
致命的な窒素漏れ事故、疑問を呼ぶ悲劇
パリ11区ヴォルテール大通り172番地にあるフィットネスクラブ「On Air」で、4月14日月曜の夜、従業員のアリソンさんと顧客の女性が、クリオセラピー(冷却療法)の施術中に亡くなるという事故が起こりました。
現在、地元警察署および労働監督署が捜査を担当してますが、事故の原因はクリオセラピー中の窒素漏れの可能性が高く、事故の原因と見られる窒素ボンベは事故当日に交換されたばかりだったそうです。
そもそもクリオセラピーってなに?
クリオセラピー(Cryotherapy)とは、「冷却療法」、「低温療法」とも呼ばれ、極端に低い温度を使って身体を治療する方法です。
科学界ではこの療法の効果について意見が分かれていますが、フランスでは病気の治療というよりも、美容目的やスポーツ後の疲労回復などを目的として施術されることが一般的です。
主なクリオセラピーの種類と使い方
- 全身クリオセラピー
- 液体窒素などを使って室温を -110℃〜-160℃ に設定した部屋やカプセルの中に2〜3分間入る方法
- アスリートの筋肉疲労の回復や炎症の抑制、代謝の向上を目的としての利用
- 局所クリオセラピー
- 一部の体の部位(例えば膝や腰)に冷気を当てて、痛みや腫れを抑えるため
- 捻挫や打撲、関節痛などの応急処置のため
- 美容目的のクリオセラピー
- 顔などに冷却ガスを吹きかけることで、毛穴の引き締め、肌のハリの改善、血行促進などのため
期待される効果
- 筋肉疲労の軽減
- 痛みや炎症の抑制
- 睡眠の質の改善
- 免疫力の向上
- 肌の引き締め、美肌効果
効果は実証されているの?
一部の効果は科学的に裏付けがあるとされており、特に以下のような分野では、一定の科学的根拠が認められています:
- 筋肉痛(DOMS:遅発性筋肉痛)の軽減
→ 高強度運動後の筋肉の痛みや炎症を一時的に抑えることが示された研究があります。 - 回復スピードの向上
→ アスリートが試合やトレーニングの後に、全身クリオセラピーを取り入れることで、筋肉の炎症を軽減し、回復を早める可能性があるとされています。 - 🔍 参考:
- Bleakley et al., 2014, British Journal of Sports Medicine
- Hausswirth et al., 2011, European Journal of Applied Physiology
注意点
- 低体温症や心臓疾患のある方にはリスクがあるため、医師の指導のもとで使用する必要があります
- 通常は短時間(1~3分)で行い、連続して使用しすぎないことが推奨されます
「こんなことが起きるなんて思わなかった」
午後6時20分頃、同僚が戻らないことを不審に思った従業員が、心肺停止状態の女性2名を発見しました。救急隊が駆けつけたものの、29歳のアリソンさんはその場で死亡が確認されました。
34歳の顧客の女性は、重体でラリボワジエール病院に搬送され、4日間昏睡状態にありましたが、18日に亡くなりました。
彼女は、事故直前にパリマラソンに参加したばかりだったそうです。
スタッフのひとりは「こんな事故が起こるなんて思いもしなかった。設備やメンテナンスに問題がなかったのか、きちんと調べて欲しいです。」と訴えています。
会員たちの間でも衝撃が広がっており、「コーチから聞いて驚きました。とても悲しい出来事で、まだどう受け止めていいかわかりません。」と会員のグレゴリーさんは語っています。
「きちんとした場所」だったはずが…
捜査では、誰に責任があるのかが問われることになります。
フランチャイズ本部「On Air」のCEOフレデリック・ヴァレ氏は、「フランチャイズオーナーは深くショックを受け、悲しんでいます。非常に真面目な方で、事件の解明に必要なすべての情報を提供するつもりです。」と述べています。
そして、「今回の出来事は、あくまでフランチャイズオーナー個人の責任であり、On Air本部は責任を負いません」と強調。
「このクリオセラピーは、当社のクラブへの入場前に完全に独立した通路スペースで行われるものであり、On Airの会員プランには一切含まれていません。顧客にも明確に説明しています。」と語っています。
なお、施設は火曜は閉鎖され、インスタグラム上では木曜に営業再開するとの案内が出されていました。
規制の不備が浮き彫りに?
現在も調査は続いていますが、この事故の原因としては窒素の漏出が最有力視されています。
窒素ガスは、無色無臭なために、漏れているかどうかが体感ではわからないという致命的な問題があります。
通常、窒素は「常温・常圧下では安定で無害」とされていますが、「密閉空間で漏れると酸素濃度が低下し、窒息の危険が生じる。」と産業ガス大手エア・リキード社は説明しています。
パリの中毒対策センター所長ジェローム・ラングラン氏は「これは中毒ではなく窒息による死亡です。ガスが室内の酸素を排除してしまい、それによって意識を失い、命を落とすのです。」と説明しています。
「医療従事者による管理が必要」
このような施術を行う部屋では酸素濃度の監視が極めて重要です。なぜなら、酸素が不足した空間でも、人はそれを感じ取れないまま意識を失ってしまい、他の人が気づいた時には手遅れの場合が多いからです。
2019年のフランス土木工学協会の資料では、「換気装置」や「リスクを理解し、自己防衛可能な訓練を受けたスタッフの配置」が最低限の安全対策だと指摘されています。
スポーツドクターのジェラール・ギヨーム氏は、2000年代にツール・ド・フランスでの使用を通じてこの療法を導入した人物ですが、「私は常に、医療環境でのみ実施すべきと訴えてきました」と語ります。
つまり、「すべてのフィットネスクラブで実施されるべきではない」ということです。せめて「医療関連の資格を持つスタッフが管理すべき」とし、事故のリスクを指摘しました。
ギヨーム医師は、「厳しい規制もなく、この療法が広まってしまったこと」を憂いています。
実際に、保健当局やフランスの最高裁はすでに「クリオセラピーは医療または準医療従事者に限るべき」とする判例を出していますが、フランス政府はまだ具体的な法整備を行っていません。
その結果、「クリオセラピー機器を購入するのに、資格の証明すら必要ない」という状況が続いており、スポーツクラブやエステ店で、気軽に導入する結果となってしまっています。
使用されたクリオセラピーのメーカーである「Cryojet」によれば、「誰でも購入できます」と明言する一方で、「酸素検知器の設置」など最低限の条件と使用講習は行っていると説明しています。

フランスではこういう冷却療法が好きな人が多くて、普段の生活でも、冷気に当たると血行が良くなるし、毛穴が引き締まって美肌にも良いからと言って、寒い日ほど窓を開けたり散歩に行く人がいて、暑さには弱いけど、寒さには強い人が多いという印象がある。(いきなり窓をバーンを全開にされて、うわー寒いよ!となること多し)特に白人に多い酒さ(赤ら顔)にとっては、冷たい空気は血管を収縮させ、炎症や赤みを一時的に抑える効果が期待されると言われているから余計冷やしたくなるんだろうね。(寒いと余計頬が赤くなる気がするけどな)正規の皮膚科でも、極低温の凍結療法(クリオセラピーより低い−196°Cでほくろやいぼを除去)が治療として行われているから、実際に効果があるのは本当なんだと思う。
でもこの事件では、クリオセラピーに問題があるような印象を受けるけど、実際はクリオセラピーの問題ではなくて、液体窒素の扱いかたの問題だよね。お祭りなんかの屋台のガスボンベによる爆発事故が、忘れた頃に再発するのと同じ問題で、用途じゃなくて意識と扱い方のほうに問題があるように思うんだ。
ポピュラーになっていろいろな場所で使われるようになったけど、窒素による酸欠は、中毒よりも亡くなる危険性が高いという怖さがちゃんと広まっていない気がする。医療目的ではないということで、扱う人に緊張感が欠けていて、新人さんや女性にひとりでボンベを交換させたり、交換後の点検をきちんとしていなかったことが原因だと思うけど、お客さん側にも、危険性が高いから信頼できる場所かどうかをきちんと見極めて選ぶべきだということをちゃんと伝えるべきだと思う。
あと関係ないけど、フランチャイズ本部が、フランチャイズオーナー個人の責任で、自分たちの責任じゃないと断言して、メーカーも誰も謝っていないのがフランスらしいというか…。確かに個人の責任かもしれないけど、2日閉鎖してすぐに営業を始めちゃうのもちょっと怖いよね。最低限の条件と使用講習は行っているとしても、それできちんと扱うのかどうかは担当者の性格にもよる気がするし。行政による点検を徹底して、危険物だという認識を徹底してもらいたいね。