
自閉症の人にもやさしい駅を目指して – SNCFの新たな取り組み
自閉症や感覚過敏者に「一息つける場所」を
このプロジェクトは、2024年4月2日に策定された「自閉症と鉄道交通に関する基本方針」に基づいて開始された、自閉症を含む神経発達症のある人々にとって公共交通機関をより利用しやすくすることを目的とした国家的な取り組みの一環です。
フランスの鉄道インフラを管理するSNCF Réseauは、この方針に従い、交通・保健・社会政策に関わる関係省庁や、自閉症支援団体などと連携しながら、「誰にとってもやさしい駅づくり」を推進しています。
SNCF Réseauのアクセシビリティ(バリアフリー)部門の専門家であるエロディ・アンドリオ氏は、「このプロジェクトは、私たちが多様な人々に配慮するという姿勢を、具体的な行動として形にしたものです」と語っています。そして、「とりわけ自閉症や精神的・認知的・心理的な困難を抱える方々にとって、駅や列車の利用は大きな不安を伴うものです。だからこそ、彼らが安心して移動できるよう支援することが重要なのです」と、取り組みの意義を強調しました。
SNCFは、駅の構造や案内表示、音や光の刺激などを見直しながら、誰もが安心して使える交通空間の実現に向けて、着実に歩みを進めています。
7㎡に詰まった、心を落ち着けるための工夫: 感覚にやさしい「静かな空間」
新たに設置されたこの「静かな空間(Espace de calme)」は、感覚過敏や不安を抱える人々、特に自閉症スペクトラムのある方々のためにデザインされました。設計には、障害のある子どもたち向けの安心・快適な玩具や教育ツールで知られるフランスの専門企業Hoptoys社が協力しています。
部屋の広さはわずか7平方メートルとコンパクトですが、その限られた空間には、心と身体を落ち着かせるためのさまざまな工夫が詰め込まれています。
- 柔らかな間接照明:まぶしさを抑え、安心感を与える光の演出
- 星空を模した天井:視線を上に向けることで落ち着きが得られる
- 色がゆっくり変わるバブルタワー:視覚的に癒されるリズム
- 卵型のリラックスチェア:包まれるような安心感
- 手で触れて楽しむ感覚パネル:触覚への刺激がストレス緩和に役立つ
この空間は最大3人まで同時に利用することができ、1回の滞在は最大2時間までと定められています。急な不安や過剰な刺激にさらされたとき、一時的に「自分を取り戻す」ための場所として設計されており、利用者にとってまさに“癒やしの避難所”となるよう意図されています。
このようなスペースの設置は、鉄道を利用するあらゆる人にとって、よりアクセスしやすく、思いやりのある社会インフラを目指す取り組みの一環といえるでしょう。
「静かな空間」は心のバリアフリー:精神的な困難を抱える人々の自立支援へ
鉄道駅は多くの人にとって日常の風景ですが、感覚過敏や精神的な不安を抱える人にとっては、騒音や人混み、アナウンス音などの刺激が過剰になり、外出や移動自体が困難になることもあります。
こうした状況に一石を投じるのが、SNCF Réseauが設置した「静かな空間」です。この取り組みについて、障害者支援団体「ヴァンセンヌの白い蝶たち(Les Papillons blancs de Vincennes)」の教育専門家セバスチャン・ボンデュー氏は次のように語ります。
「これまで公共交通では、車椅子対応や視覚障害者への配慮など、身体的な障害への取り組みは進んできましたが、精神や神経発達に関する障害は見落とされがちでした。駅は刺激が多く、彼らにとっては“耐える場所”になっていたのです。」
その上でボンデュー氏は、「静かな空間」は単なる一時避難所ではなく、「障害を持つ大人が安心して公共空間に関われる環境づくり、そして“自立”への第一歩」として重要な役割を果たしていると評価します。
誰でも利用可能:ハードルの低い設計
このスペースは、当日有効のSNCFの乗車券またはNavigoパスを持っていれば、障害者手帳(Carte mobilité inclusion:CMI)などの提示は不要で、どなたでも無料で利用できます。
そのため、自閉症に限らず、不安障害、パニック障害、偏頭痛、感覚過敏など、さまざまな症状を持つ方にとって、身近で気軽に利用できる「心の避難所」となっています。
「静かな空間」は、障害の有無に関係なく、すべての人が安心して鉄道を利用できるようにする「心のアクセシビリティ」向上への一歩となっています。フランス国内での普及が進めば、駅は単なる交通の中継点ではなく、誰にとってもやさしい“通過点”として生まれ変わるかもしれませんね。

SNCF(フランスの国有鉄道)は、ストがあったり電車が遅れたりと、日本のJRなどと比べるとお世辞にも優秀な鉄道とは言い難い。
ただフランスには、日本の新幹線と速度を競うTGV(フランスの高速鉄道)があるし、TGVのプレミアムブランドである InOuiには、Nendoの佐藤さんとコラボした車両があったり(さすがNendoがデザインしただけあって、すごくモダンで素敵な車両なんだ、これは別に記事にするね)、いろいろと工夫をしているのが楽しい。車両の外観や内装に凝ったりするところは、他の国々より日本と感覚が近い気がする。
その中でも、今回の「静かな空間」の設置は地味かもしれないけれど、優しくて画期的な工夫だと思う。パリには複数のTGVの発着駅があり、南仏(リヨン、マルセイユ、ニース、アヴィニョン)方面へ向かうGare de Lyon(リヨン駅)、西仏(レンヌ、ナント、ボルドー、ブレスト)方面へ向かうGare Montparnasse(モンパルナス駅)、北東仏(ストラスブール、ナンシー、メッス)、ドイツ方面へ向かうGare de l’Est(東駅)、ベルギー、イギリス方面へ向かうGare du Nord(北駅)、ノルマンディー地方(ルーアン、カーン)方面へ向かうGare Saint-Lazare(サン・ラザール駅)、オーヴェルニュ地方(クレルモン=フェランなど)へ向かうGare de Bercy(ベルシー駅)とたくさんの駅があるけど、どこも建物がドーム状になっているせいか、反響音が大きい気がする。今回「静かな空間」が設置された東駅は、他の駅に比較するとこぢんまりとしているほうだけど、それでもやはり人の往来は多いし、電車の発着のベルが常に鳴り響いている。感覚過敏の人にとって大きな駅というのはいつだってストレスが大きな場所だよね。個人的な話になるけど、僕も髄膜腫という病気を持っていて、大きな音がすると偏頭痛が始まってしまったり、人が多すぎる場所では目眩がしたり呼吸が苦しくなったりする。乗り物は大好きだし、実際にTGVを使う機会も多いんだけど、もしも駅で具合が悪くなってしまったらどうしようという不安がいつもあって、動悸が速くなってしまう。だから自閉症や感覚過敏者のひとたちが旅行する時のハードルの高さは痛いほどわかる。各国でバリアフリーの施設が増えてきて、ハンディキャップがある人たちへの気遣いが広まってきているのは素晴らしいことだけど、自閉症や感覚過敏者のひとたちのことまで考慮してくれる場所というのは、まだあまり存在しないのが現状だと思う。この「静かな空間」はほんのはじまりだけど、そういう非難場所があることを知っているだけで、かなり精神的に助けられるから、不安な人に安心感を与えてくれるだけでも効果は大きいと思う。これから他の駅にも設置されていくということだけど、他の施設にも、街のあちらこちらにそういった静かな避難場所があったら、いろいろな意味で繊細なひとたちが生きやすい世界になるね。設置場所が増えたらまたお知らせするけれど、大きな音や人混みが辛い人は、パリの東駅に「静かな空間」があることを覚えておいてね。