Ghosn-02
フランスのTV局、BFMのビジネス番組「Good Morning Business」にレバノンからリモートで生出演したカルロス・ゴーン元会長は、退任から6年を経た今、日産とルノーの現状を、「協調なき漂流」と断じ、その瓦解のメカニズムと再生への条件を赤裸々に語りました。
指標 ルノー 日産
株価(24/10→25/04) 58€ → 46€(▲20% ADR 8.4$ → 5.9$(▲30%
S&P見通し BBB-、ネガティブ BB+、ネガティブ
24年度営業利益率 7.6% ▲5%
親族 出生・ルーツ 主な職業・経歴 補足
父 ジョルジュ(ジョルジ)・ゴーン 1930年代前半、レバノン系家族に生まれ、祖父ビシャラが築いたブラジル・ロンドニア州のゴム/農産物流通ネットワークで育つ 1)ゴム・農産物・航空貨物ビジネスを経営
2)のちにダイヤモンド取引と航空会社運営に従事
3)1960年レバノンで司祭殺害の罪で死刑判決となったが後に減刑
4)1970年代半ば、レバノン内戦を機にブラジルへ再移住
2006年死去。犯罪歴は長らく伏せられていた
母 ローズ(通称ゼッタ)・ジャザール ナイジェリアのレバノン人一家に生まれる(故郷は北部ミジアラ) レバノンのカトリック系学校で教育を受け、結婚後は家庭に入りつつ子どもの教育を最優先。厳格ながら向学心を促す存在だった 幼少のカルロスに語学と多文化への関心を植え付けた
年/期間 学業・移住 キャリア/役職 備考
1971 – 1973 レバノン高校卒業後、パリの名門 リセ・スタニスラスで理系プレパ(グランゼコール準備課程)に在籍 フランス語・数学を徹底訓練。多国籍級友と人的ネットワークを構築
1974 エコール・ポリテクニーク(X74)入学 軍籍を帯びたリーダーシップ訓練を経験
1978 エコール・デ・ミーヌ修了 工学修士取得 ミシュラン入社 コスト管理の面白さに開眼
1989 ミシュラン北米CEOに就任
ユニロイヤル・グッドリッチ買収を主導
世界トップタイヤメーカーに押し上げる
1996 ルノー副社長(DGアジャント)就任 “コストキラー”の異名
1999 日産再建のため来日
ルノー・日産アライアンス発足
2年で日産を黒字化
2001 日産CEO就任 多文化マネジメントを実践
2005 ルノーCEO兼任
“ダブルCEO”体制
仏大企業トップと日系大企業トップを同時に務める初事例
2017 ルノー・日産・三菱連合が世界販売首位 年間販売1,000万台超
2018 11月 東京地検に逮捕
ルノー会長辞任
有価証券報告書虚偽記載などで起訴
2019 12月 保釈中にレバノンへ逃亡 “楽器ケース脱出劇”が話題
2020 – 現在 レバノンに滞在
講演・著作で発言継続
仏・日で国際逮捕状が継続
キー要素 詳細
内部告発 2018年夏、日産法務部の外国人弁護士が「役員報酬の過少申告とオマーン代理店への不正送金」を示す資料を発見。西川廣人CEOに直報し、同年9月に東京地検特捜部へ持ち込まれた。
司法取引の活用 2018年6月施行の日本版司法取引を事実上適用。日産は「法人としての刑事責任を問われない」代わりに社内調査資料を特捜部へ全面提供。
“サイレント・アプローチ” ゴーン氏に悟られないよう入国日・便名・機体を特定し、羽田関係機関だけに共有。到着20分前に検事チームを配置。
同時逮捕のケリー氏 元北米日産チェアマン。報酬スキームの法的組成を主導した疑いで、同じチャーター機に搭乗中に逮捕。
起訴日 罪名(法令) 概要 法定刑 備考
2018/12/10 金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載) 2010〜2014年度の報酬を約50億円少なく記載したとされる 10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、または併科
(金融商品取引法 第197-2)
初回の逮捕・起訴
2019/1/11 金融商品取引法違反(同上・追加分) 2015〜2017年度分で約40億円を過少記載したとされる 同上 2度目の起訴
2019/1/11 特別背任(会社法 第960) 2008年の個人デリバティブ損失約18.5億円を日産に付け替え、関連会社へ1,475万ドル送金したとされる 10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、または併科 特別背任
2019/4/22 特別背任(会社法 第960) オマーン販売代理店へ不正送金(約5億円)し私的流用したとされる 同上 特別背任
案件 罪名(刑法など) 想定刑罰 現状・金額
① ヴェルサイユ宮殿ウェディング 会社財産流用 禁錮 5 年以下+罰金 €375,000 以下 会場費 5 万€をルノースポンサー枠で充当した疑い。捜査完了、起訴済。
② オマーン代理店送金スキーム 背任+資金洗浄(マネーロンダリング) 禁錮 10 年以下+罰金 €750,000 以下
(洗浄は重加算可)
オマーン経由で €15 百万還流とされる。2022/4 国際逮捕状→正式起訴。
③ サウジ実業家向け不当支払い 背任+資金洗浄 禁錮 10 年以下+罰金 €750,000 以下 日産のオランダ子会社から総額 €11 百万超を送金した疑い。2023/5 起訴。
④ ラシダ・ダティ元法相への報酬 能動・受動収賄 禁錮 10 年以下+罰金 €1 百万以下 2010–12 年にコンサル料 €90 万支払い。2024/11 金融検察が公判請求。
視点 現状 なぜ逮捕できないか 補足ポイント
① 身柄の所在 ゴーン氏は2019年末からレバノン国内に滞在 フランス逮捕状は自国領域か協力国で拘束された場合にのみ有効 フランス警察はレバノン国内で執行権を持たない
② 条約の欠如 日仏・仏レバノン間に犯罪人引渡条約・司法共助条約がない 条約がないと正式な身柄移送プロセスを発動できない 個別合意という例外的手段はレバノン側が拒否
③ レバノン憲法 レバノンは自国民の国外引渡しを禁止 ゴーン氏はレバノン国籍も保持=レバノン当局は「自国民」とみなす 二重国籍でもレバノン法が優先される
④ 国際手配の射程 フランスは国際逮捕状とインターポールのレッドノーティスを維持 第三国経由で移動すれば拘束される可能性が高い 結果的にレバノン域外へ出られない「圧力手段」として機能
特徴 説明 カフカ作品の例
理不尽な官僚制度 誰が権限を持つのか、手続きがどう進むのかが極端に不透明で、当事者には抗弁の機会がほとんど与えられない。 長編『審判』- 突然「逮捕」されながら罪状も裁判の仕組みも知らされない主人公
終わりのない手続き 書類、面談、尋問が延々と続くが、何も前に進まず出口が見えない。 『城』- 主人公Kが「城」の役人に会うために際限なく待たされる
存在しない、あるいは曖昧な罪 犯罪とされる行為が示されない、あるいは後から拡大解釈される。 『審判』でヨーゼフKが「誰かに深く傷つけられたような気持ち」を抱えつつ理由を告げられない
心理的圧迫と無力感 常識や論理が通用しない空気の中で、個人が孤立し追い詰められる。 多くの短編(「変身」「流刑地にて」など)でも同様の閉塞感が描かれる
パリロボくん
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