今後も新たな価値を提供していくことが期待されます。